東野圭吾さんの小説「ブルータスの心臓」の感想です。
逆玉の輿を狙う野心家男性による完全犯罪の行方を描くミステリー小説です。
序盤で起こる『驚愕の事態』と、予測もつかない展開の数々に振り回されてとても楽しかったです。
序章からラストシーンまで、目が離せない初期の傑作でした。
- 作者:東野圭吾
- 対象:中学生~
- 性的な描写あり
- グロテスクな描写あり
- 1989年10月に光文社カッパ・ノベルズより刊行
- 1993年に文庫化
- 2020年9月に新装版が登場
「ブルータスの心臓」について
「ブルータスの心臓」は東野圭吾さんのミステリー小説です。
以前に感想を書いた「11文字の殺人」と同じく、新装版として装いを新たに登場した作品です。
初版は1989年と33年前(2022年現在)。
しかし、約30年前の小説であっても、その面白さに変わりはありませんでした!
まずは、そんな「ブルータスの心臓」のあらすじを掲載します。
「この作品で悪を描く快感を覚え、『白夜行』につながりました」――著者より
文字を大きくして読みやすくした新装版第4弾!
野心家の男が狙う完全犯罪――果たして成功するのか⁉最新ロボットの研究者であり野心家の末永拓也は、勤務先の創業者令嬢・星子との結婚を目論んでいた。だがある日、遊び相手の康子から妊娠を告白される。困惑する中、星子の兄・直樹から、康子殺害計画を持ちかけられる。直樹もまた康子と男女関係にあり、妊娠をネタに脅迫されていたのだ。綿密に計算された完全犯罪は、無事成功するかに思われたが、驚愕の事態が発生する!
ブルータスの心臓―Amazon.co.jp
↑のあらすじは「ブルータスの心臓」の1/5、第1章が終わる約80ページまでしか紹介していません!
あらすじで展開がわかっている第1章まででも十分面白い「ブルータスの心臓」。
しかし、『驚愕の事態』が発生する第2章以降は、主人公・末長拓也にとっても、読者にとっても全く予想もつかない展開が続くことになります。
何が起こっていたのか。最後まで分からないのがミステリー小説として、最高に良かったです。
タイトル『ブルータス』とは?
「ブルータスの心臓」のタイトルにもある『ブルータス』は、主人公・末長拓也が開発している人工知能ロボットの名前です。
そんな『ブルータス』と言えば、有名なのがシェイクスピアの戯曲「ジュリアス・シーザー」でしょう。
「ブルータス、お前もか」
というセリフは戯曲を知らないわたしでも知っていたほど有名です。
ブルータスは、この「ジュリアス・シーザー」の主人公。
ローマの独裁官であったジュリアス・シーザーを暗殺した政務官でもあります。
この「ジュリアス・シーザー」の話は紀元前40年頃の史実を元にしており、ブルータスはラテン語では『マルクス・ユニウス・ブルトゥス』という名前となります。
ちなみに、ジュリアス・シーザーはガイウス・ユリウス・カエサルという人物がモデルです。
小説「ブルータスの心臓」では、「ジュリアス・シーザー」の『ブルータス』が直接関わっているわけではありません。
しかし、深読みができるネーミングだとも思います。
2011年に映像化
「ブルータスの心臓」は、2011年6月にフジテレビでテレビドラマ化されています。
ドラマ化の際にタイトルは「ブルータスの心臓-完全犯罪殺人リレー」と改題。
キャストは主人公・末長拓也が藤原竜也さん、共演は内山理名さん、風間杜夫さんなどです。
<ネタバレなし>「ブルータスの心臓」感想・あらすじ
「ブルータスの心臓」のネタバレなし感想・あらすじです。
優秀だけど共感しにくい主人公
「ブルータスの心臓」の主人公・末長拓也は、どちらかと言えば共感しにくい主人公だと思います。
貧しい境遇から抜け出すため、人一倍努力を続けてきた拓也。
その努力は実を結び、大手企業のエリート研究員としてロボット開発に取り組む日々を送っていました。
勤務先の社長令嬢の婚約者候補にも選ばれ、拓也の言うところの『ジャパニーズドリーム』を掴みかけた矢先、トラブルが起きるところから物語は始まります。
拓也はとても優秀な人物です。
頭の回転が速く、理性的。感情的になりにくいのも長所と言えます。
しかし、感情的になりにくいというか、人らしい感情が乏しいと言えるかもしれません。
遊び相手の女性の殺害計画にあっさり乗ったり、驚愕の事態が起きても冷静に対処してしまう、圧倒的な冷静さはサイコパスともいえるレベルです。
聡明なのでストーリーが停滞することなく進むのはメリットですが、主人公をあまり応援できないのはややデメリットだと思いました。
それでも、野心を隠そうともしない拓也のしたたかさは読んでいてとても面白かったです。
警察ものミステリーとしても
「ブルータスの心臓」は末長拓也の他に、事件を担当する警察官・佐山の視点からも描かれます。
警察官として、少ない証拠から事件の真相を探っていく佐山の様子から、警察ものミステリーとしても楽しめました。
また、やはりこの「ブルータスの心臓」の面白いところは、事件の当事者であるものの真相を知らない拓也の視点もあるとことです。
事件の当事者である拓也の視点、そして警察官としての佐山の視点。
2つの視点から徐々に事件の全貌が見えてくるのも面白さのポイントです。
彼女が探る真実とは
「ブルータスの心臓」は、中森弓絵という女性の視点からも描かれます。
弓絵は拓也と同じ会社の社員で、拓也の共犯者であった社長の息子・直樹の同室で仕事していた唯一の人物でした。
そのため念入りな警察の取り調べを受けることもありましたが、同室で仕事をしていた、という以外の接点がないためそれ以上の追求はされません。
けれども、弓絵はそんな直樹と使用していた部屋からあるファイルを見つけ出してしまいます。
あるファイルの発見をきっかけに、弓絵は同郷で幼馴染みの酒井悟郎とともに事件の真相を探ることに。
弓絵が何を知り、何のために調査をするのか。
それが明かされるのは小説の終盤です。
正直、ビックリするほどキレイに物語がまとまっていったので、スッキリしました。
30年以上前の小説ということで、今とは違った日本が描かれているのも興味深いポイントと言えます。
「11文字の殺人」の感想でも書きましたが、やはり携帯電話やスマホが影も形もないのは面白いです。
ここまで、東野圭吾さんの小説「ブルータスの心臓」の感想でした。
※↓には<ネタバレあり>感想・あらすじを書いています。
ここからは<ネタバレあり>の感想・あらすじです。
<ネタバレあり>「ブルータスの心臓」感想・あらすじ
ここからは<ネタバレあり>の感想・あらすじです。
一部の展開を書いていますが、物語の核心には触れないようにしています。
『驚愕の事態』のその後
「ブルータスの心臓」のあらすじにも書かれている『驚愕の事態』は、共に殺人事件を計画し実行していた、いわゆる共犯者が殺されていた、というものです。
第1章の終盤には「まさか・・・」と思い始めていましたが、そのまさかで素直に驚きました。
そして、この共犯者の死亡という驚愕の事態から先が長いのも特長です。
共犯者を殺したのは誰なのか。
拓也と共にわたしたち読者も考えますが、すぐにもう1人の共犯者も殺されます。
しかし、拓也は自分で口封じをする必要がなくなった、と安堵する始末。
そして、その殺害に乗じて、本来のターゲットだった遊び相手を自らの手で殺害します。
もうメチャクチャです。
邪魔者はすべて排除した拓也ですが、ある人物の不審な行動を目撃し、新たな事件に足を踏み入れてしまいます。
『序章』が本編につながるとき
「ブルータスの心臓」を読んでいると、途中まで『序章』の内容をすっかり忘れてしまいます。
その『序章』の内容は、工場で作業ロボットの監視をする男性が、そのロボットにより殺害されてしまうというショッキングなもの。
衝撃とも言える幕開けですが、この『序章』の内容が本編につながるのは小説の中盤以降。
そして、この『序章』が、本当にすべての初まりだったことが最後に発覚します。
すべてが分かった上で迎えたラストシーンは圧巻でした。
ある意味、悪者はすべて成敗されるので、後味はやや悪いものの、スッキリした終わり方だったと思います。
ここまでネタバレありの「ブルータスの心臓」感想・あらすじでした。