ジョナサン・スウィフトの小説「ガリバー旅行記」の感想です。
小人だらけの国に辿り着いてしまったガリバーの冒険を描く童話として有名な「ガリバー旅行記」。
しかし、ガリバーが旅したのは小人の国だけではありません!
奇妙で奇天烈な国々で上手くやっていくガリバーを面白おかしく描くイギリスの風刺小説です。
- 作者:ジョナサン・スウィフト(Jonathan Swift)
- 訳者:柴田元幸
- 対象:中学生~
- エログロ描写なし
- 1726年に初版が刊行
- 柴田元幸訳は2022年10月に朝日新聞出版より刊行
「ガリバー旅行記」について
「ガリバー旅行記」はイギリス(イングランド系アイルランド)人作家ジョナサン・スウィフトの小説です。
童話として有名な「ガリバー旅行記」。
小人の国に迷い込んだガリバーの体験談形式で綴られるストーリーは、わたしも幼い頃に読んだことがあります。
ただ、この「ガリバー旅行記」ですが、実は童話ではなく風刺小説です。
そもそもどんな話なのか、まずは「ガリバー旅行記」の簡単なあらすじを掲載します。
世界中の子どもと大人が読む18世紀の英国の名作を、実力と人気を兼ね備えた柴田元幸が、見事に翻訳し注釈する。小人国、巨人国、空飛ぶ島ラプータ、馬たちが暮らす理想郷。次々と起きる出来事、たっぷりの諷刺、理屈ぬきの面白さ! 朝日新聞好評連載の書籍化。
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「ガリバー旅行記」を簡単に説明すると『異様に言語能力が高く、また順応性も高すぎるガリバーがいろいろな国々で体験したことを綴る冒険譚』です。
異様に言語能力が高いので、最長でも5か月、最短だと3週間ほどで未開の地の言葉を習得します。
また、高すぎる順応性によって、基本的にどの国でもまともに生活していきます。
現代人にはない圧倒的な生命力を感じさせますが、おそらくこの時代でもこんな変人はガリバーくらいだと思われます。
何となく知っている話だったので手に取った「ガリバー旅行記」ですが、まさかこんなに面白いなんて知りませんでした。
「ガリバー旅行記」が書かれた時代
著者であるジョナサン・スウィフトが「ガリバー旅行記」を執筆したのは1721~1725年。
書き上げた翌年である1726年に刊行され、現在に亘り300年近くも読み継がれています。
この1720年代というのは、日本では江戸時代中期。
八代将軍である徳川吉宗が享保の改革をしていたあたり、となります。
しかし「ガリバー旅行記」内での時代はそれより20年ほど前、1699年からスタート。
それからガリバーは15年近く旅を続けます(何度か母国へ帰国してはいます)。
イギリスでは、その15年ほど前の1707年にイングランドとスコットランドが合併しグレートブリテン王国に。
王座に就いていたアン女王が亡くなり、その後ジョージ1世が君主として国を治めていた時期です。
ちなみに、スウィフトはこのジョージ1世がよほど嫌いだったらしく「ガリバー旅行記」内で何度も皮肉っています。
300年前に書かれた小説、と聞くと古めかしいですが、読んでみると訳が読みやすかったのもあり、とても面白かったです。
スウィフトの凄まじい発想力にはただただ脱帽しました。
「ガリバー旅行記」感想・あらすじ
「ガリバー旅行記」の感想・あらすじです。
ちなみに「ガリバー旅行記」は日本語訳がたくさん刊行されていますが、ここでご紹介するのは2022年10月に朝日新聞出版より刊行された柴田元幸訳です。
ガリバー、旅に出過ぎ
「ガリバー旅行記」と聞いて思い浮かぶのは『小人の国に迷い込む』というストーリーでしょう。
しかし、この『小人の国に迷い込む』展開は、4部まである「ガリバー旅行記」の第1部にすぎません。
辿り着く国は1部ごとに変わり、そのたびにガリバーは母国(イングランド)へ帰ります。
ちなみに、ガリバーは妻子持ちですが、合わせて15年ほど旅に出続けます。
家庭の描写はほぼなく『家族団らんしていたけど、旅に出たくなったから、また船に乗っちゃった』という言い訳が2~4部までの冒頭に。
現代の感覚であれば『もう少し家庭を顧みろ』と叱りたくなるところ。
しかし、この時代は男女格差が激しいのでガリバーの奔放さはそこまで悪とも見なされないようです。
まあ、それでも夫・父親としてみたらガリバーは相当クズではあります。
そして、この1700年代前半というのは蒸気機関車すらなく、長距離移動は船のみ、という時代。
一度旅に出たら数年は戻ってこられない、船の中で乗員が亡くなることも日常茶飯事、という状況です。
船を出したら運任せ、という過酷な冒険に何度も出てしまう。
ガリバーの常人離れした感覚は、一周回って嫌いになれないかもしれません・・・。
驚異的に順応性が高いガリバー
「ガリバー旅行記」を読んでいて、最も驚いたのはガリバーの順応性の高さ。
ガリバーは「ガリバー旅行記」の中で4つの異なる国に辿り着きます。
そのどの国でも、ガリバーは馴染みます。
すぐに馴染み、上手くやっていきます。
圧倒的な順応性です。
むしろ、その驚異的な順応性がなければ「ガリバー旅行記」は成り立たないので当然とも言えるでしょう。
学があり、教養もあり、礼儀も重んじるガリバーはどの国の王様・主人に気に入られ、重宝されます。
このたとえ小人の国の王様にも礼儀を重んじる姿勢は、現代に生きるわたしにとって少し不思議な感覚でした。
圧倒的に力が勝るガリバーが、小人の国の王様に対して恭しくひれ伏す。
もっと高圧的に、力を誇示しようとは考えなかったのか?
力を持って征服しようとは思わなかったのか?
思わずそう考えてしまいました。
しかし、ガリバーは基本的に善良なので、そんなことは微塵も考えません。
この考えは1700年代前半というのがまだヨーロッパの革命前で、厳格な身分制度に基づいていたこととも無関係ではないのでしょう。
ただ、このガリバーの持つ善良さはガリバーをどことなく嫌いになれない要素の1つかもしれません。
知ってるモチーフが多い
「ガリバー旅行記」を読んでいて驚いたのは、知っている・聞き覚えがある言葉が多いこと。
最も驚いたのは、第3部にガリバーが辿り着く島。
その島を統治しているのは、宙に浮かぶ首都・ラプータです。
ほとんどの日本人が知っているであろう、スタジオジブリの「天空の城ラピュタ」を彷彿とさせる・・・。
というか、完全に「天空の城ラピュタ」が「ガリバー旅行記」をモチーフにしています。
※事実「天空の城ラピュタ」の『ラピュタ』という名前の由来、空中都市という発想はこの「ガリバー旅行記」が由来とのこと。
ただ、この首都・ラプータには巨神兵も飛行石もありません。
浮かんでいる力はあくまでも磁力、長い名前の王家もありません。
「天空の城ラピュタ」と「ガリバー旅行記」はストーリー上も一切つながりがなく、純粋にラプータのヘンテコ具合を楽しめます。
さらに、このラプータが統治するバルニバービという島の学術院には、ドラえもんの秘密道具として有名な『アンキパン』のような食べ物も登場します。
ドラえもんで「ガリバー旅行記」と言えば『ガリバートンネル』ですが、他にもモチーフがあるのかもしれません。
また、第4部に登場する『ヤフー』という生き物。
人間みたいな4本足の動物で、ガリバー曰く『自然が生み出したもっとも不潔で醜い動物』です。
このヤフーは、皆さんお馴染みYahoo!の名前の由来です。
言葉の由来を知ると、感慨深くもあり、味わい深くもあり、ただ何となく不快な感じもする絶妙な気分です・・・。
訳者の突っ込みが面白い
わたしが読んだ柴田元幸訳「ガリバー旅行記」は注釈のツッコミが面白すぎるというおすすめポイントもあります。
1700年代に書かれた小説なので、当時の時代背景に詳しくないとピンとこない部分が多々ある「ガリバー旅行記」。
そんな読者の悩みを解消すべく訳者による注釈が丁寧に挿入されているのですが、その注釈がやけに鋭いです。
鋭いものの小気味よく、読んでいて痛快でした。
海外小説は訳によって読みやすさが変わりますが、この「ガリバー旅行記」はその点、とっても手に取りやすい小説だったと思います。
「ガリバー旅行記」の主人公・ガリバーは日本(当時は江戸時代)にも辿り着き、将軍と接見する、といったシーンもあります。
日本の描写はわずかですが、こんな不思議なつながりがあるなんて知りませんでした。
イメージと違い、全然子ども向けではなかった「ガリバー旅行記」。
その面白さをぜひ読んで実感してみてくださいね。
ここまで「ガリバー旅行記」の感想でした。