窪美澄さんの小説「やめるときも、すこやかなるときも」の感想です。
過去のトラウマを抱え続ける男性と、恋愛が上手くできない女性の恋愛を描いた小説です。
1人ではなく、2人になる意味を考えさせられる小説でした。
- 作者:窪美澄
- 対象:中学生~
- エログロ描写なし
- 2017年3月に集英社より刊行
- 2019年11月に文庫化
- 2020年1月にテレビドラマ化
「やめるときも、すこやかなるときも」について
「やめるときも、すこやかなるときも」は窪美澄さんの恋愛小説です。
タイトル「やめるときも、すこやかなるときも」は教会の結婚式で神父様が新郎新婦に尋ねる言葉として有名ですよね。
そんな言葉が使われているこの小説のテーマはもちろん結婚。
しかし、描かれるのは男女が結婚に至るまでのハードルについてでした。
まずは、そんな「やめるときも、すこやかなるときも」のあらすじを掲載します。
大切な人の死を忘れられない男と、恋の仕方を知らない女。
欠けた心を抱えたふたりが出会い、お互いを知らないまま、少しずつ歩み寄っていく道のり。
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変化し続ける人生のなかで、他者と共に生きることの温かみに触れる長編小説。
主人公は家具職人の須藤壱晴と、制作会社で働く本橋桜子。
どちらも32歳で独身、恋人もいません。
知人の結婚パーティーで出会い、そのまま壱晴の家で夜を明かした2人。
しかし、2人ともあまりにも酒に酔っていたのでなぜそうなったのかすら覚えていない状態でした。
翌朝に顔も合わせず2人は別れますが、その直後、仕事で再会。
それを機に、2人は交際を始めることになります。
2020年1月に連続ドラマ化
「やめるときも、すこやかなるときも」は、2020年1月から連続ドラマとして放送されていました。
主演は藤ヶ谷太輔さんと、奈緒さんでした。
「やめるときも、すこやかなるときも」感想・あらすじ
「やめるときも、すこやかなるときも」の感想です。
トラウマを抱えた主人公
「やめるときも、すこやかなるときも」の主人公の1人・須藤壱晴は高校時代のあるトラウマから普通の恋愛ができなくなった男性です。
行きずりの相手と身体を重ね、特定の相手を持たない。
また、12月のうち1週間ほど声が出なくなる『記念日反応』に悩まされてもいました。
この『記念日反応』は実際にある症状で、
亡くなった人の命日や誕生日、結婚記念日など、思い出が深い特別な日が近づくと、気持ちが落ち込んだり、体調が崩れたりするなど、亡くなった直後のような症状が再現すること
知立市
とのこと。人の死に関係している場合が多いため『命日反応』とも呼ばれます。
壱晴と桜子がちゃんと対面した2回目の日、壱晴は桜子の前で唐突に『記念日反応』を発症してしまいます。
そんな壱晴の状況に戸惑いながらも、何とか力になりたいと考える桜子。
2人は徐々に距離を縮め、壱晴が桜子への椅子作りのため桜子の実家を訪ねたときのある出来事から急速に仲を深めていき、交際を始めます。
その壱晴が桜子に惹かれたきっかけ。
壱晴の過去に関係してはいるものの、それだけではないのは重々承知で。
しかし後々、桜子が壱晴の過去を知り、壱晴が自分に惹かれた理由を考えてしまったときの絶望感は計り知れないだろうな、と思いながら読み、実際にそうなってしまったのが苦しかったです。
罪な男だとも思いますが、壱晴は壱晴なりにずっと苦しんでいるのも辛いところでした。
真面目でしっかり者なのに
「やめるときも、すこやかなるときも」の主人公のもう1人・桜子の悩みは30代を過ぎているのに性経験がないこと。
かつていた恋人は桜子に性経験がないことが分かると距離を置き、別れてしまいました。
真面目でしっかり者、倒産した父親の会社の借金を返すため働く親孝行の娘。
しかし、なぜか色々なことに不器用というか要領が悪いのが桜子の短所でもあります。
よく知れば魅力的ですが、第一印象が薄いタイプなのでしょう。
この「やめるときも、すこやかなるときも」は2017年に刊行された小説ですが、その頃はこういった仕事ができるのに恋愛経験がない、のような女性を描く作品が多くなっていた頃だったと思い返します。
基本的に何でもできるのに、自分がやりたいこと・したいことは何一つ上手くいかない。
そんな桜子が、たまたま同じベットで一晩をともにした壱晴と「結婚する」と友人たちの前で宣言。
この唐突な宣言は、壱晴とほとんど付き合いがない小説の序盤で発せられた言葉だったので少々突飛に聞こえます。
けれども、桜子の事情や思いが分かってくると、すんなり腑に落ちていきます。
桜子にとっての結婚と、壱晴にとっての結婚。
2人はそれぞれ異なる結婚への障壁を抱えています。
その障壁に2人が一緒にどう立ち向かっていくのかが、小説のテーマだったのだろうと思います。
なぜ結婚するのか?
「やめるときも、すこやかなるときも」で、個人的に一番好きなキャラクターが壱晴の大学時代の友人である妙子。
(理由はあるものの)女癖が悪い壱晴にとって、恋愛対象にならず、同等に付き合っていける友人でした。
彼女の存在とある決断は、結婚がテーマであろうこの「やめるときも、すこやかなるときも」にとっても大きな存在だろうと思いました。
なぜ結婚するのか。
そのテーマを突きつけられるような存在だったのだろうと勝手に思いました。
また、小説本編とは関係ありませんが、ドラマ化された際に妙子の存在が消されていたようなのは、けっこう悲しいです。
大きな諍いや衝突がほとんどなく、静かに淡々と進んでいく物語だったので、終盤にあった壱晴と桜子の衝突は読んでいて辛かったです。
わたしにとっては、主人公2人のどちらにも共感できる小説でした。
あと、個人的に家具職人、カッコいい・・・、とうっとりしていたのも白状します。
ここまで「やめるときも、すこやかなるときも」の感想でした。