ジョン・ディクスン・カーのミステリー小説「三つの棺」の感想です。
密室で起きた殺人事件の謎に、名探偵・フェル博士が挑む推理小説です。
メタフィクション『密室講義』が掲載されている小説でもあります。
- 作者:ジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr)
- 訳者:加賀山卓朗(2014年新訳版)
- 対象:中学生~
- 性的な描写なし
- グロテスクな描写ややあり
- 1935年にイギリスで刊行
- 日本では1955年に早川書房より初めて刊行
- 2014年に新訳版が登場
「三つの棺」について
「三つの棺」はアメリカ出身の小説家ジョン・ディクスン・カーのミステリー小説です。
わたしにとっては初・カー作品でした。
名前こそ知っていたものの、手に取ったのは初めて。
まずは、そんな「三つの棺」のあらすじを掲載します。
【オールタイム不可能犯罪ミステリ・ランキング第1位! 】 ロンドンの町に静かに雪が降り積もる夜、グリモー教授のもとを、コートと帽子で身を包み、仮面をつけた長身の謎の男が訪れる。やがて二人が入った書斎から、銃声が響く。居合わせたフェル博士たちがドアを破ると、絨毯の上には胸を撃たれて瀕死の教授が倒れていた! しかも密室状態の部屋から謎の男の姿は完全に消え失せていたのだ! 名高い〈密室講義〉を含み、数ある密室ミステリの中でも最高峰と評される不朽の名作が最新訳で登場!
三つの棺―Amazon.co.jp
謎の人物から命を狙われていた教授が、密室となった自室の中で殺害される。
その犯人と目されていた人物も、教授殺害から間もなく不可解な状況で殺害されていた。
そんな2つの殺人事件を名探偵・フェル博士が解決していく、というストーリーです。
行きつけの酒場で奇術師を名乗る男から不穏な言葉をかけられたグリモー教授。
2人の様子は教授が仕切るクラブの仲間たちが目の前で目撃していました。
その3日後の2月9日、その話を聞き危険を察知したフェル博士は教授の屋敷を訪ねますが、教授は自室で瀕死の状態で発見され、その後死亡。
その当時、屋敷にいたのは、グリモー教授の娘・ロゼット、家政婦のデュモン、居候のドレイマン、秘書・ミルズ、客でクラブの一員であるマンガンでした。
さらに、教授と関わりがあった人物として、クラブの会員であるバーナビーとペティスも容疑者として浮上します。
虫の息で発見される直前、教授は仮面を着けた怪しい男と部屋で2人きりの状態でした。
しかし、フェル博士たちが部屋へ踏み入ったとき、男はきれいさっぱり姿を消していました。
雪が降っていた夜、足跡も残さずに2階からどうやって姿を消したのか?
そんな密室の秘密にフェル博士が挑みます。
名探偵である『ギデオン・フェル博士』が活躍する長編第6作目となる「三つの棺」。
わたしにとっては初のカー&フェル博士作品で、何の前情報もなく、どんな話かも全く分からずに読み始めました。
しかし、古くささは感じるものの、ストーリー自体は面白かったです。
ただトリックや展開が複雑なので、ついていくのに苦労しました・・・。
作者ジョン・ディクスン・カーとは?
「三つの棺」の作者ジョン・ディクスン・カーはアメリカ出身で、主にイギリスで執筆活動をした小説家です。
本名ジョン・ディクスン・カー名義の他に、カーター・ディクスンという筆名でも活躍しました。
推理小説のうち、特に『密室殺人』の第一人者として知られています。
この「三つの棺」も密室殺人もののミステリーです。
「三つの棺」感想・あらすじ
「三つの棺」の感想・あらすじです。
古めかしいが、案外読みやすい
「三つの棺」の初版が刊行されたのは1935年。
日本では昭和10年、90年近く前になります。
「三つの棺」の舞台も1935年のイギリス・ロンドン。
当然、話は古めかしいのですが、訳のおかげもあってか、けっこう読みやすく、ページもすらすら進みました。
ただ、それはわたしがクリスティなど古典ミステリーを読み慣れていることもあるかもしれません。
有名な『密室講義』
「三つの棺」には『密室講義』という章があります。
※新訳版では第3部・17章に掲載されていました。
この『密室講義』は、名探偵・フェル博士が文字通り密室の講義を行うという内容。
講義の対象は、小説の登場人物とわたしたち読者です。
章の初めの方で
われわれは探偵小説のなかにいるからだ。
という衝撃的な言葉を告げ、さらに 本の登場人物であることに徹しようではないか。 とも言い放ちます。
これは小説の世界だ、と登場人物が明かす、いわゆる『メタフィクション』的な展開。
読む前から、薄ら『カー=メタフィクション』というイメージを持っていたわたしもショックでした・・・。
そんな風に自分たちの存在や事件が全て小説の中の出来事である、と前置きした上で行われる『密室講義』は素直にとても面白かったです。
いろいろな密室殺人の事例が紹介され、これまで読んできたミステリー小説に当てはまるものがいくつかあり、こんな昔から考えられてきたものだったのか、と変に感心してしまいました。
ただし、1つ注意点が。
この『密室講義』では他のミステリー小説の結末・トリックの内容に触れている、つまりネタバレしている箇所がいくつかあります。
「三つの棺」以前に書かれたミステリー小説が対象なので、いわゆる古典ミステリーを読む前にはやや気を付けた方が良いかと思います。
このトリックはあり得るのか?
「三つの棺」は自宅の自室で殺された教授が、なぜ、どうやって、誰に殺害されたのかを解明していくストーリーです。
『なぜ』という動機の部分はけっこう序盤で明かされます。
また『誰に』は、事前に不穏な接触があった一人の男がずっと浮上し、ずっとその男の存在に翻弄され続けます。
しかし、その男がやったにしろ、やっていないにしろ『どうやって』の部分が分かるのはラスト。
『なぜ』と『誰が』はおまけみたいなもので、『どうやって』というトリックの内容が作品の肝である、まさに密室殺人を描くためのミステリーだったと感じました。
ただ、そのトリック。
正直このトリックあり得るのだろうか・・・。
と思わずにいられませんでした。
ミステリーのトリックに信憑性を求めるのは野暮かもしれませんが、この「三つの棺」のトリックはギリギリだと感じすにはいられませんでした。
1935年当時ならギリ可能だったけど、おそらく現代では無理なトリックかもしれません。
全て読んだ後に起きたことを思い返すととても単純な事件だったことが面白いです。
緻密な計算とまさかの偶然が絡み合った、まさに、これぞミステリーと言えます。
歴代の推理小説の中でも傑作と名高い作品です。
密室殺人ミステリーが好きな方はまず読むべき一冊と言えるでしょう。
ここまで「三つの棺」の感想でした。