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「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ 記憶が紡いでいく残酷な『使命』と恋愛模様

カセットテープ わたしを離さないでイメージ 小説

カズオ・イシグロさんの小説「わたしを離さないで」の感想です。

残酷すぎる『使命』を持って生まれた少年少女の運命を描く人間ドラマです。

映画・舞台・ドラマ化もされたカズオ・イシグロさんの代表作で、ノスタルジックな描写とこんがらがった恋愛模様が胸を打つ名作です。

「わたしを離さないで」基本情報
  • 作者:カズオ・イシグロ
  • 訳者:土屋政雄
  • 対象:中学生以上
    • やや性的な描写あり
  • イギリスで2005年に刊行
  • 2006年4月に日本・早川書房にて単行本が刊行
    • 2008年8月に文庫化
  • 2005年のイギリス・ブッカー賞の最終候補作
  • 2010年にイギリスで映画化
  • 2014年に日本で舞台化
  • 2016年に日本で連続ドラマ化

「わたしを離さないで」あらすじ

「わたしを離さないで」はイギリスの小説家カズオ・イシグロさんの小説です。

SFの世界観と重厚かつ複雑な人間ドラマによって構成されていて、現地イギリスで映画化、日本でも連続ドラマ化された名作として知られています。

花緒
花緒

実はわたしは日本の連続ドラマを観ていたのであらすじは知っていました。

そんなわたしのようにあらすじや設定を知っている方でも、この「わたしを離さないで」は十分に読み応えがある作品でした。

正直、設定を知っているので最初から最後まで辛かったです・・・。

まずは、その「わたしを離さないで」のあらすじを掲載します。

優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設へールシャムの親友トミーやルースも「提供者」だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度……。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく。解説:柴田元幸

わたしを離さないで―Amazon.co.jp

わたしの名前はキャシー・H。いま31歳で、介護人をもう11年以上やっています。

これが「わたしを離さないで」の冒頭です。

花緒
花緒

読破した後にこの文章を読むと、色々と思い出されジワジワきます。

「わたしを離さないで」は、この31歳のキャシー・Hが自身の人生を記憶を辿って思い出していく、というお話です。

キャシーやキャシーの周りの人たちは、ある『使命』のもとに生まれた存在でした。

その彼女たちに与えられた『使命』を中心に人間ドラマが展開していきます。

「わたしを離さないで」の時代と構成について

31歳のキャシーが記憶を振り返っているのは1990年代末。

よって、小説で描かれる時代は、大まかに1970年代後半~1990年代末となります。

小説は大きく、

  1. ヘールシャムで育った幼年時代
  2. コテージでの共同生活を送った少女時代
  3. 介護人時代

という3部で構成されています。

すべて「キャシーの思い出」という風に書かれているので、各部内の時系列はグチャグチャ。

そのため最初は少し読みにくかったです。

しかし、細部から「わたしを離さないで」の世界観の輪郭が掴めるような感覚を味わえました。

徐々にその世界の仕組みが明かされていき、ゆっくりと読者を蝕んでいく感覚でしょうか?

悪い感覚ではありませんでしたが、読み進めるにつれ残酷すぎる世界観が頭に浸透していく感じは何とも言えず重い気分になりました。

親友との三角関係

「わたしを離さないで」は、世界観からSF小説というジャンルに分類される作品だと思います。

けれども、そのSFの世界観の中で繰り広げられるのは、親しみのある人間ドラマでした。

同じヘールシャムという施設で育った親友・ルース、そしてずっと親しかった異性の友人・トミー。

そのルース・トミーとキャシーの3人による三角関係の恋愛が小説の中心です。

三角関係は10代の面倒臭さでこじれ、成長し大人になり変化していきます。

この3人の関係は日本の連続ドラマだと超ドロドロだったのですが、小説だと想像以上にも淡泊でした。

ただ、面倒くさいことに変わりはありません。

SFであるものの、根本には恋愛小説であるのがこの「わたしを離さないで」でした。

『提供者』『介護人』という言葉

「わたしを離さないで」では、特別な意味で『提供』『提供者』『介護人』という言葉が使われます。

この言葉たちはわたしたちが生きる現実とはやや異なり、この「わたしを離さないで」の世界の中だけで通じる特別な意味がありました。

小説の冒頭から言葉たちは登場しますが、読者にその意味がしっかり伝えられるのは小説を1/3ほどまで読み進めたあたり。

わたしはあらすじや設定を知っていたので驚きませんでしたが、この世界観の告白から、小説はディストピアを舞台にしたSFに様変わりします。

しかし、世界観の告白を経ても、それまでのノスタルジックな雰囲気は壊れず、むしろ強調される感じすらしました。

小説の世界観のネタバレを含めたあらすじ&感想は後述します。

タイトル「わたしを離さないで」の意味

小説のタイトルである「わたしを離さないで」は、キャシーが持つカセットテープに収録されている曲の名前です。

ヘールシャムでの販売会で手に入れ、キャシーがずっと大切に聴いていた曲でした。

カセットテープは一度なくしてしまいましたが、その後奇跡的に同じものを手に入れます。

キャシー・Hにとって宝物のようなカセットテープ。

「わたしを離さないで」のカーバーデザインがカセットテープであるのことからも、その大切さが伝わってきますね。


わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしの個人的には、カセットテープは幼い頃にしか目にしたことがなく、使ったこともほとんどありません。

しかし、キャシーが寮の部屋で1人こっそりカセットテープを聴いたり、輪になってウォークマンを回し聴きしたりというシーンは、経験したことがないのにどこか懐かしさを感じました。

カセットテープや音楽が穏やかな日々と幸せの象徴だったのかな、と読み終わった今なら感じます。

「わたしを離さないで」は実在する?

この「わたしを離さないで」という曲が収録されているのは、ジュディ・ブリッジウォーター(Judy Bridgewater)という歌手の『夜に聞く歌』というカセットテープです。

ちなみに「わたしを離さないで」はオリジナルの原題では『Never Let Me Go』となります。

わたしは、てっきりこの「わたしを離さないで」や歌手ジュディ・ブリッジウォーターが実在するものと思っていましたが架空の存在でした。

イシグロさんが創造した存在だったのです。

花緒
花緒

読み終わってから「わたしを離さないで」が架空の曲だったというのが一番衝撃的だったかもしれません・・・。そのくらいリアリティがありました。


2010年公開の映画版「わたしを離さないで」では、この曲「わたしを離さないで」が実際に製作され、劇中を彩っています。

☆こちらの動画で、映画の映像とともに「わたしを離さないで」の曲を聴くことができます☆

わたしを離さないで/Never Let Me Go ジュディ・ブリッジウォーター

曲もこの映画のために作られたとは思えないくらい良いのですが、映画の映像が小説そのままでビックリしました。

機会があったら、映画もチェックして見ようと思います。


ノスタルジックで穏やかな描写が多いからこそ、世界観の残酷さが際立つ小説でした。

けして万人受けはしませんが、わたしはとても好きな作品です。

ここまで、カズオ・イシグロさんの小説「わたしを離さないで」の感想・あらすじでした。

ここからはネタバレありの「わたしを離さないで」の感想・あらすじです。

【ネタバレあり】「わたしを離さないで」の感想

「わたしを離さないで」のネタバレあり感想です。

「わたしを離さないで」の世界観

「わたしを離さないで」の主人公・キャシーは臓器提供のために作られたクローン人間です。

16歳まで同じ境遇の子どもたちが集まる施設・ヘールシャムで育ち、施設卒業後はコテージで外の生活を経験。

コテージでの生活を送った後、訓練を受けて『介護人』となり『提供者』と呼ばれる臓器を提供している同胞たちのお世話をします。

そして通知が来たら、今度は自らが『提供者』となり、臓器を提供する『使命』を果たします。

説明を書いていると、このシステムの残酷さというか、恐ろしさがより伝わります。

『提供』や『使命』という言葉で包んでいますが、実態はゾッとするほどグロテスクです。

キャリーは自他ともに認める優秀な『介護人』だったので、11年以上、31歳になっても『介護人』でした。

しかし彼らが『使命』を果たす年齢は、おおむね20代半ば頃。

今のわたしと同じ年頃なので、よりおぞましさが増します。

展示館の意味

「わたしを離さないで」では、初めの頃からたびたび『展示館』という言葉が登場します。

マダムと呼ばれる女性が、ヘールシャムの生徒たちの絵や詩などの作品のうち特に優れたものだけを選び持ち帰る。

施設の保護官たちが言ったわけではなく、生徒たちが勝手に『展示館』に飾られると妄想していた存在です。

『展示館』に飾られるのはとても名誉なこととされていました。

小説の後半では、この『展示会』がキャシーやトミーにとって生きる時間を延ばす『猶予』になるかもしれない、1つの希望となりました。

愛する2人が真実の愛を証明できれば3年間は提供が猶予される。

そのウワサを信じ、マダムに直訴しに行くキャシーとトミーでしたが、その希望は無残に砕かれます。

『展示館』に飾られると思っていた作品たちは、『使命』を持つ彼らが心を持つ存在であることを世間に知らしめるための道具に過ぎなかったのです。

けれども、その道具ももはや役に立たず、『使命』を持つ彼らの運命も変わりません。

そして、彼ら『使命』を持つ者にとって、この先の未来は暗いものになるとも示されました。

「わたしを離さないで」の世界的にはバッドエンドと言えます。

しかし、ルース・トミーなど数多くの同胞を見送り、自らも間もなく『提供者』となるキャシーに残された時間は穏やかなものでした。

現実ではあり得ない世界なのに、すぐそばにあるものの目を背けている怖さを感じられる。

「わたしを離さないで」はそんな小説でした。

以上、ここまで「わたしを離さないで」のネタバレあり感想・あらすじでした。

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