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「いけないⅡ」道尾秀介 文章と写真から読者が推理する体験型ミステリー2作目

いけないⅡ道尾秀介 滝 小説
Kohji AsakawaによるPixabayからの画像

道尾秀介さんのミステリー小説「いけないⅡ」の感想です。

文章と写真から読者も謎解きにチャレンジできるミステリー小説の第2弾が登場しました。

女子高生の行方不明から端を発し、次々起こる事件たち。

別の事件が1つに繋がったときに浮かび上がる驚愕の真相とは?

「いけないⅡ」基本情報
  • 作者:道尾秀介
  • 対象:中学生~
    • 性的な描写なし
    • グロテスクな描写あり
  • 2022年9月に文藝春秋より刊行
  • 「いけない」の続編

「いけないⅡ」について

「いけないⅡ」は道尾秀介さんのミステリー小説です。

大きな話題を読んだ”体験型ミステリー”第2弾。として刊行されたシリーズ2作目。

1作目「いけない」の感想は↓

「いけないⅡ」の特徴は、前作「いけない」と同様に各章のラストページに写真が掲載されていること。

その写真によってストーリーの結末が浮かび上がる、まさに体験型ミステリー小説です。

三章+終章の連作短編集

「いけないⅡ」は一・二・三章と終章の計4章からなる連作短編集です。

同じ箕氷(みごおり)市という土地で起きた複数の事件。

一・二・三章ではそれぞれの事件が描かれ、終章ではそれら事件のつながりを描いています。

章ごとに独立しているので、1章ずつでも充分楽しめます。

しかし、終章で章ごとのつながりが判明し、また違う側面から楽しめました。

【ネタバレなし】「いけないⅡ」感想・あらすじ

「いけないⅡ」のネタバレなし各章ごとの感想・あらすじ掲載です。

第一章「明神の滝に祈ってはいけない」

第一章「明神の滝に祈ってはいけない」
桃花はひとり明神の滝に向かっていた。一年前に忽然と姿を消した
姉・緋里花のSNS裏アカウントを、昨晩見つけたためだ。
失踪する直前の投稿を見た桃花には、
あの日、大切にしていた「てりべあ先生」を連れて
姉が明神の滝に願い事をしに行ったとしか思えない。
手がかりを求めて向かった観瀑台で桃花が出会ったのは、
滝の伝説を知る人物だった。

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1年前に行方不明となった姉を探す、高校2年生の少女・桃花が語り手。

また、桃花の視点と交互に、鶴麗山(かくれいさん)にある避難小屋の管理人・大槻の語りも挟まれます。

1年前の鶴麗山で何があったのか。

後味はとにかく最悪でした。

この第一章「明神の滝に祈ってはいけない」のみ冒頭・末尾に写真が掲載されています。

冒頭の写真を何となく見て読み進めていき、ラストページの写真を見ると絶望感が半端なかったです・・・。

第二章「首なし男を助けてはいけない」

第二章「首なし男を助けてはいけない」
夏祭りの日、少年は二人の仲間を連れて大好きな伯父さんを訪ねる。
今夜、親たちに内緒で行う肝試し、その言い出しっぺであるタニユウに
「どっきり」を仕掛けるため、伯父さんに協力してもらうのだ。
伯父さんは三十年近くも自室にひきこもって、奇妙な「首吊り人形」を作っている。
その人形を借りて、タニユウの作り話に出てきたバケモノを出現させようというのだ。

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小学生の真が語り手。

夏祭りの夜、仲良し4人組で肝試しをしようと約束した真たち。

そのうち1人を驚かすため、3人でドッキリを企みます。

子どもだけで準備をするのは難しかったので、真は引きこもりの伯父に準備の手伝いを頼むことに。

少年のいたずら心と純粋な善意が生んだ悲劇、というべき結末でした。

ラストページの写真はめくる前からうすうす想像できましたが、心臓に悪かったです。

第三章「その映像を調べてはいけない」

第三章「その映像を調べてはいけない」
「昨夜……息子を殺しまして」。
年老いた容疑者の自白によれば、
息子の暴力に耐えかねて相手を刺し殺し、
遺体を橋の上から川に流したという。
だが、その遺体がどこにも見つからない。
必死で捜索をつづける隈島刑事は、やがてある「決定的な映像」へとたどり着く。
彼は先輩刑事とともに映像を分析しはじめ――
しかし、それが刑事たちの運命を大きく変えていく。

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引きこもりの息子に殺されかけ、逆に殺害した。

そう自首した老人・千木と、その取り調べを担当した刑事・隈島の語りから物語は進みます。

殺人犯が自首をしたものの、肝心の遺体はいつまで経っても発見できません。

隈島たち刑事は焦りを募らせます。

そんな中、殺された千木の息子の部屋からある証拠品を発見、捜査は急展開を迎えます。

遺体が発見されなければ、いくら犯人が自首しても罪にはならない。

その前提から繰り広げられる犯人と刑事の攻防が楽しめるミステリーとして純粋に楽しめました。

終章「????????はいけない」

あらすじが伏せ字になっているのでそのまま伏せ字で掲載します。

そして、書き下ろしの終章「????????はいけない」
――すべての謎がつながっていく。前作を凌ぐ、驚愕のラストが待つ!
各話の最終ページにしかけられたトリックも、いよいよ鮮やかです。

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一・二・三章で残された謎がすべて繋がり、解明される解決編のような章です。

この小説のそもそもの発端である事件の意外な真相が明かされます。

『そこから繋がっていたのか・・・』と衝撃を受け、またラストページの写真からは罪からの解放を感じました。


「いけないⅡ」のストーリーは『良かれと思った行動が裏目に出る』という共通点がありました。

1作目の「いけない」は最終的には救いのある話だったので、そこが大きな違いかもしれません。

ただ「いけないⅡ」も一部では救いや未来に繋がる話ではあります。

しかし、大部分では絶望的で、あまりにも救いがないと思いました。

ここまでネタバレなしの「いけないⅡ」感想・あらすじでした。

↓にはネタバレありの感想・あらすじを掲載しています。

ここからは「いけないⅡ」のネタバレあり感想・あらすじです。

未読の方はご注意ください。

わたし独自の考察・推理も掲載しています。

【ネタバレあり】「いけないⅡ」感想・あらすじと考察

「いけないⅡ」の感想・あらすじ、そしてわたしなりの考察です。

第一章

第一章はサブタイトル「明神の滝に祈ってはいけない」の言葉通り、明神の滝に祈った少女2人が命を落とす展開でした。

文中で大槻が『明神の滝は祈りを捧げた人の命と引き換えに願いを叶える』と話していましたが、本当にその通りになってしまいます。

姉・緋里花の『母親の病気を治してほしい』という祈りも、桃花の『姉が見つかってほしい』という祈りも結局、聞き入れられました。

ただし救いは皆無です。

この第一章の仕掛け2つについてそれぞれ考察していきます。

時間の仕掛け

第一章の仕掛けは、語り手によって時間が1年ズレていること。

  • 桃花:2020年・ねずみ年
  • 大槻:2021年・うし年

この仕掛けが明かされるのがラストページの写真にある、大槻が毎年作っている干支モチーフの雪だるま。

冒頭での緋里花あての年賀状や、桃花が言及する雪だるまによって、桃花が生きているのが『ねずみ年』であることが示唆されます。

しかし、ラストページの写真には『うし』の雪だるま。

この写真により、大槻が1年前に殺害したのは桃花だった、ということが分かってしまいます。

写真の仕掛け

そして、冒頭の写真。

これは冷凍庫の中から逃げ出し、追い詰められた桃花を大槻が撮影したもの。

この冒頭の写真に、文中で示唆される『確実に写っていると思っていたもの』が写っていないことで大槻は一旦、桃花から離れます。

しかし、写真を注視した大槻は、『確実に写っていると思っていたもの』が写っていない理由に気付き、桃花を手にかけてしまったのでしょう。

『確実に写っていると思っていたもの』、それは冷凍庫のドアで挟み負傷した右手の中指です。

祈りを捧げるよう組まれた少女の手指。

その指はよく見て数えると一本足りません。

また、実際に指を組んでみると分かりますが、写真の指の組み方は不自然です。

右手の中指を左手の中指の下に隠しているので、このように不自然な組み方になっているのでしょう。

写真を撮った直後に見たときは気付かなかった大槻ですが、その後しっかり見たことでその違和感に気付き、冷凍庫の遺体を見てしまった桃花は殺されてしまったのでしょう。

2年連続で娘を失った桃花・緋里花の両親がかわいそうで仕方がない結末でした。

第二章

第二章「首なし男を助けてはいけない」は、終盤悪い結末が予想できつつ、ラストページの写真でやはり最悪の結末を見せつけてくる、非常に気が滅入る話でした。

ドッキリを仕掛けようという思いに引きこもりの伯父を巻き込む。

それが社会復帰の一助となればいい、そんな真の純粋な思いがことごとく打ち砕かれていくのは心苦しかったです。

川で溺れた自分を助けた父親、そんな父親の腕を振り払い、結果的に死なせてしまった。

そんな過去を抱えながら、30年以上、首吊り男を作り続けた伯父。

車で撥ねて川に落としてしまった首なし人形を引き揚げたのは、今度は救いたいという意志があったからでしょう。

しかし、その夜、真との会話の食い違いから死を決意してしまいます。

真は騙すつもりだった同級生の話をしていたつもりでしたが、伯父は父親を死なせてしまったときの話だと思ってしまう。

真の『殺しちゃったの?』はあまりにも悪意がなくて恐ろしかったです。

伯父が首なし人形(男)を助けたことがきっかけで真が間違った推理を導き、結果的に伯父を死に追いやってしまった。

まさに「首なし男を助けてはいけない」だったのですね。

第三章

第三章「その映像を調べてはいけない」の面白さは重なった嘘の見事さ。

殺人を犯しても遺体が出なければ罪に問えない。

それを利用して、捜査の盲点となる場所に遺体を隠した老夫婦の話でした。

遺体を隠した場所はラストページの写真でようやく分かります。

息子は好きだった花の下で眠っている。

ラストページの写真はコスモス(秋桜)。

幸せだった頃に家族で行った旅行先のコスモス畑、そのホームビデオのワンシーンです。

牡丹や山茶花など、花の名前がいくつか登場する第三章のうち、コスモスは1シーンのみ登場します。

『畳とぴったり平行に置かれた座卓』その上の一輪挿しに生けられていたのがコスモスでした。

終章でも明かされますが、息子の遺体はその座卓の下の、そのまた畳の下、床下でした。

けれども自首した千木は川に流したと嘘の自白をします。

しかし、そもそも川に流していないので、どんなに探しても遺体は見つかりません。

そして刑事たちが怪しむのを見越して、仕掛けておいたのがドライブレコーダーでした。

わざわざ深夜に山まで行き、映像を撮影。

山へ捨てたと思わせることで、刑事の目を欺いたのですね。

※このドライブレコーダーのトリックは終章にも繋がっていました。

「その映像を調べてはいけない」の言葉通り、映像を調べたことで捜査が暗礁に乗り上げてしまったのですね。

終章

一・二・三章の登場人物のその後が描かれた終章「祈りの声を繋げてはいけない」。

「いけない」とありますが、祈りの声を繋げたことで、終章まで明かされなかった『桃花の姉・緋里花の行方』がようやく明かされます。

全ての発端となった緋里花の行方不明。

その原因と緋里花の居場所、そしてラストページでは緋里花が両親の元へ戻れる救いとなる写真が掲載されていました。

千木の妻・智恵子の病室に入る前に確認した時刻は午前9時58分。

写真にあるスマホの時刻は10時1分。

おそらく小説が完結した直後に着信があったのでしょう。

緋里花の20才の誕生日、かつて明神の滝で『事件を解決したい』と願った隈島の祈りが通じた。

そんな救いが感じられるラストでした。

「いけない」との繋がり『隈島』について

この「いけないⅡ」に登場する刑事・隈島。

数年前に同じく刑事だった兄が殉職しているとの情報から、前作「いけない」に登場した隈島の弟なのでは?と思ってしまいますよね。

しかし、第三章で、隈島の年齢は30歳とされ、兄とは6歳差とも明かしています。

「いけない」で亡くなったときの隈島は39歳でした。

そのため時間も年齢も合いません。

隈島が大槻に対し嘘をついている可能性もありますが、ただ単に「いけない」の隈島と「いけないⅡ」の隈島は同姓の他人なのだろうと思います。

ここまで「いけないⅡ」の感想でした。

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