書店は新たな作品と出会える場所。
本好きにとっては好きな作家の新刊と出会える場所でもありますよね。
先日、わたしが出会ったのはファンである桜庭一樹さんの新刊。
さらに、小学生の頃から好きだった「火の鳥」を桜庭一樹さんが小説にしたというではありませんか!
「これはもう、買うしかない」とその場で衝動買いしてしまった2冊です。
わたしのような桜庭一樹&火の鳥ファンは必見の小説「火の鳥<大地編>」をご紹介します。
- 作者:桜庭一樹
- 原案:手塚治虫
- 対象:小学校高学年~
- 性的な描写はなし
- グロテスクな描写あり
- 2021年3月に朝日新聞出版より上下2巻で刊行
- 朝日新聞社創刊140周年記念作品
「火の鳥<大地編>」あらすじ
「火の鳥<大地編>」は桜庭一樹さんの小説です。
上下2巻で584ページというボリューミーな作品となっています。
タイトルにもある「火の鳥」と言えば、あの手塚治虫さんの傑作が思い浮かぶかと思います。
この「火の鳥<大地編>」は、そんな手塚治虫さんが生前に書き記した遺稿をもとに、桜庭一樹さんがストーリーを展開したお話。
途中まで手塚治虫さんによって書かれたあらすじから物語をふくらませ、手塚作品のテイストを加えつつ桜庭一樹さんの小説に仕上がっていました。
そんな「火の鳥<大地編>」のあらすじを掲載します。
1938年、日本占領下の上海。若く野心的な關東軍将校の間久部緑郎は、中央アジアのシルクロード交易で栄えた楼蘭に生息するという、伝説の「火の鳥」の調査隊長に任命される。
資金源は、妻・麗奈の父で、財閥総帥の三田村要造だという。
困難な旅路を行く調査隊は、緑郎の弟で共産主義に共鳴する正人、その友で実は上海マフィアと通じるルイ、清王朝の生き残りである川島芳子、西域出身の謎多きマリアと、全員いわく付き。
そこに火の鳥の力を兵器に利用しようともくろむ猿田博士も加わる。
苦労の末たどり着いた楼蘭で明らかになったのは、驚天動地の事実だった……。漫画『火の鳥』や手塚作品に数多く登場する猿田博士やロック、マサトたちと、東條英機、石原莞爾、山本五十六ら実在の人物たちが動かしていく!
Amazon.co.jpー小説「火の鳥」大地編(上)
朝日新聞「be」連載時から話題沸騰。大幅な加筆による完全版!
「火の鳥<大地編>」は日中戦争直前の上海から物語がスタートします。
軍の命令を受け、火の鳥を探し出すため調査隊が砂漠の奥地へ向かいます。
しかし、その調査隊のメンバーは腹に一物を抱えた曰く付きの人物ばかり。
そんな旅の終盤、調査隊に火の鳥に関するショッキングな事実が明かされる・・・。
というのが「火の鳥<大地編>」の導入部分になります。
火の鳥を探しに行く道中もなかなか面白いのですが、その旅はただの前振りでしかありません。
物語の中核は、2人の人物の回想により構成されていきます。
オリジナルに通じるテーマ
手塚作品の「火の鳥」は、火の鳥の不老不死の力を得るために争いを繰り返す人間の愚かさを描いた作品でした。
「火の鳥」は物語の中心にいますが、あくまでも主人公は人間。
その構図はこの「火の鳥<大地編>」でも変わらず、火の鳥はほとんど登場しません。
「火の鳥<大地編>」は火の鳥の力を巡る人間の醜悪さを描く、というオリジナル版にも通じる「火の鳥」のテーマを余すことなく書いているのが魅力の1つです。
そのうえ、マンガ版にはない1900年前後の近世、明治~昭和にかけての日本の歴史をなぞった話になっているのも面白いポイントでした。
他の手塚作品で言うと「アドルフに告ぐ」の少し前あたりの時代が舞台です。
歴史のことが詳しく書かれているので勉強にもなります。
<ネタバレ注意>火の鳥の使い方
※この項では「火の鳥<大地編>」に関するネタバレを書いているので、これから読む予定の方は飛ばしてください。
火の鳥は不死鳥、フェニックスと呼ばれる存在です。
そんな火の鳥の力と言えば「不老不死」ですよね。
しかし、この「火の鳥<大地編>」における火の鳥の力は「タイムスリップ」でした。
わたしの記憶が正しければ「火の鳥」に時間を逆行させる力があるとの描写はマンガにはなかったと思います。
よって、この力は桜庭一樹さんのオリジナル要素なのだと思います。
『時間を巻き戻して出来事をやり直す』という話は、ライトノベル・アニメがヒットしている「Re:ゼロから始める異世界生活」を彷彿とさせます。
ハリウッド映画にもなった「オール・ユー・ニード・イズ・キル」も同じようなストーリーです。
そう考えると、このストーリーは今の流行なのかもしれません。
これまでは不老不死を巡る争いの対象だったのが火の鳥でした。
しかし、この「火の鳥<大地編>」では火の鳥は首だけになり、時間を巻き戻すための道具として酷使され続けるという展開に。
最後の方のボロボロになった火の鳥の首の描写は、想像しただけで可哀想でした。
マンガ版のあの可愛らしい火の鳥のビジュアルが無残に朽ちていくなんて・・・。
それでも、終盤に再生する描写もあったのが救いになりました。
小説で手塚作品に挑戦
「火の鳥<大地編>」は手塚治虫さんが冒頭のみを書き記した「火の鳥<大地編>」を、桜庭一樹さんが小説にした作品です。
手塚治虫さんや「火の鳥」シリーズに馴染み深い方にとってはたまらない小説ですが、その2つが分からない方にとってはピンとこないかもしれません。
そこで、ここからは手塚治虫さんや「火の鳥」シリーズについて簡単に説明していきます。
さらに手塚作品ファンにぜひともオススメしたいポイントもご紹介します♪
そもそも「手塚治虫」はどんな人?
まずはマンガ「火の鳥」の作者である手塚治虫さんについて簡単に説明します。
手塚治虫さんは1928年に大阪府豊中市で生まれた日本の漫画家です。
本名は手塚治。ペンネームの「手塚治虫」はオサムシという虫から取ったもの。
このエピソードは有名ですね。
漫画家デビューしたのは18歳のとき。
デビュー作は4コマ漫画でしたが、その翌年には初の長編である「新宝島」が刊行されます。
それから数多くのヒット作を世に送り出しました。
一部を例に挙げると
- 鉄腕アトム
- ジャングル大帝
- リボンの騎士
- どろろ
- ブラックジャック et…
有名作品ばかりですし、どれも映像化されているので馴染みが深いですね。
漫画家として大成しながらも精力的に活動し続けた手塚治虫さんは、1989年に60歳で亡くなりました。
「火の鳥」とは?
「火の鳥」は1954年、手塚治虫さんが26歳の時に連載を開始しました。
それから1988年まで、亡くなる前年まで書き続けたまさに「ライフワーク」のような作品です。
この「火の鳥」が初めて単行本になった際、手塚治虫さんはプロローグに
「火の鳥」は、生と死の問題をテーマにしたドラマだ。古代から未来へ、えんえんと続く火の鳥—-永遠の生命とのたたかいは、人類にとって宿命のようなものなのだ。
火の鳥―手塚治虫official
と書き表しています。
『生と死』『永遠の生命』は確かに「火の鳥」共通のテーマですよね。
その人間の宿命とも呼べるテーマの追求が「火の鳥」の大きな魅力だと思います。
さらに、手塚治虫さんの死によって構想のみで潰えてしまった「大地編」についても、
「上海から始まって、楼蘭に終わる、スケールの大きな戦争メロドラマ」
と生前に明かしていました。
この遺稿をもとに、桜庭一樹さんが手がけたのが「火の鳥<大地編>」になります。
登場人物は馴染みのキャラクターがモデル
「火の鳥<大地編>」には手塚プロダクションが作画した登場人物紹介が掲載されています。
主要キャラクターは手塚作品に登場したキャラクターをイメージしているので馴染み深いですね。
特に『猿田博士』は「火の鳥」シリーズには書かせないキャラクター。
シリーズを通して色々な時代に登場するキーパーソンですよね。
そんな『猿田博士』はそのままの姿&キャラクターで登場し、劇中でも活躍を見せてくれます。
『猿田博士』の活躍は、わたしのような「火の鳥」ファンにはたまりませんでした。
セリフで伝わる手塚作品へのリスペクト
「火の鳥<大地編>」は桜庭一樹さんの手塚治虫さんへのリスペクトが感じられる作品でもありました。
劇中の登場人物は「アーハハハ」という笑い方をするのですが、これはまさに手塚作品に出てくるキャラクターのもの。
また、少しまどろっこしいセリフ回しやキャラクターたちの無鉄砲な行動などは、絵が目に浮かぶようでした。
小説なのに手塚作品のマンガを読んでいるような感覚になれ、不思議な読書体験でした。
手塚作品が好きな方にはぜひオススメしたい小説です。
小説で蘇った「火の鳥」の世界をぜひ堪能してみてください。