★2021年10月に実写映画化が決定しました★
冬はとにかく乾燥の季節。ちゃんとケアしないと手肌がガサガサに乾いてしまいます。
そんな手肌のようにケアしないと乾燥するのは心も同じです!
何かとツライこのご時世は、美しい感動作によって心に潤いを与えましょう!
そんなガサガサ心を潤いで満たす「そして、バトンは渡された」をご紹介します。
- 中学生~
- エロ・グロ描写なし
- 難しい表現なし
- 2018年2月刊行
- 2019年本屋大賞受賞作
- 1人の少女の成長を通した人間ドラマ
「そして、バトンは渡された」のあらすじ
「そして、バトンは渡された」は瀬尾まいこさんが手がけた小説です。
2019年の本屋大賞を受賞したことで大きな話題を集めました。
本屋大賞といえば、今では直木賞などよりも大きな注目を浴びていますよね。
わたしはこれまで瀬尾まいこさんの本を手に取ったことがありませんでしたが、本屋大賞受賞の文言に惹かれ思わず読んでしまいました。
やはり本屋大賞というブランドは大きいですよね。
そんな「そして、バトンは渡された」のあらすじを掲載します。
幼い頃に母親を亡くし、父とも海外赴任を機に別れ、継母を選んだ優子。
その後も大人の都合に振り回され、高校生の今は二十歳しか離れていない?父?と暮らす。
血の繋がらない親の間をリレーされながらも、出逢う家族皆に愛情をいっぱい注がれてきた彼女自身が伴侶を持つときーー。大絶賛の2019年本屋大賞受賞作。
解説・上白石萌音
楽天ブックス「そして、バトンは渡された」より
2020年9月に文庫版が発売スタートしました。
その文庫版では、女優の上白石萌音さんが解説をしています。
何度も家族が変わっても「不幸ではない」主人公
私には父親が3人、母親が2人いる。
家族の形態は、17年間で7回も変わった。
これは「そして、バトンは渡された」の主人公・森宮優子の境遇を表した劇中の文です。
この分だけ見ると、なかなか壮絶な人生を歩んでいるように思いますよね。
しかし優子は、自らの境遇について「全然不幸ではない」と感じています。
実の親と離れ、何度も引っ越し、何度親が変わっても、優子は幸せでした。
優子はどの親からも愛されていたからです。
どの親も優子を愛し、優子はそんな愛を受けすこやかに成長しました。
物語はそんな風に育った優子が高校3年生になった時から始まります。
2章はいつ始まるのだろう・・・
「そして、バトンは渡された」は2章構成の小説です。
しかし、その2章目は物語の4分の3を過ぎてようやく始まります。
tあこれから読まれる方は、ちゃんと2章があるのでご安心ください。
タイトル「バトン」の意味
「そして、バトンは渡された」は、読後にそのタイトルの意味が分かりました。
タイトルの「バトン」は、みなさんの推測通り、まるでリレーのバトンのようにいろいろな親に渡されてきた主人公の優子です。
そんな優子が「渡された」相手。
渡された、だと過去形になりますよね。
ネタバレになるので詳細は控えますが、この「そして、バトンは渡された」は、バトン=優子が最後に渡されるまでを描いた小説です。
もっと言えば、優子はもうおそらく誰にも渡されないバトンとして最後の相手に託されます。
そして、優子はゴールテープを切るのです。
ラストにこのタイトルの意味が分かり、不覚にも涙があふれました。
いやもう、本当に良い話です。誰に対してもオススメできる作品です。
「そして、バトンは渡された」はあくまでフィクションなのか
本作のレビューに「こんなことは現実にあり得ない」と書かれている方もいました。
しかし、わたしはこの「そして、バトンは渡された」はフィクションでしかあり得ない話ではないと思います。
いや、現実にもあり得る話だと信じたいです。
誰もが誰かに無償の愛を捧げることはできます。
その誰かが、たとえ血のつながらない子どもでも同じことだと思います。
たしかに、現実はそんなに甘くないかもしれません。
実際に血がつながらない子どもを虐待し死なせてしまう親もいます。
けれども、その現実がすべてではありません。
不幸や悲劇は目につきやすく、幸せや喜劇は見過ごしてしまいがちです。
わたしたちの目に見えないところでは、この「そして、バトンは渡された」の優子のような境遇でも幸せに暮らしている人もいるのかもしれません。
「そして、バトンは渡された」は、そう思わせてくれる小説でした。
<ネタバレあり>そんな簡単に養子になれるの?
「そして、バトンは渡された」は、血のつながらない親の元を主人公・優子が渡り歩いていくお話です。
しかし、実際、そんな簡単に養子になれていけるのでしょうか?
というわけで、気になった日本の養子事情について調べてみました。
そもそも養子とは
まず養子には、
- 特別養子縁組
- 普通養子縁組
の2種類があります。
特別養子縁組は、これまでの親との親子関係が解消されて、養親とのみ親子関係が結ばれるようになります。
特別養子縁組は原則15歳未満の子どもとしか結べないのが特徴です。
一方の普通養子縁組は、これまでの親との親子関係を継続させつつ、養親とも親子関係を結ぶこと。
普通養子縁組の場合は、養親より年下であれば子どもの年齢制限はありません。
また、いずれも養親は成人であることが必要です。
特に特別養子縁組では、最低片親が25歳以上であることも条件となります。
養子縁組制度を「そして、バトンは渡された」に当てはめる
「そして、バトンは渡された」の場合は、実の父親が再婚して梨花さんが新しい母親となりました。
おそらく、この時点で優子と梨花さんは養子縁組を結んでいます。
特別か普通かは明言されていないため分かりませんが、おそらく普通養子縁組でしょう。
その後、ブラジルに行く父親と別れ、養親である梨花さんに引き取られた優子は梨花さんと暮らすことになります。
この時、名字が実の父親の「水戸」から、梨花さんの「田中」に変わりました。
これは梨花さんが父親と離婚したため名字が戻り、引き取られた優子の名字も変わったということですね。
それからは梨花さんの再婚によって「泉ヶ原」「森宮」と名字が変わっていきます。
法律上、優子は梨花さんの子どもなので、梨花さんの名字が変われば優子の名字も変わっていったと考えられます。
子連れ再婚で養子縁組を結ぶには
優子は実の父親が梨花さんと再婚したことにより梨花さんの養子となります。
この子連れ再婚での養子縁組は意外と簡単にできるようです。
まず、相手の連れ子を養子にするには、
- 養子縁組届(市区町村役場でもらえる)
- 養子・養親それぞれの戸籍謄本(本籍地なら不要)
- 本人確認書類
が必要です。
この書類たちを、養親あるいは養子の本籍地などに提出します。
手続きは基本これだけです。
ただ、再婚での養子縁組は、
- 婚姻届
- 養子縁組届
の順に届けないと家庭裁判所の判断待ちになってしまうので、少し時間がかかります。
最初から「子連れ再婚ですよ~」となればスムーズなのですね。
ちなみに、養子縁組を行うメリットとしては再婚相手と子どもが同じ名字を名乗れること。
優子の場合は最初は父親の名字「水戸」を名乗っていましたが、離婚後は梨花さんの「田中」を名乗っています。
養子縁組を結ばなくても再婚相手の名字を名乗ることはできますが、家庭裁判所への申請などいろいろ面倒。
よって、優子は普通養子縁組で梨花さんの養子になったと考えられます。
その後、梨花さんが次々離婚しても優子の名字は新しい父親の名字のままでした。
つまり優子は2番目の父親・泉ヶ原さんや3番目の父親・森宮さんとも普通養子縁組を結んでいることになります。
連れ子として養子になるのはそこまで難しくなさそうなので、この流れは自然だったのでしょう。
花緒の感想
ホラーやミステリーが好きなわたしにとって「大人の都合で何度も親が変わる少女」なんて、もう不幸のオンパレードの展開しか想像できませんでした。
ミステリーだったら、散々いじめ抜かれた主人公がいじめてきた人たちに復讐していく話になるところです。
「そして、バトンは渡された」は、そんな血みどろに汚れているわたしの心をまっさらにしてくれるような温かい小説でした。
結末はもちろんハッピーエンドです。(ネタバレですね、すみません)
読みおわった時に「ああ、やっぱり読書っていいな・・・」と思えた作品でした。
何となく手に取った作品ですが、とんでもない良作に出会えて嬉しい限りです。
2020年9月に文庫版が発売されました!