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「贖罪」イアン・マキューアン 13歳の少女が犯した罪とそのつぐないの物語

悲しい気分の女の子 人間ドラマ
Pixabay

起きてしまったことは変えられない。

できることはただ罪を償うため。

そんな13歳の少女が引き起こした悲劇を描く小説「贖罪」の感想です。

幸せな未来を粉々に打ち砕いてしまったたった一度の過ち、そのつぐないの行方とは?

「贖罪」基本情報
  • 中学生~(少し難しい)
    • 性的な描写あり
    • グロテスクな描写あり
  • ブッカー賞最終候補
  • 2001年刊行
    • 日本での刊行は2003年
  • 作者:イアン・マキューアン
  • 訳者:小山太一
  • 2007年に実写映画化

「贖罪」のあらすじ

「贖罪」はイギリス人作家イアン・マキューアンが2001年に刊行した小説です。

舞台はイギリス、3つの時代を描いた大河小説です。

そんな「贖罪」のあらすじを掲載します。

13歳の夏、作家を夢見るブライオニーは偽りの告発をした。姉セシーリアの恋人ロビーの破廉恥な罪を。それがどれほど禍根を残すかなど、考えもせずに──引き裂かれた恋人たちの運命。ロビーが味わう想像を絶する苦難。やがて第二次大戦が始まり、自らが犯した過ちを悔いたブライオニーは看護婦を志す。すべてを償うことは可能なのか。そしてあの夏の真実とは。現代英文学の金字塔的名作!

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小説は第1~3部に分かれ、それぞれ舞台・時代が異なります。

  • 第1部:1935年のイギリス郊外
  • 第2部:1940年のフランス
  • 第3部:1940年のイギリス

そして最後に1999年のイギリス・ロンドンに時代が飛びます。

2001年刊行の小説なので現代パートですね。

「贖罪」各部のあらすじ

贖罪のあらすじを部ごとにまとめます。

第1部

数人の登場人物の視点で描かれていますが、中心は本作の主人公でもあるブライオニー・タリスです。

13歳のブライオニーが、姉・セシーリアとその恋人ロビーの仲を引き裂くまでが描かれています。

小説の半分を占めていますが、劇中では2~3日の間の出来事でした。

第2部

語り手はロビー・ターナー、勝ち目のない戦場となったフランスから逃れるため海岸を目指す道程が描かれています。

第1部のあとロビーに何があったのか、ロビーとセシーリアの愛の行方が描かれます。

第3部

語り手は18歳になったブライオニー・タリスです。

家族の反対を押し切って看護師になったブライオニー。

彼女がはたらく病院には、戦地から重傷となった兵士が送られるようになります。

そんな過酷な日々とともに、5年前に起きた事件のある真実が明かされます。

ロンドン、1999年

1999年、77歳になったブライオニー・タリスの視点で描かれます。

50年以上前におきた事件の真実、そして恋人たちの結末が明かされます。

2007年には実写映画が公開

イアン・マキューアン「贖罪」は2007年に実写映画化されています。

日本でのタイトルは「つぐない」。

この「つぐない」は、

  • ゴールデングローブ賞
  • 英・アカデミー賞

で作品賞を受賞。

米・アカデミー賞でも作品賞にノミネートされ、高い評価を得ています。

日本でも、キネマ旬報ベストテン第9位に選ばれています。

作者:イアン・マキューアンについて

「贖罪」の作者はイギリスを代表する作家イアン・マキューアン(McEwan,Ian)です。

と言われても、ピンとくる方は多くはないと思います。

実際、わたしもピンときませんでした。

わたしにとっては、この「贖罪」が初イアン・マキューアン。

そこで、作者イアン・マキューアンについて少し調べてみました。

マキューアン,イアン(McEwan,Ian)

1948年、英国ハンプシャー生れ。シンガポール、北アフリカのトリポリなどで少年時代を過ごす。サセックス大学卒、イースト・アングリア大学創作科大学院修士号取得。’76年、第一短篇集でサマセット・モーム賞受賞。『アムステルダム』で’98年度ブッカー賞受賞。2002年、『贖罪』で全米批評家協会賞受賞、’11年、エルサレム賞受賞。オックスフォード在住(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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1948年生まれなので、2021年現在では73歳になります。

1976年、28歳で小説家としてデビュー。

イギリスを代表する作家として現在も活躍しています。

1998年には「アムステルダム」でブッカー賞を受賞。

ブッカー賞(Booker Prize)

イギリスの文学賞で、その年に発表された小説のうち最も優れた長編小説に与えられる賞。世界的に最も健胃のある文学賞の1つとされています。

「贖罪」もこのブッカー賞の最終候補に選べれましたが、惜しくも受賞はなりませんでした。

しかし「贖罪」も「タイム」誌で2002年のベストに選ばれるなど、高い評価を受けています。

多感すぎた13歳少女が起こした悲劇

13歳の女の子って凶器ですね。

「贖罪」を読み終わり、冷静に振り返った時にこう感じました。

13歳は自分も通ったはずの道ですが、振り返ってみてもはっきりとは思い出せません。

人生でも濃い時間のはずなのに、過去になると一瞬の出来事だったと痛感します。

女性・男性でブライオニーへの感じ方は異なるかもしれません。

少なくとも、わたしはブライオニーにすべてではないですが共感できます。

大人の女性にとって誰もが通る思春期の執念を思い出させる小説でした。

凶器となった少女

時代は1935年、イギリスが舞台の「贖罪」。

けれども、いつの時代・どこの国でも年頃の女の子の扱いにくさは変わらないのだと思い知りました。

第1部終盤のブライオニーの怖さはもはやホラー。

冒頭では普通の女の子だったはずですが、物語を通して怪物に変わっていくその成長ぶりは恐ろしさすら感じました。

1人の人間を徹底的に破滅に追い込み、その周りの人までも不幸にたたき落とす執念。

13歳のブライオニーにとっては正義からなる行為でした。

自らの嘘を信じ、自分を正当化し続けてつかんだ勝利というのがより恐ろしいです。

一番怖いのは、その追い詰めている部分が直接的に書かれていないこと。

劇中で一番の見せ場になりそうなところを、あえて書いていません。

過去を振り返り、何があったのかを淡々と書いているのが、読者の想像力をいやでも掻き立てます。

一度切っ先を向けたら、相手が息の根を止めるまで刺すのをやめない。

そんなナイフのような残酷さを13歳のブライオニーに感じました。

残酷すぎる恋人たちの未来

ブライオニーによって幸せな未来を破壊されたセシーリアとロビー。

あらすじに「恋人」と書かれていますが、2人が恋人になったのは引き裂かれる前日でした。

やっとお互いの思いに素直になり、恋が成就した矢先の事件。

それでも愛し続ける2人の未来に待っていたのは残酷すぎる結末でした。

本当の悪人は裁かれない

「贖罪」で最も報われないのは本当の悪人が罪を償わないことでした。

一番罪を償うべき人間が罪を償わず、のうのうと暮らしている。

しかし、ある意味現実的なのかもしれないと、諦めのような思いを抱きました。

少女の正義が引き起こした悲劇

ブライオニーは自分で作り上げた正義感からロビーを追い詰めていきます。

しかし、その正義が通じたのは13歳のこどもだったブライオニーだけでした。

事件から5年経ち、18歳の大人になったブライオニー。

自分の犯した罪を理解した彼女に過去は「償うべき罪」となって重くのしかかります。

1940年のイギリスでは、18歳の少女でも立派な大人。

現代の日本では13歳・中学1年生が18歳・高校3年生になる程度の月日です。

当時と現代では時間の価値観が大きく異なるのが分かりますね。

自らを罰するため、看護師として働くことを決意したブライオニー。

そんなブライオニーの「贖罪」の日々が描かれていきます。

<ネタバレあり>「贖罪」は○○小説

イアン・マキューアン「贖罪」はメタフィクション小説に分類されます。

メタフィクションとは小説の中で「これは作り話である」と説明すること。

「贖罪」の第1~3部までは小説家となったブライオニー・タリスが書いた小説という設定でした。

そのため、現実のブライオニー・タリスが歩んだ人生と第1~3部では、歩んだ人生が少し異なると最後に打ち明けています。

その現実と違う部分はあまりにも救いがありません。

だからこそ、ブライオニーは小説家という神の力を持って、悲しすぎる現実を幸せな作り話に変えました。

その幸せな作り話に変えたことをブライオニーは「最後の善行」と語ります。

ただ「あまりにも報われないから」とブライオニーが変えた部分を、わざわざ明らかにし「報われない話」にしているというのが「贖罪」の辛いところです。

それでもまだ許しを得てはいないとも語っていました。

タイトルの「贖罪」は犠牲や代償を捧げて罪を償うこと、罪滅ぼしという意味。

ブライオニーの「贖罪」は事件から60年以上が経っても終わりません。

1人の人間を故意に破滅させ、その人間を愛する人たちの人生をも狂わせたから当然かもしれません。

そもそも、ブライオニーは看護師になることで間接的に「贖罪」したものの、ロビー・セシーリアの2人に直接敵には「贖罪」をしませんでした。

しかし、ブライオニーの気持ちも全く理解できないわけではないのが辛いところ。

読み終わった瞬間に「報われない」と暗い気持ちになる、そんな小説でした。

花緒の感想

「贖罪」を読み感じたのは「イギリスと日本は風土的に似ているのではないか」ということでした。

遠い異国が舞台の小説なのに、登場人物の考えや生活はすんなりと受け入れやすかったです。

軽い気持ちで読める小説ではありません。

読みながらも読み終えた後もずっと「贖罪」について考え続けることになる小説です。

それでも、この重厚さに浸れるのは幸せだと思いました。

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