原田マハさんの小説「ハグとナガラ」の感想です。
季節ごとに旅に出る、大学時代の同級生2人の旅を描いています。
楽しいことだけじゃない、辛いこともまっすぐに描かれた約20年に亘る女性2人の旅路に注目です。
- 作者:原田マハ
- 対象:小学校高学年~
- エログロ描写なし
- 2020年10月に文集文庫より刊行
- 文庫オリジナル
「ハグとナガラ」について
「ハグとナガラ」は原田マハさんの連作短編小説です。
この「ハグとナガラ」のテーマは『女2人旅』。
大学時代の同級生である『ハグ』と『ナガラ』が日本各地を旅する様子を描いた旅小説です。
まずは、そんな「ハグとナガラ」のあらすじを掲載します。
どこでもいい。いつでもいい。
一緒に行こう。旅に出よう。
人生を、もっと足掻こうーー。恋も仕事も失い、絶望していたハグ。突然「一緒に旅に出よう」と大学時代の親友ナガラからメールが届いた。以来、ふたりは季節ごとに旅に出ることに。
ともに秘湯に入り、名物を堪能し、
花や月を愛でに日本全国駆け巡る、
女ふたりの気ままな旅。気がつけば、四十路になり、五十代も始まり……。
人生の成功者になれなくても、自分らしく人生の寄り道を楽しむのもいい。心に灯がともる六つの旅物語。
文庫オリジナル短編集です!(解説・阿川佐和子)
―Amazon.co.jp
主人公は、語り手でもある『ハグ』こと波口喜美(はぐち・よしみ)と、その旅の相棒『ナガラ』こと長良妙子(ながら・たえこ)のコンビ。
「ハグとナガラ」では、そんな2人の30代から50代にかけての旅模様を描いています。
6つの短編ごとに2人はどんどん年を取り、それに伴い取り巻く環境も様変わりしていきます。
それでも2人で旅に出る、そんな2人の強い絆を描ききったストーリーでした。
小説は「ハグとナガラ」2人と同年代の40~50代の女性向けですが、20代のわたしが読んでも十分面白かったです。
「ハグとナガラ」感想・あらすじ
「ハグとナガラ」の感想・あらすじです。
『女性2人』という関係の尊さ
「ハグとナガラ」の良さは、主人公である『ハグ』と『ナガラ』の関係性です。
大学時代の同級生で、卒業後は東京・大阪の会社にそれぞれ就職。
離ればなれになっても2人の関係は続いていました。
2人が連れだって旅に出るようになったきっかけはハグの失職でした。
会社での仕事も人間関係も恋人も全て上手くいかなくなり、途方に暮れていたハグ。
そんなハグに再び前を向かせたのが、ナガラの『旅に出よう』というメールでした。
それから2人は年に数回ペースで旅に出るようになり、ハグもフリーで仕事を始め、人生の再スタートを切れるようになりました。
小説の冒頭で説明される、この2人の関係性だけでも良いですよね。
東京・大阪と距離があることもあり、ベタベタせず、しかし相手のことを最大限思いやる。
そんな大人の友人関係の尊さがずっと描かれる小説でした。
2人それぞれの約20年
「ハグとナガラ」は6つの連作短編からなり、短編ごとに月日が経過していくのが特徴です。
1編目の『旅を諦めた友と、その母への手紙』では30代でしたが、6編目『あおぞら』では50代後半と約20年が経過します。
そして、その約20年の中で、2人の人生は大きく変化。
20年同じ人生というのは、逆になかなかありませんが。
ただ、この「ハグとナガラ」で珍しいと思ったのが、2人とも独身の、いわゆるキャリアウーマンであること。
女性2人の人生を描く、というような小説では、大抵どちらかに(もしくはどちらにも)家庭があることがほとんどです。
キャリアウーマンと主婦の時間のすれ違いを描いた作品になりがちかと思います。
しかし「ハグとナガラ」は2人ともバリバリ働く女性。
この設定は、まさに時代を反映している今時な感じでした。
そもそも、今、女2人旅ができるのは独身でバリバリ働く女性くらいかもしれません。
家庭を持ったり、子どもがいたりしなくても、2人の人生はドラマティックです。
特にハグの人生には、途中から母の介護という大きなイベントが到来します。
認知症になった母親との2人暮らし、そんな中でも仕事を続けなかればならない。
旅の楽しさや開放感を描けば描くほど、日常とのギャップを感じました。
また、語り手ではないナガラの人生にも変化は訪れます。
30代後半から50代後半にかけての2人の女性の約20年間を描く、この「ハグとナガラ」はそんな小説でもありました。
日常から離れる意味
「ハグとナガラ」は旅を描いた小説なので、当然、観光地や宿泊施設の様子が描かれます。
その出てくる描写はどれも魅力的で、読んでいるだけでも旅気分になれました。
わたし自身は出不精なので、泊まりの旅などほとんどしたことがありません。
それでも、この「ハグとナガラ」を読んだら旅に出てみたいと思えるのだから不思議です。
また、この小説を読むと、旅に出て、日常から離れる意味を考えさせられました。
何か楽しみや息抜きがないと、人生、そこまで頑張り続けられないですよね。
ずっと日常に潜ってたら、溺れてしまいます。
旅に出て、非日常に触れることで、息継ぎができる。
「ハグとナガラ」にとって、旅とはそんな存在なのだろう、とわたしなりに感じました。
『人生を、もっと足掻こう』という言葉の力強さを、読み終えたときに感じます。
200ページ弱の短い小説なので、まさに旅先に持って行くのにピッタリかもしれません。
ここまで「ハグとナガラ」の感想でした。