石田衣良さんの小説「禁猟区」の感想です。
夫と娘の3人で平凡ながら安定した生活を続けていた女性が、10才年下の男性と出会い不倫の恋に溺れていくお話です。
ページを読み進めていくごとに不倫の沼にハマっていく2人と、徐々に歪んでいく周囲との関係。
美しい不倫の恋の初まりと終わりを描いた恋愛小説でした。
- 作者:石田衣良
- 対象:中学生~
- 性的な描写あり
- グロテスクな描写ややあり
- 2022年6月に集英社より刊行
「禁猟区」について
「禁猟区」は石田衣良さんの恋愛小説です。
恋愛小説と言っても、そのテーマは『不倫』。
夫と子どもを持つ女性が10才年下の男性と恋に落ち、どこまでも堕ちていくさまが描かれています。
不倫はダメ。とは言っても、主人公には共感してしまいました。
そんな「禁猟区」のあらすじを掲載します。
34歳、ライターの文美子。夫との関係は冷え切り、娘はかわいいが保育園で問題行動を起こしていた。ある日、文美子はママ友から、女性がお金を出して若い男性を「狩る」という「お茶会」に誘われる。乗り気でなかった文美子だが、そこで劇団俳優の夏生と出会い、彼の誠実さに惹かれていく。夫の愛人の来訪、半グレからの脅迫、変貌していくママ友。様々な出来事が降りかかる中、ふたりの関係は引き返せないところまで来てしまい……。『娼年』『眠れぬ真珠』に続く恋愛長篇。
禁猟区―Amazon.co.jp
不倫の恋をきっかけに、これまで無縁だった世界に引きずり込まれる文美子。
展開はドロドロしているのに、読み口は爽やかなのがこの「禁猟区」の特徴だと思います。
そのため、昼ドラなみのドロドロ感を期待している方にはやや物足りないかもしれません。
しかしその分、ロマンティックな恋愛小説が読みたいかたにはオススメできる小説でもあります。
タイトル「禁猟区」の意味とは?
小説のタイトルである「禁猟区」とは<鳥獣の保護・繁殖、または人畜への危険防止のために狩猟が禁じられる区域。引用:コトバンク(禁猟区とは)>です。
簡潔に言えば、狩りが禁止されている場所ですね。
夫も子どももいながら若い男性による『ギャラ飲み』に参加した文美子。
当初こそ『ギャラ飲み』は「禁猟区」だと思っていた文美子でしたが、あることがきっかけにその戒めを自ら破ってしまいます。
狩りが許されない「禁猟区」だからこそ、その背徳感にも溺れるという意味合いもあるのかもしれません。
また、サブタイトルが「SANCTUARY(サンクチュアリ)」、つまり『聖域』であるのもポイント。
文美子と不倫相手・夏生との関係を表した言葉だと思われます。
ただし「SANCTUARY」には『自然保護区』という意味もあるので、単純に「禁猟区=SANCTUARY」というだけかもしれません。
「禁猟区」あらすじ・感想
「禁猟区」のあらすじ・感想です。
不倫の『純愛』を描く
この「禁猟区」で描かれるのは人妻・文美子と若い男性・夏生の不倫。
しかし、この2人の関係はどこまでも純愛で、美しいものとして描かれます。
その文美子と夏生の恋愛描写はあまりにもロマンティックで、読んでいてドキドキしっぱなしでした。
夏生が『実力があるのになかなか売れない舞台俳優』というのも良いです。
忘れようとしたのに、不意の出会いで本格的に恋に落ちていく。
そのどうしようもない不可抗力が最高でした。
理想的すぎる不倫相手の魅力
「禁猟区」の魅力は、文美子の不倫相手である夏生の良さに尽きます。
正直、最初の方は夏生に対し『人妻をたらし込んで、何か別の思惑があるのだろう』と思っていましたが、その疑いは杞憂に終わります。
あまりにも好青年、あまりにもイケメンすぎる。
こんな男性、実際には多分いません。
しかし、そこはフィクションに溺れたいと思います。
不倫はダメです。
しかし、ダメと分かっていても夏生に堕ちていく文美子の気持ちは痛いほど分かります。
夏生はほぼ完璧な人間のように描かれ、文美子が夏生から離れていくきっかけも本来なら美徳とされるべき人間性といえます。
しかし、人間性の良さは相手からある種の魅力まで奪ってしまうのだな、と感じさせる描写でもありました。
不倫からの転落
たかが不倫、されど不倫、というべきか、この「禁猟区」では不倫から裏社会に引きずり込まれることになっていきます。
不倫という圧倒的な秘密は、他人の弱みを探っている人たちにとっては格好の餌食。
不倫関係をエサに脅されてしまうのは自業自得ではありますが、文美子にはずっと同情してしまいました。
この裏社会の描写は「池袋ウエストゲートパーク」シリーズを長年手がける石田衣良さんならではのリアルさでした。
ただの不倫が一気にキナ臭くなり、当人たちではどうにも解決できなくなる。
不倫という弱みが大きなウィークポイントになってしまう描写は素直に怖かったです。
幸せな不倫の代償
文美子が夏生と一線を越えるきっかけとなったのは夫の不倫を確信した直後でした。
復讐心、嫉妬、その他諸々が合わさって不倫に至った文美子。
しかし、夏生との不倫そのものはどこまでも充実していて幸せなものでした。
だからこそ、その幸せな不倫の代償が大きくなったのだろうと思います。
不倫=悪、という価値観の中では、不倫をした者は相応の罰を受けなければならない。
そんな意志が感じられました。
けれども、文美子と夏生以外にも不倫をしている人たちはいて、その人たちは文美子たちほどの代償は支払っていないのもポイントかもしれません。
文美子は小説の冒頭から『世の中は不平等』と繰り返していましたが、不倫の代償という面でもその不平等さは浮き彫りになっています。
ただ、罰を受けることだけが代償を支払うということでもないとも感じます。
罰をうけないからこそ代償を支払い続けるということもあるでしょう。
どちらかと言えば、そちらの方が辛いかもしれません。
「禁猟区」には、数組の不倫カップルが登場し、そのそれぞれがいずれも違った結末を迎えています。
しかし、そのどの不倫カップルも幸せな結末を迎えていない、というのが不倫の代償なのかもしれません。
けれども文美子と夏生の関係の結末は未来あるもののように描かれていました。
救いがある結末だったのが幸いな「禁猟区」の感想でした。