「むかしむかしあるところに、死体がありました。」は昔話パロディの皮を被った本格ミステリーだった!

本を読む子ども 小説

2年ほど前から書店に行くとイヤでも目に入る小説がありました。

その名も「むかしむかしあるところに、死体がありました。」。

タイトルのインパクトもさることながら、表紙絵のシュールさも目を惹きます。

少し怖いもの見たさで読んでみた「むかしむかしあるところに、死体がありました。」。

スゴく面白かったです。冗談抜きで、本格ミステリーを味わえる一冊でした!

ミステリー好きはもちろん、本格ミステリー初心者にも読みやすい「むかしむかしあるところに、死体がありました。」の感想をお伝えしていきます。

「むかしむかしあるところに、死体がありました。」基本情報
  • 対象:中学生~
    • 性的な描写はほぼなし
    • グロテスクな描写あり
  • 昔話をベースにした本格ミステリー
  • 2020年本屋大賞ノミネート
  • 発売日:2019年4月
  • 5編の短編が収録

「むかしむかしあるところに、死体がありました。」のあらすじ

「むかしむかしあるところに、死体がありました。」は青柳碧人さんが2019年に発表したミステリー小説です。

まず目を惹くのはそのタイトル。

「むかしむかしあるところに・・・」という昔話の定番の書き出しから、一転「死体がありました。」というショッキングな展開。

起承転結の「起」からいきなり「転」に飛ぶ唐突さは二度見せずにはいられませんよね。

そんな「むかしむかしあるところに、死体がありました。」のあらすじはこちら。

昔ばなし、な・の・に、新しい!鬼退治。桃太郎って……え、そうなの?大きくなあれ。一寸法師が……ヤバすぎる!ここ掘れワンワン。埋まっているのは……ええ!?「浦島太郎」や「鶴の恩返し」といった皆さんご存じの《日本昔ばなし》を、密室やアリバイ、ダイイングメッセージといったミステリのテーマで読み解く全く新しいミステリ!「一寸法師の不在証明」「花咲か死者伝言」「つるの倒叙がえし」「密室龍宮城」「絶海の鬼ヶ島」の全5編収録。

楽天ブックス:「むかしむかしあるところに、死体がありました。」

もしも、昔話をミステリーにしたら・・・

「むかしむかしあるところに、死体がありました。」は昔話をベースにした本格ミステリーです。

あらすじにもある通り、

  1. 一寸法師
  2. 花咲かじいさん
  3. 鶴の恩返し
  4. 浦島太郎
  5. 桃太郎

といった誰もが知る日本の昔話の世界で殺人事件が起こります

「昔話でそんなことをするなんて不謹慎だ!」と怒りを感じる方に同書はオススメできません。

しかし、わたしのように「昔話×ミステリー、面白そう!」と感じる方は読んで損はありません。

なぜなら「むかしむかしあるところに、死体がありました。」はパロディの皮を被った本格ミステリーだからです!

正直に言いますと、わたしは同書を読むまでどうせパロディだと思って舐めていました。

読み始めたときは「昔話をパロディにしたミステリー、何だそれ?」くらいの気持ちです。

けれども、その侮った態度は冒頭に掲載されている「一寸法師の不在証明」で改めざるを得ませんでした。

純粋に面白かったからです。

なめていて、すみませんでした!

したがって、同書を読む前のわたしのようにタイトルや昔話パロディで食わず嫌いをしているミステリーファンがいましたら、面白いから読むべきと進言します!

昔話に忠実であれ

本格ミステリー「むかしむかしあるところに、死体がありました。」は、もともとの昔話に対して完璧に忠実です。

すべての話で、元の設定の中だけで殺人事件が起こります。

あらすじや細かい設定までちゃんとおさえており、ミステリーに都合の良いように元の設定を改変するといったことはありませんでした。

だからこそ「そこに目を付けたのか!」という驚きにも出会えます。

その観点の面白さが個人的に一番表れていると思ったのは4つ目の「密室龍宮城」です。

シリーズ第2弾は海外童話

この「むかしむかしあるところに、死体がありました。」にはシリーズ第2弾もあり、先日発売されました。

その名も「赤ずきん、たびの途中で死体と出会う。」。

今度はタイトルにもあるように「赤ずきんちゃん」など海外童話がベースのミステリーです。

そう遠くないうちに、同書の感想記事も書きたいと思います!

<ネタバレなし>各話のオススメポイント

ここからは「むかしむかしあるところに、死体がありました。」に収録されている5つのお話のオススメポイントをご紹介していきます。

お話のさわりの部分は書きますが、ネタバレはしないので安心してください。

「一寸法師の不在証明」:一寸法師

「一寸法師」おさらい
  1. 子どもがいない老夫婦が、ある日、1寸(約3cm)の男の子を授かる
  2. 老夫婦は男の子を「一寸法師」と名付け、愛情込めて育てる
  3. 月日が経ち、一寸法師は立身出世のため都へ行く
  4. 都へ着くと身体の小ささからお姫様に可愛がられ、手元に置かれる
  5. そんな中、お姫様が出先の帰り道で鬼に襲われる
  6. その窮地を一寸法師が救い、鬼の宝・打ち出の小槌で身体が大きくなる
  7. 勇敢さが認められた一寸法師はお姫様と結婚、幸せに暮らす

「一寸法師の不在証明」のお話は、いきなり一寸法師と鬼が対峙する佳境から始まります。

元の昔話の通り、鬼を退治し、打ち出の小槌で大きくなった一寸法師。

そうしてお姫様と結婚し、めでたしめでたし・・・、とはなりません!

めでたし・・・、の後もお話は続き、ある殺人事件が発覚します。

この「一寸法師の不在証明」の語り手は、一寸法師が結ばれるお姫様の付き人・江口。

江口が突然現れた謎の男・黒三日月から殺人事件の発生を知らされたことで、物語は一気にキナ臭くなります。

「一寸法師の不在証明」での一寸法師は殺人事件の容疑者

語り手・江口が探偵役となり事件を捜査していく探偵ものミステリーでもあります。

そしてタイトルが示す通り、一寸法師の「不在証明」を巡ってお話が展開していきます。

不在証明とは、アリバイのこと。

事件が起きたとき、容疑をかけられた人がその現場にいなかったことの証明です。

お話では一寸法師は確実に怪しい存在ですが、確固たるアリバイがありました。

その一寸法師のアリバイをいかに崩していくかが「一寸法師の不在証明」の肝となります。

最初に収録されているお話ということもあり、ザ・王道なミステリーです。

「花咲か死者伝言」:花咲かじいさん

「花咲かじいさん」おさらい
  1. 優しい老夫婦のもとに、ある日、野良犬が迷い込む
  2. 老夫婦は野良犬を「シロ」と名付け、可愛がった
  3. そんなある日、シロが畑のある1点で吠るのでおじいさんがその場を掘ると、土の中から金銀財宝が現われた
  4. それを見て財宝に目がくらんだ隣の意地悪じいさんが、シロを奪い同じことをさせるも土からは石しか出なかった
  5. 意地悪じいさんは怒り、シロを殺してしまう
  6. 老夫婦は悲しみ、シロの遺体を埋め、その上に松の木を植えた
  7. 植えた松の木は1日で大木に育ち、老夫婦は松の木でシロの好きだった餅をつくため杵と臼を作った
  8. シロを埋めた松の木で作った杵と臼で餅をつくと小判があふれた
  9. それを見た意地悪じいさんは杵と臼を奪い餅をつくも、中から出てきたのは虫やは虫類だった
  10. 意地悪じいさんは怒り、杵と臼を燃やしてしまう
  11. 老夫婦は悲しみ、杵と臼を燃やした灰を持ち帰る
  12. その灰が風に乗り桜の枝にかかると、季節でもないのに花が咲いた
  13. 周囲にはやし立てられ桜の木に灰をかけ花を咲かせているところをたまたま殿様が目にする
  14. 殿様は優しいおじいさんを気に入り、褒美をやる
  15. 意地悪じいさんも真似をして桜の木に灰をかけるが、花は咲かず嘘つきと牢屋に入れられてしまう

↑しっかり書いたらとても長くなってしまいました・・・。

「花咲か死者伝言」は、おじいさんが桜の木に花を咲かせるクライマックスからお話が始まります。

語り手は犬。

しろの亡き後に同じような形で現われたので次郎(じろ)と名付けられます。

個人的に、次郎は一人称が「おいら」なところが可愛くて好きです。

この次郎が老夫婦の家にもらわれて間もなく、おじいさんが死体となって発見されます。

せっかくのハッピーエンドだったのに、速攻で死体となって発見されるおじいさん・・・。

しかし、そのおじいさんの周囲には花が咲き乱れていました。

タイトルの死者伝言はダイイングメッセージのこと。

次郎はその咲き乱れた花を頼りに、おじいさんを殺した犯人を突き止めていきます。

1つ目の「一寸法師の不在証明」は容疑者のアリバイ崩しがテーマでした。

その一方「花咲か死者伝言」は犯人捜しがテーマとなっています。

次々と怪しい人物が登場し、最後に次郎が辿り着いた犯人とは?

犬のおまわりさんよろしく、刑事物のミステリーを読んでいるようなお話でした。

「つるの倒叙がえし」:鶴の恩返し

「鶴の恩返し」おさらい
  1. ある冬の日、一人暮らしの男の家を美しい女性が訪れる
  2. 「一晩泊めて欲しい」と頼む女性を男は受け入れる
  3. 女性は止めてもらったお礼に機を織りたいと申し出る
  4. しかし「機織りをしているときは中を見ないで欲しい」と頼み、奥の部屋に消える
  5. 男は最初は約束を守ったが、どうしても見たくなり中を覗いてしまう
  6. すると、そこあったのは一羽の鶴が自分の羽根で機を織っている姿だった
  7. 姿を観られた鶴は悲しみ、織られたばかりの反物を残して飛び去る
  8. 鶴は数日前、罠にかかっているところを男に助けられたため、恩返しに来たのだった

「つるの倒叙がえし」は、語り手の弥兵衛が借金をしている庄屋を殺すところから始まります。

つまり、犯人=語り手という倒叙形式のミステリーです。

倒叙ミステリーは、犯人がどうやって犯行を露見させないか・犯人と悟られないようにするかが肝となります。

テレビドラマを例に挙げると「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」シリーズの形式です。

しかし、この「つるの倒叙がえし」は語り手がもう一人登場します。

恩返ししにくる鶴のつうです。

もちろん、つうは弥兵衛が殺人を犯したことを知りません。

しかも犯行直後というナイスタイミングで普通に恩返ししに来ます。

この弥兵衛・つうという二人(一人と一羽)の交互の語りによりお話は進みます。

この先は「鶴の恩返し」と倒叙ミステリーが混ざり合って展開するのですが、読んでいて非常に胸糞が悪くなります。

けれどもそのイライラが頂点に来たところで、スッキリとお話が完結します。

そして、最後の最後にある仕掛けがあります!

ちなみに「倒叙」という言葉には物事の時間をさかのぼって書かれた話と言う意味もあったりします。

わたしはあっさりとだまされ、読み返してしまいました。

「密室龍宮城」:浦島太郎

「浦島太郎」おさらい
  1. 浦島太郎は母親と二人で暮らす善良な漁師の青年
  2. ある日太郎は、浜辺でこどもにいじめられていた亀を助ける
  3. 亀はお礼に太郎を海底の宮殿・龍宮城へ連れて行く
  4. 龍宮城の主人・乙姫らの歓待を受け、太郎は三日三晩豪遊する
  5. 家に帰るとき、太郎は乙姫から「絶対に開けてはいけない」玉手箱を受け取る
  6. 太郎は元いた浜辺に戻るが、周囲の景色は様変わりしていた
  7. 龍宮城の3日は外の世界の300年に相当した
  8. 悲嘆に暮れた太郎は玉手箱を開けてしまい、300歳分年を取ってしまう

「密室龍宮城」は、浦島太郎のお話と同じく、太郎がいじめられている亀を助けるところから始まります。

亀はお礼に太郎を龍宮城へ招待し、乙姫らの歓待を受けるのです・・・。

と、ここまでは元の昔話通りです。

しかし、このお話のタイトルは「密室龍宮城」。

タイトルからも分かるように、太郎が訪れた龍宮城で密室殺人が起こります

殺されるのは「おいせ」という女性。お話の中で言及されていませんが、おそらく伊勢エビです。

時代はついに伊勢エビまでもが密室で殺されるようになったのですね。

伊勢エビなので殺「人」事件ではないかもしれませんが・・・。

とにかく、おいせは密室状態の部屋で死体となって発見されます。

アリバイもあり、私怨もないことから語り手でもある太郎が探偵役となり、龍宮城で発生した密室殺人を解き明かしていくのですが・・・。

まず、龍宮城で密室殺人という設定がミステリー好きとしてはグッときます。

「絵にも描けない美しさ」と歌われる龍宮城はオリジナルの描写も相まって非常に魅力的です。

また「龍宮城では時の経過が遅い」という設定を上手く使った展開には脱帽でした。

序盤からピースが次々と提示され、ラストに向け見事にパズルが完成していくさまを味わえる。

本格ミステリーの神髄を味わえるお話です。

「絶海の鬼ヶ島」:桃太郎

「桃太郎」おさらい
  1. 桃太郎は桃から生まれた元気な少年
  2. ある日、人里を襲う鬼を退治するため鬼ヶ島へ向かう
  3. 道中、きびだんごを分け与えた犬・猿・キジが仲間になる
  4. 犬・猿・キジの活躍もあり、鬼を成敗した桃太郎
  5. 奪った宝物を返してもらい、人里を金輪際襲わないと約束させる

どうしてミステリーの世界では、孤島で人々が殺し合ってしまうのでしょう。

ただ、この「絶海の鬼ヶ島」で殺し合うのは鬼たちですが。

このお話を読みながら、ついに人間だけでなく鬼も孤島で殺し合う時代になったのかと、変な感慨深さを感じてしまいました。

「絶海の鬼ヶ島」は、海に浮かぶ孤島・鬼ヶ島で連続殺人が起こるというお話です。

完璧ではありませんがほぼクローズドサークルのミステリーとなっています。

※クローズドサークルとは、外界との行き来ができない閉じられた環境のこと。

お話の舞台は、桃太郎が鬼退治に来てから数十年後の鬼ヶ島。

語り手は10歳の鬼の少年・鬼太です。

幼なじみとケンカをし、両成敗という掟から罰を受けていた鬼太。

その幼なじみが死体で発見されたことを皮切りに、鬼ヶ島で次々と仲間の鬼が殺されていきます。

手がかりがないまま仲間が殺されていくうち、疑心暗鬼に取り憑かれ発狂していく鬼も。

鬼が疑心暗鬼って面白いですね。

そして最終的に残ったのは・・・。

というお話ですが、ミステリー的には最終的に犯人しか残らないパターンor犯人もろとも全滅が一般的です。

さて、この「絶海の鬼ヶ島」はどちらのパターンでしょう?

語り手・鬼太は生き残れるのか?

そして、惨劇を繰り広げているのは誰なのか?

被害者の視点で描かれているので、緊迫感たっぷりに進んでいくお話が魅力です。

さらに「絶海の鬼ヶ島」には、他の編で収録されているお話とのリンクも示唆しています。

どこにどんなふうに登場するのか、そう想像しながらも楽しめます。

花緒の感想

「むかしむかしあるところに、死体がありました。」の魅力は、全5編すべて違ったタイプのミステリーが1冊で楽しめることだと思います。

昔話のパロディですが、元の設定を華麗に活かしたトリックの数々は読んでいてただただ楽しかったです。

自分で楽しむのはもちろん、テーマのインパクトから他人にも勧めやすい一冊ではないでしょうか?

新しい形の本格ミステリーを味わいたい方はぜひ読んでみてくださいね♪

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