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「秋雨物語」貴志祐介 ホラー4短編が収録、秋雨が降る季節に起こる怪奇現象について

秋雨物語 紅葉 イメージ 小説
chulmin parkによるPixabayからの画像

貴志祐介さんの小説「秋雨物語」の感想です。

秋雨が降る中で展開する4編のホラーが収録された短編集です。

爽やかそうなタイトルとは裏腹に、色々な意味で背筋がゾクゾクする恐怖を堪能できるホラーでした。

基本情報
  • 作者:貴志祐介
  • 対象:中学生~
    • 性的な描写ややあり
    • グロテスクな描写あり
  • 2022年11月にKADOKAWAより刊行

「秋雨物語」について

「秋雨物語」は貴志祐介さんのホラー小説です。

ジャンルの異なる4編のホラーが収録されています。

まずは、そんな「秋雨物語」のあらすじを掲載します。

失踪した作家・青山黎明が遺した原稿。それは彼を長年悩ませる謎の転移現象の記録だった。転移に抵抗する青山だったが、更なる悪夢に引きずり込まれていく(「フーグ」)。ある呪いを背負った青年の生き地獄、この世のものとは思えないある絶唱の記録など、至高のホラー4編による絶望の連作集。『黒い家』『天使の囀り』『悪の教典』……いくつもの傑作を生み出した鬼才・貴志祐介が10年以上にわたり描き続けた新シリーズが遂にベールを脱ぐ。

秋雨物語―Amazon.co.jp

わたしが貴志祐介さんに出会ったのは10年以上前、中学生の頃です。

当時、非常に話題となっていた「悪の教典」を読んだことをきっかけに、それまでに刊行されていた著作を全て読みました。

ただ、一気に読み尽くしたため、近年は年に1回ほど刊行される新作を待つばかり。

久々に貴志祐介さんの小説が読めて素直に嬉しかったです。


この「秋雨物語」は『秋雨が降っている』という共通点がある4つの短編からなる小説。

どれもホラーです。

「秋雨物語」というタイトルの爽やかさから、静謐で心温まるストーリーを想像しかけましたが、心が冷え切るホラーでした。

貴志祐介さんの作品で、そんなハートウォーミングな展開を予想したのが間違いですね。

また、ホラーでありながら、ミステリー要素が強いのもポイント。

謎解きをしながらでも楽しめる作品と言えます。

「秋雨物語」各話感想・あらすじ

「秋雨物語」を短編ごとに感想・あらすじをまとめていきます。

餓鬼の田

初出は2009年11月、10年以上前に書かれています。

20ページ強の短編です。

短編内でも説明されていますが、「餓鬼(ガキ)の田」は餓鬼道に転生した亡者が田植えをする場所。

餓鬼は前世の行いにより、常に飢えや渇きに苦しんでいる存在です。

そんな餓鬼がなんとかして空腹を満たそうと田植えをするのですが、植えているのが稲ではないため米が実ることはない、というのが言い伝えです。

いくら前世の行いが悪かったからって、なかなかの惨さです。

そんな餓鬼の田は、富山県黒部市にある池塘(湿原の泥炭層にできる池沼)の別名。

実際にある観光名所です。

詳しくは餓鬼ノ田圃―Wikipediaをチェックしてみてください。

短編「餓鬼の田」は、前世の行いにより『餓鬼』とされた男性と、その男性に心惹かれる女性の話。

前世の悪行が現世にどのような影響を及ぼしているのか。

その顛末には切なさを感じました。

また、この「餓鬼の田」に登場する占い師は、次に収録されている短編「フーグ」にも(おそらく)登場します。

謎のつながりを感じますね。

フーグ

青山黎明という小説家が失踪。

自宅に残された書きかけの原稿「フーグ」から、編集者・松浪は青山に何が起こっていたのか知ることになります。

といっても、実話のような形式で書かれたその小説に対し、松浪は最初から懐疑的でした。

プロの嘘つきである小説家が書く実話形式の小説。

締め切りが近づき逃げた、と高をくくっていたのです。

しかし、小説を読み進めて行くにつれ、だんだんとその内容が実際にあったものだと信じざるを得ない状況に。

青山黎明はどこに消えてしまったのか?

ラストシーンは映像だったらトラウマ必至でした・・・。

想像しないようにするのが精一杯です。

また、途中に出てくる青山の夢の描写も相当怖かったです。

体調が悪いときにみる悪夢は確かにあんな感じだと思いました。


タイトルである「フーグ」は実際にある病名です。

小説内でも説明がありますが、日本語では『解離性遁走』と呼ばれ、過去の記憶を失い、家庭や仕事などの環境から姿を消すこと、とされています。

それまで行ったこともないような土地で、別人として、普通に生活していることもある病気です。

強いストレスから逃れるため、というのが原因の1つです。

青山は幼少期のある体験から「フーグ」であるとの医師の診断を受けますが、実際には違うと青山本人は感じていました。

そして、その本当の原因が日常生活に影響を及ぼすようになったとき、青山はその原因と真っ向から対峙することを決意します。

青山の壮絶な戦いは読んでいてゾッとするほど過酷でした・・・。

白鳥の歌(スワン・ソング)

死ぬ間際の白鳥は、最高に美しい歌声で歌う。

そんな言い伝えから、生前最期の作曲・演奏・歌唱は「白鳥の歌(スワン・ソング)」と呼ばれます。

この「白鳥の歌」は、ある女性歌手のスワンソングの秘密を知りたいと願う富豪と、富豪からその女性歌手の伝記を書く用意依頼された小説家が、探偵の調査により思ってもみない真実を知るというもの。

常人にはあり得ない、素晴らしい歌声を手に入れた女性歌手。

その女性歌手が憧れた別の女性歌手。

2人は無二の歌声と引き換えに何を差し出したのか。

天使の歌声でもあり、悪魔の歌声とも呼ばれる歌声の真実に迫る、ミステリー色の強いストーリーでした。

結末は、貴志祐介さんらしいです。

昔に読んだ、貴志祐介さんのある小説を思い出しました。

こっくりさん

新解釈の「こっくりさん」。

人生に絶望している少年が、同じく苦境に立たされる同級生たちと決死の「こっくりさん」を行うことに。

生きるか死ぬか、命をかけた「こっくりさん」の行方とは?

書きたいことがたくさんありますが、ネタバレになるのでこの辺にします。


タイトルでもある「こっくりさん」、名前も内容も知ってはいますが、やったことはありません。

わたしのような方がほとんどだと思います。

逆に実際に「こっくりさん」を行ったことがある方はどのくらいいるのでしょう?

そもそも、わたしの年代では「こっくりさん」よりもトイレの花子さんの方が有名で人気だったので、微妙にマイナーな存在だったかと記憶しています。

わたしのようなオカルト好きの子どもくらいしか興味がない感じでした。

オカルト好きですが怖いものは嫌いなわたしは、この先絶対に「こっくりさん」などやらないと思っていますが、この短編「こっくりさん」を読み、その決意を新たにしました。

軽い気持ちで降霊術なんてやってはいけませんね。


貴志祐介さんのホラーにしては簡潔で、そこまで後味も悪くなく、読みやすい小説だったと思います。

グロテスクさが少なく、心理的な怖さが中心だったからでしょうか?

ずっとドキドキしながら読み進められてとても良かったです。

ここまで「秋雨物語」の感想でした。

「秋雨物語」と同じシリーズ「梅雨物語」も先日刊行されました。

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