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「アリス殺し」小林泰三 夢と現実のリンクによって死が迫る!伏線に騙され続ける不思議な本格ミステリー小説

不思議に国のアリス アリス殺し 小林泰三 小説
Willgard KrauseによるPixabayからの画像

小林泰三さんの小説「アリス殺し」の感想です。

『不思議の国のアリス』のような世界観の夢を毎晩観ている女子大生・栗栖川亜理。

夢の世界と現実で特定の人物の死がリンクしていることに気付いた彼女は、同じ夢を見ている大学の同期・井森と事件の解決に挑みます。

完全に騙された!伏線が見事すぎる異色の本格ミステリーです。

「アリス殺し」基本情報
  • 作者:小林泰三
    • 対象:中学生~
  • 性的な描写なし
  • 【注意】グロテスクな描写あり
  • 2013年9月に東京創元社より刊行
    • 2019年4月に創元推理文庫より文庫版が刊行

「アリス殺し」について

「アリス殺し」は小林泰三(こばやしやすみ)さんによるミステリー小説です。

ミステリーですが、この「アリス殺し」、まったく普通のミステリーではありません。

ミステリー×ファンタジー、さらにSF要素もふんだんに取り入れた新感覚の小説でした。

まずは、そんな「アリス殺し」のあらすじを掲載します。

不思議の国の住人たちが、殺されていく
どれだけ注意深く読んでも、この真相は見抜けない
悪夢×メルヘン×ミステリ!

栗栖川亜理はここ最近、不思議の国に迷い込んだアリスの夢ばかり見ている。ある日、ハンプティ・ダンプティが墜落死する夢を見た後、亜理が大学に行くと、玉子という綽名の博士研究員が校舎の屋上から転落して死亡していた。グリフォンが生牡蠣を喉に詰まらせて窒息死した夢の後には、牡蠣を食べた教授が急死する。夢の世界の死と現実の死は繁がっているらしい。不思議の国で事件を調べる三月兎と帽子屋によって容疑者に名指しされたアリス。亜理は同じ夢を見ているとわかった同学年の井森とともに冤罪を晴らすため真犯人捜しに奔走するが……邪悪なメルヘンが彩る驚愕の本格ミステリ。
解説=澤村伊智

アリス殺し―Amazon.co.jp

夢と現実がリンクしている。

そのつながりを利用した殺人事件に巻き込まれる主人公の戦いを描いているのが、この「アリス殺し」のストーリーです。

「アリス殺し」では

  • わたしたち読者がいる世界と似た現実世界
  • 『不思議に国のアリス』のような夢の世界

のエピソードが交互に登場し、どんどんストーリーが進んでいきます。

夢の世界・不思議の国でキャラクターが命を落とすと、現実世界でもそのキャラクターに相当する人物が亡くなる。

また、ある人物が現実世界で亡くなると、夢の世界でもキャラクターが亡くなっている。

夢の世界のアリス、そして現実世界の栗栖川亜理がその符合に気付いたときから、この「アリス殺し」は始まります。

そもそも『不思議の国のアリス』とは?

『不思議の国のアリス』はルイス・キャロルが1865年に刊行したイギリスの児童文学です。

1865年、日本では大政奉還の2年前、江戸時代末期となります。

そんな昔に書かれた文学だったのですね・・・。

また、作者のルイス・キャロルは元々は数学者でもある人物。

数学者が書いた物語、と考えながら読むと変な感慨がわきそうですね・・・。

ルイス・キャロルは出版するつもりでこの『不思議の国のアリス』を書いたわけではなく、当初は知り合いの幼い娘にプレゼントするためだけに書き上げたとのこと。

そのお話の面白さが仲間内で評判となり、出版することになったとのことです。

出版された『不思議の国のアリス』は評判となり、6年後の1871年には続編『鏡の国のアリス』も刊行されています。

『不思議の国のアリス』のあらすじ

『不思議の国のアリス』のは、白ウサギを追いかけて不思議の国へ迷い込んだアリスの冒険を描いたストーリーです。

ただ、この『不思議の国のアリス』の世界観は、タイトル通り、不思議なもの。

不思議というか、道理がないというか、不条理な世界です。

かわいらしいようでいてどこか不気味、そして揃いもそろって頭が狂っているキャラクターたちが登場し、アリスを惑わせます。

この世界観の不条理さ、さらにキャラクターたちの狂いっぷりは小説「アリス殺し」でも充分に堪能できます。

もちろん良い意味で、読んでいると頭がおかしくなりそうな会話劇が延々繰り広げられるのが特徴です。

そして最後、理不尽にも自身が処刑されそうになったところで、アリスは目を覚まします。

不思議の国は、すべて夢の中の世界だった。

という、いわゆる夢落ちで物語は終わります。


わたしはストーリーは絵本などで読み知っているものの、オリジナルは読んだことがありません。

映画はディズニーアニメーションのものなら観たことがあります。

また、ハンプティ・ダンプティの話が中学の英語の教科書に載っていた印象が強いです。

オリジナルを知らなくても、何となく大抵知っている。

『不思議の国のアリス』はそんな話ではないでしょうか?

「アリス殺し」に登場する固有名詞について

「アリス殺し」には『不思議の国のアリス』のキャラクター・出来事が数多く登場します。

そのうち、チェシャ猫やハンプティ・ダンプティは有名どころなので割愛。

わたしが分からなかった部分を調べてまとめてみました。

スナーク・ブージャム

「アリス殺し」の冒頭から登場する<スナーク>と<ブージャム>。

トカゲのビルと「スナークはブージャムだった」と決めた合い言葉ですね。

この<スナーク>は、ルイス・キャロルの詩『スナーク狩り』に登場する架空のモンスターです。

『スナーク狩り』という詩の中で、探検隊が探し求めているモンスターで、

  • 羽毛を持って噛みつくもの
  • 頬髭を生やして引っ掻くもの

などいくつかの種類が存在します。

また<ブージャム>とはスナークの一部。

このスナークの中には<ブージャム>であるものもいて、<ブージャム>に出会った者は静かに消え失せる、と詩に綴られています。

ちなみに、この『スナーク狩り』は独立した詩。

『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』とは関連がありません。

ジャバウォック

<ジャバウォック>はルイス・キャロルの詩『ジャバウォックの詩』に登場する架空のモンスターです。

この『ジャバウォックの詩』は、怪物・ジャバウォックが主人公によって倒される様子が記されたもの。

詩は『鏡の国のアリス』に収録されています。

バンダースナッチ

<バンダースナッチ>もルイス・キャロルの詩『スナーク狩り』・『ジャバウォックの詩』に登場する架空のモンスターです。

この<バンダースナッチ>は、素早く動けて、首が長く伸ばせ、燻り狂った顎をもった怪物。

「アリス殺し」ではある部分で大活躍?します。

※参考 ジャバウォックの詩―Wikipedia

「アリス殺し」感想・あらすじ

「アリス殺し」のネタバレなし感想・あらすじです。

『不思議の国のアリス』が存在しない世界

「アリス殺し」の現実世界には『不思議の国のアリス』が存在しません。

『不思議の国のアリス』のような世界観の夢を見る登場人物たちにとって、その世界観はあくまで夢。

同じ世界観の夢を見ている、という共通認識があるものの、その夢の世界観が『不思議の国のアリス』であるということに誰も言及していません。

ちゃんと読んだことがなくても『不思議の国のアリス』のストーリーを知っている方は多いはず。

そのため、この「アリス殺し」に最初から違和感を感じていたのは、誰もおとぎ話『不思議の国のアリス』を知らないこと、だったのだろうと思います。

まどろっこしい言葉遊びに隠された伏線

「アリス殺し」は夢の世界・不思議の国パートの会話劇が非常にまどろっこしいのが特徴です。

不思議の国の住人は基本的に頭がおかしいので、普通だったら2行ほどで終わる会話に1ページ以上も費やしています。

ややこしい言葉遊びは『不思議の国のアリス』の世界観を味わえるので、読むのを面倒に感じつつも悪くなかったです。

また、この言葉遊びの中にヌルッと伏線が隠されているのがポイント。

堂々巡りの会話のようでいて、その中に衝撃の事実がいくつも潜んでいたのは正直驚きました。


あまり語るとネタバレするので、感想を簡単に述べるにとどめます。

夢と現実という2つの世界において、特定の人物・キャラクター同士がリンクしている。

この設定そのものが壮大な伏線だったことは衝撃でした。

ミステリーとしてはもちろん、ファンタジーやSFとしても面白かったです。

ここまで「アリス殺し」の感想でした。

ここから先は「アリス殺し」のネタバレ全開です。

未読の方はご注意ください。

【ネタバレあり】まんまと引っかかった「アリス殺し」のトリック

「アリス殺し」のトリックは、夢と現実でリンクしているキャラクター同士が他人には分からない、というものでした。

そのため、他人がもう一つの世界でどのキャラクターなのかを知る確実な方法は、夢の世界のキャラクターが亡くなった場合のみとなります。

一番当てにならないのが自己申告だった、というのが「アリス殺し」のミソですね。

アリスの正体

井森=ビルは、思い込みから栗栖川亜理=アリスだと思い込んでしまいました。

思い込みの理由は2人で交わした合い言葉を知っていたからです。

しかし、その合い言葉を知る存在がもう1匹いたことを、井森=ビルも、わたしたち読者のほとんども忘れていました。

眠り鼠。

最初に登場してから全く登場しなかった眠り鼠。

彼(彼女?)は登場しなかっただけで、ずっとアリスのポケットの中に潜み、ことの成り行きを伺っていました。

眠り鼠が現実世界では誰なのか。

夢の世界と現実の姿・思考が似ているわけではない、と冒頭から示唆されていましたが、まさか眠り鼠=栗栖川亜理だとは思いませんでした・・・。

けれども夢の世界のアリスが殺害され、すんでの所で眠り鼠を逃がすことに成功、その後眠り鼠=栗栖川亜理が現実で真犯人を追い詰める、という流れは鮮やかでした。

また、夢の世界のアリスが、現実では栗栖川亜理が飼育しているハムスターだったというのも、伏線として見事でした。

ハムスターと2~3時間話し込んでいるというエピソードが、アリスの正体につながっているとは思いも寄らなかったです。

夢の世界・現実でリンクしているキャラクター

「アリス殺し」で、夢の世界・現実においてリンクしているキャラクターをまとめてみました。

夢の世界現実
アリスハム美(ハムスター)
トガゲのビル井森建
眠り鼠栗栖川亜理
白兎田中李緒
ハンプティ・ダンプティ王子
グリフォン篠崎教授
メアリーアン広山衡子(としこ) 准教授
ドードー田畑順二 助教授
公爵夫人西中島刑事
女王陛下谷丸警部
三月兎・帽子屋中学生2人組
「アリス殺し」キャラクター

リンクしているキャラクター同士を確かめる方法は殺害以外しかないため、先に『わたしは○○だ!』と自己申告した者勝ちというのがトリックでしたね・・・。

真犯人だったメアリーアン=広山衡子は自分の正体を伏せたことで優位に立ったように思い込み、実は正体を隠していた栗栖川亜理に追い詰められることになりました。

井森は警察コンビに正体を明かすことは慎重だったのに、栗栖川亜理や学校関係者に対しては警戒を怠っていたのが命取りになってしまいました。

しかし、最初にアリス=栗栖川亜理と井森が間違えて思い込んだことで栗栖川亜理が助かった、ということも否定できません。

どちらにしても、探偵役だった彼が中盤に殺されてしまったのは衝撃でした。

画期的な思いつきでも、ひらめいたのは自分1人だけとは限らない。

「アリス殺し」を読んで、そんな教訓が得られた気がします。

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