アガサ・クリスティーの小説「スタイルズ荘の怪事件」の感想です。
アガサ・クリスティーのデビュー作にして、名探偵ポワロの初登場作でもある「スタイルズ荘の怪事件」。
処女作とは思えないほど、完成度が高く謎解きの妙を楽しめます。
スタイルズ荘で起きた女主人毒殺事件。
住人みんなが怪しい行動をしている中、ポワロは真犯人を突き止められるのでしょうか?
ポワロファンは必見の第1作目です。
- 作者:アガサ・クリスティー
- 訳者:山田蘭(創元推理文庫版)
- 対象:小学校高学年~
- エログロ描写なし
- 1920年にイギリスで初版が刊行
- 日本では1937年に初版刊行
- 名探偵エルキュール・ポワロシリーズ第1作目
「スタイルズ荘の怪事件」あらすじ
「スタイルズ荘の怪事件」はアガサ・クリスティーのミステリー小説です。
この「スタイルズ荘の怪事件」がアガサ・クリスティーのデビュー作となります。
さらに、名探偵エルキュール・ポワロシリーズの第1作目でもある記念すべき作品です。
そんな「スタイルズ荘の怪事件」のあらすじを掲載します。
その毒殺事件は、療養休暇中のヘイスティングが滞在していた旧友の〈スタイルズ荘〉で起きた。被害者は二十歳ほど年下の男と婚約した旧友の継母で、凶器はストリキーネだった。粉々に砕けたコーヒー・カップ、事件の前に被害者が発した意味深な言葉、そして燃やされていた遺言。雲をつかむような事件に挑むのは、灰色の脳細胞で難事件を解決する名探偵エルキュール・ポワロ。ミステリの女王の記念すべきデビュー作が新訳で登場!
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まず「スタイルズ荘の怪事件」ではスタイルズ荘の女主人が毒殺されてしまいます。
その殺人事件の真相を解き明かすためにポワロが推理していく、というストーリーです。
語り手は、ポワロシリーズではおなじみのヘイスティング。
「ABC殺人事件」でも活躍?したヘイスティングのやや突っ走った語りが楽しめるのも「スタイルズ荘の怪事件」の特徴です。
怪しすぎるスタイルズ荘の住人たち
ミステリーあるあるかもしれませんが、「スタイルズ荘の怪事件」の出てくるのは総じて怪しい人物ばかり。
殺されたエミリー・イングルソープは資産家で、スタイルズ荘に暮らす住人は大抵がお金に困っている状態でした。
例えば、エミリー・イングルソープと結婚した20歳ほど年下の夫・アルフレッド。
エミリーが亡くなれば、順当に遺産を受け取れる人物ですね。
さらに、エミリー・イングルソープの義子であるジョン・キャベンディッシュとその弟のローレンス。
ジョン&ローレンスの兄妹は、そろいもそろって資産状況がカツカツです。
このように殺して資産を狙っていそうな人しかいない、という状況だったのでみんながみんな怪しく思えました。
また、ジョンの妻であるメアリは、エミリーが亡くなった日に2人で口論している声が確認されていました。
そして、スタイルズ荘の近所に住む毒物の権威・バウワースタイン博士は、亡くなった瞬間をスタイルズ荘の住人とともに見届けていました。
この2人は資産目的ではないものの怪しさ満点。
登場人物が少ないのに、少ない登場人物がみんな怪しすぎるので、思わず謎解きに力が入りました。
しかし意気込んだものの、わたしは犯人が全然分かりませんでした・・・。
クリスティー自らの仕事経験を活かした作品
「スタイルズ荘の怪事件」で女主人・エミリーは毒殺されて殺されます。
殺害に使われたのは「ストリキーネ」という毒物でした。
ミステリー小説で毒殺、と聞くと、何となく「ヒ素」や「青酸カリ」などを思い浮かべますが、まったく聞いたことがない毒物で少し戸惑いました。
しかし、この「スタイルズ荘の怪事件」では、このストリキーネの特徴がトリックの重要な部分を占めていました。
トリックに使われるストリキーネの特徴は専門的です。
また、事前に説明されている特徴とされていない部分があるため、少々謎解きに支障を来します。
多少ストリキーネの知識がないと、自力でトリック解決&犯人を当てるのは難しいでしょう。
(その部分に対して『アンフェアではないか』との議論もあるようです)
わたしはそこまで気にせず読み進め「それにしてもデビュー作なのにずいぶんと毒物に詳しいな~」など思っていました。
そんなアガサ・クリスティーが毒物に詳しいのもそのはず、彼女は小説家になる前に薬剤師の助手として働いていたのです!
その薬剤師の助手時代の知識・経験をフルに活用し書き上げたのがこの「スタイルズ荘の怪事件」だったのですね。
「スタイルズ荘の怪事件」の時代背景について
「スタイルズ荘の怪事件」で気になったことを時代背景からまとめてきます。
ベルギー人がイギリスにいる理由
「スタイルズ荘の怪事件」で被害者となるエミリー・イングルソープは、慈善活動としてベルギー人を保護、村に住まわせているという描写があります。
ベルギー人であるポワロも、この保護活動により村に滞在。
イングルソープ夫人の生前に「夫人の恩顧を決して忘れない」と誓い、その言葉通り、夫人殺しの犯人を追い詰めることになります。
・・・と、ここまでは良いのですが、わたしは「ベルギー人がイギリスの村に滞在している」理由が分かりませんでした。
本編と関係がないのでそこまで気にしていなかったこともあります。
しかし、その理由は「解説」で説明されていました。
まず、この「スタイルズ荘の怪事件」では、イギリスは戦争中にあるとたびたび触れられています。
同作が執筆されたのは、刊行される4年前の1916年。
よって、この戦争は第一次世界大戦となります。
第一次世界大戦において、ベルギーはドイツから侵攻を受け、占領されてしまいます。
ベルギーでは多くの民間人が犠牲となり、亡命するものや国外に追放されたものなどがヨーロッパ各地に向かいました。
その中でベルギーに同情的で多くの支援をしたのがイギリスだったのです。
こういったベルギー国内の事情から、ポワロはイギリスに亡命してきたのですね。
そして、ベルギーの警察時代から活躍していたその頭脳を活かし、ヨーロッパを股にかけ名探偵として活躍していきます。
カントリーハウス
「スタイルズ荘の怪事件」の舞台となったスタイルズ荘は『カントリーハウス』と呼ばれる建築物です。
カントリーハウスとは、イギリス(イングランド)の貴族など上流階級が田舎に建てた邸宅のこと。
とにかく広くて、邸宅内に使用人の部屋まであるのが特徴です。
日本人の感覚からしたら、普通にお城レベルの邸宅ですが、100年ほど前のイギリス貴族はこんな家に住んでいたのですね。
ちなみに、現存しているもののうち、映画「ハリー・ポッター」のホグワーツ魔法魔術学校のロケ地になったものもあります。
「スタイルズ荘の怪事件」には、分かりやすくするために邸宅の一部の見取り図が掲載されていますが、それを見ただけでも邸宅の広さが確認できます。
「解説」ではこの「スタイルズ荘の怪事件」を『カントリーハウス・マーダー』と表しています。
また、クリスティー作品には同じくカントリーハウスが舞台のものが多いとのこと。
たしかに、ポワロ作品では「アクロイド殺害事件」もカントリーハウスでの殺人事件でした。
カントリーハウスは時代とともに廃れ、取り壊されたものも多数あります。
しかし、現在も少なからず使われているものもあるとのことです。
良い意味で時代を感じるカントリーハウスは、ミステリーの舞台としてはピッタリでした。
物語を楽しむには。物語の背景を知るのも大切ですね。
ポワロの初お目見え作をチェック
「スタイルズ荘の怪事件」は、ある意味、意外な犯人が明かされて事件が解決します。
そして、他のポワロ作品にもつながる、ちょっとした男女のロマンスとともに幕を閉じました。
この後味の良さもポワロシリーズの良さではないでしょうか?
また、この「スタイルズ荘の怪事件」に登場する、スタイルズ荘に住み薬剤師として働くシンシア・マードックは、薬剤師の助手として働いていたアガサ・クリスティーの投影なのでは?とも思いました。
「スタイルズ荘の怪事件」はデビュー作ながらも卓越したストーリー展開で面白かったです。