小林泰三さんのミステリー小説「ドロシイ殺し」の感想です。
「アリス殺し」「クララ殺し」に次ぐ<メルヘン殺し>シリーズ3作目の舞台は『オズの魔法使い』。
オズの国に迷い込んでしまった蜥蜴のビルと、そのアーヴァタール・井森建が自らの身を守るため密室殺人事件の捜査に乗り出します。
むごい殺人試験の意外な真相とは?
- 作者:小林泰三
- 対象:中学生~
- 性的な描写あり
- グロテスクな描写ふんだんにあり
- 残虐描写に注意
- 2018年に東京創元社より刊行
- 2021年6月に文庫化
- メルヘン殺しシリーズ3作目
「ドロシイ殺し」について
「ドロシイ殺し」は小林泰三さんのミステリー小説です。
1作目「アリス殺し」、2作目「クララ殺し」に次ぐ<メルヘン殺し>シリーズの3作目である、この「ドロシイ殺し」。
今回の舞台は「オズの魔法使い」の世界。
まずは、そんな「ドロシイ殺し」のあらすじを掲載します。
全世界でシリーズ累計50万部突破
『オズの魔法使い』×密室殺人!
善良な独裁者が支配する狂気の国の犯罪
現実と夢で交叉する連続死の真相とは
『アリス殺し』シリーズ第3弾夢の中にある世界〈不思議の国〉の住民である蜥蜴のビルは、砂漠を彷徨う中でドロシイと名乗る、案山子とブリキの樵とライオンを連れた少女に助けられる。彼女の力を借りて〈不思議の国〉へ戻ろうとするビルだが、その最中にオズの国の支配者・オズマ女王の宮殿の一室で死体が発見される。強力な魔法に守護され、軍人たちが囲んでいた宮殿で、誰がどうやって殺したのか? そして現実世界でも殺人が……夢と現実双方で起きる事件の意外すぎる真相とは。
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不思議の国から迷い出て、ホフマン宇宙へ辿り着き、気付いたら死の砂漠で干からびかけているビル。
「ドロシイ殺し」での蜥蜴のビルは未だかつてないほど絶体絶命の状況から始まります。
誰かに殺されるでもなく、普通に死にかけているビル。
そんなビルを助けたのは、ドロシイと名乗る少女・ブリキの木こり・案山子・ライオンという奇妙だけど、どこかで観たことがある組み合わせの一行でした。
何とか一命を取り留めたビルは、そのまま彼らが暮らす『オズの国』へと連れて行かれます。
そして同じ頃、ビルの分身(アーヴァタール)である大学院生・井森建も大学内でドロシイのアーヴァタールと遭遇します。
オズの国で歓迎?されたビルはエメラルドの都にある宮殿へと招かれますが、そこで殺人事件が発生。
ビルは小間使いのジェリア・ジャムと一緒に、事件の捜査をすることになります。
「ドロシイ殺し」の世界観について
「ドロシイ殺し」には
- おとぎ話のような夢の世界『オズの国』
- わたしたち読者は生きる世界とよく似た『現実世界』
という2つの世界が存在します。
このオズの国・現実世界の生物の一部はつながっていて、意識を共有しています。
オズの国に迷い込んだ蜥蜴(とかげ)のビルは、現実世界の井森建とつながっているのが1つの例です。
井森は1作目「アリス殺し」において、このビルと井森のような関係性を分身という意味の『アーヴァタール』と命名。
『ビルは井森のアーヴァタールである』という風に使われます。
アーヴァタールの関係は各組によってさまざま。
性格や思考が似ていることも、全く違うこともあります。
例えば、ビルは間抜けな蜥蜴ですが、井森は聡明な人物です。
ただビルと井森のように、夢の世界では人間ではないこともあります。
そして、この<メルヘン殺し>シリーズにおいて最も重要とも言えるのが、本体は夢の世界であるということ。
ビルと井森ではビルが本体、井森はビルの分身という扱いです。
そのため、現実の井森が亡くなっても、ビルが生きている限り井森は復活します。
一方、ビルが亡くなると、井森は自動的にビルと同じような状況で亡くなってしまいます。
その死を避けることはほぼ不可能です。
井森にとっては、間抜けで非力なビルがいかに夢の世界で生き延びるか、という究極のサバイバルを常に行っていることになります。
その設定を踏まえた上で「ドロシイ殺し」は進んでいきます。
<メルヘン殺し>シリーズ全4作をCheckする ≫モチーフは「オズの魔法使い」
「ドロシイ殺し」の元となる物語は「オズの魔法使い」です。
「オズの魔法使い」はアメリカの児童文学作家ライマン・フランク・ボームが手がけた児童文学で、1900年に刊行されています。
この「オズの魔法使い」は大ヒット作となり、続編も含めて14冊が刊行されました。
さすがに「オズの魔法使い」は知っていましたが、14作もシリーズがあったなんて知らなかったです・・・。
この「ドロシイ殺し」では、1作目「オズの魔法使い」だけでなく続刊の設定も登場。
シリーズを知っている方はもちろんですが、知らなかったわたしでも十分に楽しめました。
※「ドロシイ殺し」巻末では「オズの魔法使い」や続刊の簡単なあらすじ、キャラクター設定の解説があります。
「ドロシイ殺し」感想・あらすじ
「ドロシイ殺し」の感想・あらすじです。
描かれるのは本格的な密室殺人
「ドロシイ殺し」で描かれるのは密室殺人。
発見されるまで、誰も犯行現場に立ち入ることができないような状況で起こった殺人事件です。
しかも立て続けに2人の人物の死体が発見され、続いてもう1人が口封じに殺害されます。
この連続殺人事件を解決すべく捜査官に任命されたのが蜥蜴のビルと、宮殿の小間使いであるジェリア・ジャムでした。
ビルはともかく、ジェリアは理路整然と物事を考えられるタイプです。
一方、現実世界でも井森はジェリアのアーヴァタールである樹利亜(じゅりあ)とともに捜査を開始。
殺人事件の真相を突き止めるべく奔走します。
「アリス殺し」・「クララ殺し」いずれも殺人事件を描いたミステリーでしたが、今回は初めて密室殺人を描いているのが特徴です。
さらに、現実世界で犯人が名乗り出てくるなど、今までとは違った展開になります。
ただ結局のところ本体であるオズの国でのアーヴァタールを探し出す必要があり、現実で犯人が分かったとしても捜査が難航するのがポイント。
「ドロシイ殺し」では、現実世界で犯人を名乗る人物がオズの国では誰なのか、という謎解きに重きが置かれています。
また「ドロシイ殺し」の密室殺人はシンプルなのもポイント。
会話を注意深く読んでいけばピンとくるので読者であるわたしたちも謎解きに参加しやすいと思います。
アーヴァタール偽装がない
「ドロシイ殺し」ではアーヴァタールの偽装がないのが特長です。
「アリス殺し」・「クララ殺し」ではいずれも、キャラクターの自己申告によるアーヴァタールの偽装がトリックの一部となっていました。
※「アリス殺し」ではまさかの騙しているなんて!という感じ、「クララ殺し」は偽装していることを分かった上で推理するという感じでした。
しかし、この「ドロシイ殺し」ではアーヴァタールの偽装がありません。
よって、前2作と比べると、とても読みやすい仕様になっています。
前2作は夢と現実のキャラクター同士がゴチャゴチャになり、読んでいてとても混乱しました・・・。
ただ、その混乱具合は夢の世界の舞台である『不思議の国』や『ホフマン宇宙』の世界観にマッチしていたので意図的なのだろうと思います。
そう考えると「ドロシイ殺し」の舞台・オズの国はなんて整然とした世界なのだろうと感激します。
魔法がある時点でオズの国も結構ぶっ飛んではいますが、あまりに「アリス殺し」と「クララ殺し」の世界がハチャメチャだったのだなと自覚しました。
そんなアーヴァタールの偽装がない分「ドロシイ殺し」では直球のトリック・謎解きが行われることになりました。
ビル=井森が活躍!
1作目「アリス殺し」では脇役に徹していたビル=井森建ですが、2作目「クララ殺し」では主人公?に昇格。
そして、この3作目「ドロシイ殺し」でも再び主人公として事件に巻き込まれていきます。
ビルは相変わらず余計なことしか口にしない間抜けな蜥蜴です。
井森は聡明なのにどこか抜けています。好青年ですが、若干ビルのような間抜けさを感じさせるのがよいですね。
そんなビル=井森ですが、この「ドロシイ殺し」では1回も亡くなりませんでした!
「アリス殺し」でも「クララ殺し」でも殺人事件に巻き込まれていたので、今回はずっと無事で良かったです。
まあ無事ではあったものの酷い目には結構遭っていましたが。
最後にスプラッターが繰り広げられるのはお約束。
メルヘンな世界で起きる、現実でもそうはない凄惨な殺人事件をビルと井森は解決できるのか?
ここまで「ドロシイ殺し」の感想でした。