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「夜に星を放つ」窪美澄 星・星座を中心に据えた5編が収録された短編小説【直木賞】

夜に星を放つ窪美澄 夜空 イメージ 小説
Brigitte WernerによるPixabayからの画像

窪美澄さんの小説「夜に星を放つ」の感想です。

直木賞を受賞した粒ぞろいの短編集です。

星や星座が物語の根底にある、澄んだ印象の小説でした。

基本情報
  • 作者:窪美澄
  • 対象:中学生~
    • エログロ描写なし
  • 2022年5月に文藝春秋社より刊行
  • 第167回直木賞・受賞作

「夜に星を放つ」について

「夜に星を放つ」は窪美澄さんの小説です。

5編の独立した短編が収録された短編小説となります。

窪美澄さんはこの「夜に星を放つ」で直木賞を受賞。

この「夜に星を放つ」は、窪美澄さんらしい、静かに日常を描いた作品となっています。

まずは、そんな「夜に星を放つ」のあらすじを掲載します。

かけがえのない人間関係を失い傷ついた者たちが、再び誰かと心を通わせることができるのかを問いかける短編集。

コロナ禍のさなか、婚活アプリで出会った恋人との関係、30歳を前に早世した双子の妹の彼氏との交流を通して、人が人と別れることの哀しみを描く「真夜中のアボカド」。学校でいじめを受けている女子中学生と亡くなった母親の幽霊との奇妙な同居生活を描く「真珠星スピカ」、父の再婚相手との微妙な溝を埋められない小学生の寄る辺なさを描く「星の随に」など、人の心の揺らぎが輝きを放つ五編。

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「夜に星を放つ」はこの小説全体のテーマであり、表題作となる短編はありません。

どの短編にも『星』や『星座』の話が登場。

また、どのお話も家族や大切な人を失った、もしくは失うことがテーマとなっています。

1編が40ページ強という短さですが、ストーリーの奥深さは長編さながら。

一気読みでも、1編ずつゆっくりでもどちらでも楽しめる小説です。

「夜に星を放つ」各話感想・あらすじ

「夜に星を放つ」の短編ごとの感想・あらすじです。

真夜中のアボカド

書かれたのは2021年2月。

『真夜中のアボカド』で描かれている世界もちょうどその頃になります。

コロナ2年目、リモートワークにも慣れ、少しずつ外出しやすい空気になった頃ですね。

語り手は32歳の綾。

綾はコロナ前にマッチングアプリで出会った男性・麻生との関係に悩んでいました。

人と会う、ただそれだけのことが難しくなっていたときですよね。

一応、恋人だけど、コロナ禍で無理矢理合うほどの関係ではない人。

そんな中、綾は双子の妹・弓の恋人である村瀬と月に1回のペースで会う習慣を再開させていました。

弓は2年前に病気で突然この世を去っています。

そんな弓と同棲していた村瀬はまだ弓の存在に囚われて生きていました。

一卵性双生児の妹の突然死、というのは親や他の兄弟の死よりも重いのは、その立場ではないわたしでも想像できます。

大切な人との別れに対する向き合い方は人それぞれ。

ラストが爽やかでとても良かったです。

テーマとなる星座は『双子座』、星はポルックスとカストルです。

銀紙色のアンタレス

『銀紙色のアンタレス』は2015年に書かれた短編。

「夜に星を放つ」の収録作でもっとも古い短編でした。

もちろん、コロナ禍の影など全くなく、16歳の少年が経験した一夏の恋を描いています。

夏休みを利用して、海辺にある祖母の家にやってきた真が語り手。

夏が大好き、海が大好き、という真の天真爛漫さは小説なのに眩しくて直視できないレベルでした・・・。

天真爛漫な真ですが、性格は素直でまっすぐ。

愛ではなく恋の話、というのは「夜に星を放つ」の中でも異彩を放っていました。

テーマとなる星は蠍(さそり)座の『アンタレス』。赤く輝くのが特徴の星です。

真珠星スピカ

語り手は中学1年生のみちる。

みちるには二ヶ月前に亡くなったはずの母親の姿が見えています。

交通事故により唐突に奪われた命。

さらに、みちるは学校でいじめの標的になっていました。

それでも何とか保健室登校を続ける日々。

隣の家に住む、担任の船瀬先生(尚ちゃん)はとても良い人ですが、どことなく空気が読めない人でもあり、学校の居心地の悪さは変わりませんでした。

保健室の三輪先生に見守られつつ帰りのホームルームだけは出席できるようになったある日、みちるはいじめっ子たちに無理やり連れ出されてしまいます。

いじめの描写は読んでいて辛く、ひたすらに胸が痛みます。

それでも、みちるに助けてくれる人たちがいて良かったです。

テーマとなる星は乙女座の『スピカ』。別名は『真珠星』。

ストレートに家族愛が描かれた、少しファンタジックなお話でした。

湿りの海

『湿りの海』の語り手は妻の不倫により1年前に離婚した沢渡。

3歳だった娘を連れ、妻はアメリカ・アリゾナ州へ。

週に1回、ビデオ通話でのみ会える存在となった娘のことを思いつつ、抜け殻のような日々を送っていました。

そんな沢渡の日常は、隣の部屋にシングルマザーが引っ越してきたことで一変します。

3歳の娘と暮らす船場と徐々に親密になっていく沢渡。

その姿はまるで疑似家族のようだと本人も感じていました。

そんなある日、沢渡は船場親子と海へ行くことになります。

タイトル『湿りの海』は沢渡の部屋に飾られている絵の名前です。

そして、この短編のテーマとなる星座は『こと座』。

ギリシア神話に登場する吟遊詩人・オルフェウスが持っていた竪琴をゼウスが星座にした、という言い伝えがある星座です。

こと座には夏の大三角形の1つであり、織姫星としても知られるベガがあることでも有名ですね。

なぜ、こと座がテーマなのかは短編冒頭で説明されます。

また、この『湿りの海』について、直木賞寿諸語のインタビューで窪さんは

4作目に収録されている「湿りの海」という作品について、読者の方との交流会で「わたし、この主人公が大っ嫌いです」と言われて。すごくショックだったのですが(笑)、若い女性からしたらずるい男性を書いていたのだなと思いました。書いた後に、登場人物がどういう人かわかるということがあるのですが、今回は「嫌な男性を書いたのだな」とずしんと来ました。

文春オンライン 本の話

と語っています。

わたし自身は、沢渡をそこまで嫌いではないですが、もし短編の登場人物の1人だとしたら少し怖い人だなとは思います。

おそらく沢渡本人としては善意の行動でも、客観的に見ると無責任な行動ではあると感じます。

ただ、沢渡が語り手なので、若干、感情移入してしまうのも事実です。

星の随に

書かれたのは2021年8月、収録作のうちもっとも新しい短編です。

語り手は小学4年生の想(そう)。

両親が離婚し、父親に引き取られ、2年前から父親の再婚相手と暮らしていました。

春には弟が生まれたばかり。

しかし、父親が経営するカフェはコロナ禍の煽りを受け苦しく、継母は慣れない育児で精神が不安定に。

ある日、想が学校から帰ると、玄関にストッパーがかかり、継母に呼びかけても中へ入れてはもらえませんでした。

閉め出された想は、仕方なくマンションのロビーで時間を潰すことに。

そこで想は同じマンションの住人である佐喜子さんと出会います。

直接的な虐待じゃないものの、地味に辛い仕打ち。

しかし、その状態を受け入れてしまう想はまだ幼いのだと感じました。

テーマとなる星は夏の大三角。

ベガ・デネブ・アルタイルの3つ星は、それぞれこと座・はくちょう座・わし座の星です。

素人でも見つけやすい3つの星は、夏の天体観測において他の星を探す目印となります。


どの話も重苦しい話なのですが、雰囲気は爽やかで読みやすかったです。

良質な短編集を読みたい!という方に是非ともオススメしたい1冊さと思います。

ここまで窪美澄さんの小説「夜に星を放つ」の感想でした。

※参考 窪美澄さん『夜に星を放つ』第167回直木賞受賞インタビュー

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