東野圭吾さんの小説「危険なビーナス」の感想です。
弟の失踪を機にこれまで知らなかった家族の一面が明らかになっていくミステリー小説です。
弟の婚約者を名乗る謎の女性に振り回されつつ、過去と現在、2つの事件の真相を解き明かします。
ドラマ化もされた人気作です。
- 作者:東野圭吾
- 対象:中学生~
- エログロ描写なし
- 2016年8月に講談社より刊行
- 2019年8月に文庫化
- 2020年10月からTBSにて連続ドラマ化
「危険なビーナス」について
「危険なビーナス」は東野圭吾さんの小説です。
弟の失踪を機に、資産家の相続問題や秘密の研究に巻き込まれていくミステリーとなっています。
『弟の婚約者』を名乗る美女と弟の行方を捜すうちに、見えてきた過去の事件の真相とは?
そんな「危険なビーナス」のあらすじを掲載します。
惚れっぽい独身獣医・伯朗が、新たに好きになった相手は、失踪した弟の妻だった
恋も謎もスリリングな絶品ミステリー!
「最初にいったはずです。
彼女には気をつけたほうがいいですよ、と」独身獣医の伯朗のもとに、かかってきた一本の電話–「初めまして、お義兄様っ」。弟の明人と、最近結婚したというその女性・楓は、明人が失踪したといい、伯朗に手助けを頼む。原因は明人が相続するはずの莫大な遺産なのか。調査を手伝う伯朗は、次第に楓に惹かれていくが。
危険なビーナス―Amazon.co.jp
東野圭吾さんといえばミステリー。
特に社会派ミステリーの妙手として知られています。
この「危険なビーナス」も社会派ミステリーですが、他の作品と比べてコメディ要素が強め。
とにかく美女に目がない、女好きの主人公の欲望が(心の中で)さらけ出されているので、シリアスな展開でも緊張感がない、不思議なストーリーとなっています。
2020年に実写ドラマ化
「危険なビーナス」は2020年10月から12月まで、TBS・日曜劇場において全10話で実写ドラマ化されています。
主演の手島伯朗は妻夫木聡さん、ヒロインの楓は吉高由里子さんが演じました。
日曜劇場でのドラマ化ということで、その他のキャストもディーン・フジオカさん、染谷将太さんなど豪華キャストです。
「危険なビーナス」あらすじ&感想
この「危険なビーナス」は名家の遺産争い×現代医療という2つの要素を掛け合わせたミステリーです。
また、主人公の伯朗は正義感が強い人物ではあるものの、ただの良い人ではない、非情に人間くさい人物として描かれています。
そんな「危険なビーナス」の感想をあらすじとともに紹介します。
没落名家の遺産争い
「危険なビーナス」の主人公・伯朗は、弟の失踪によって、それまで疎遠だった義理の父親の一族・矢神家と関わることになります。
伯朗と弟・明人は異父兄弟。
義理の父親は弟の父親ではありますが、伯朗とは血のつながりがありません。
また、伯朗が大学生だった16年前に母親は事故で死亡。
明人とは仲は悪くないものの、9才という年の差から疎遠でした。
血縁者である母親が亡くなり、弟とも疎遠だったため、母親の再婚相手とその一族である矢神とはまったく交流がありませんでした。
そんな矢神家の面々や屋敷の様子はなんとも言えない良さがありました。
没落しかけているものの名家であることには変わりない。
親戚はどの人もくせ者ぞろい。
さらに、矢神家の現当主であり伯朗の母の再婚相手、明人の父親である康治は末期ガンで間もなく亡くなりそう。
そんな康治の遺産を受け継ぐことになる1人息子・明人が失踪中。
とんでもなく事件の匂いしかしません。
没落名家の資産争い、と聞くとアガサ・クリスティーなど古典ミステリーの定番ですが、その面白さは十分現代にも通じます。
ただ、遺産争いを楽しみにしすぎると、結末には肩透かしを食らうかもしれません。
わたし自身、ドロドロの骨肉争いを期待していたところがあったので結末には拍子抜けしました。
読みやすい『医療ミステリー』としても
「危険なビーナス」は遺産争いの点から見ると物足りなさを感じますが、『サヴァン症候群』がテーマの医療ミステリーとしては本格的です。
『サヴァン症候群』は実存する病気です。
精神障害や知能障害を持ちながら、ごく特定の分野に突出した能力を発揮する人や症状を言う。
<中略>
その能力については特に規則性や傾向はありませんが、○月×日の曜日をすぐ当てられる、膨大な書籍を1回読むだけですべて暗記できる、一度聞いただけの曲を最後まで間違えずに弾ける、航空写真を一瞬見ただけで描き起こせる等、並外れて高い暦計算、音楽、美術等に関する記憶力・再現力が特徴といえます。一方、それ以外の学習能力が劣っている点も特徴です。
サヴァン症候群 e-ヘルスネット
『サヴァン症候群』は自閉スペクトラム症候群の方に多く見られる症例で、先天的に持っている場合が多いとのこと。
しかし、中枢神経の疾患により、後天的にサヴァン症候群が発現する場合もあるとされています。
この『サヴァン症候群』と、画家だった伯朗の実の父親との関係がこの「危険なビーナス」の核となっていました。
亡くなる直前に父親が描いていた不思議な絵。
その秘密が30年以上の時を超え、伯朗の前に姿を現します。
「危険なビーナス」はそんな1枚の絵に魅了された人たちの物語、と言っても過言ではありません。
ただ、そんな核となる部分が上手く隠されているので最後の方まで気付きませんでした。
人間くさい主人公
「危険なビーナス」の主人公・伯朗は読んでいるこちらが引くレベルで人間くさい人物です。
美女に目がなく、常に女性を品定めしている姿は、女であるわたしからするとただただ気持ちが悪かったです・・・。
ただ、正義感が強く、心根は優しい人物でもあります。
最初は「嫌な人」という印象しか持っていませんでしたが、伯朗が獣医師を志したきっかけのエピソードを機に見方が変わりました。
それでも、やや高圧的で愛想が悪い人であることには変わりません。
しかし話の内容がけっこう難しく専門的なので、伯朗のような人間味溢れる人物が主人公だと難しくなく読み進められたのも事実。
伯朗と一緒に事件の真相に迫れる感じがして、探偵気分を味わえるのもこの「危険なビーナス」の魅力と言えます。
「危険なビーナス」は、そのタイトルでもある通り『危険なビーナス』が活躍する小説でもあります。
『危険なビーナス』、つまり弟の婚約者である楓のことでしょう。
魔性の美しさを持ちつつ、謎めいた楓。
読めば読むほど怪しさが増し、その正体や目的の謎が深まります。
そんな危険な女神・楓は意外と嫌いになれないタイプでした。
楓の魅力とその正体の意外さも楽しめる「危険なビーナス」の感想でした。