道尾秀介さんの体験型ミステリー小説「きこえる」の感想です。
小説内の二次元コードを読み取ると謎の真相が聞こえる。
そんな文章と音声による未体験の謎解きを体験できるミステリー短編が5つ収録されています。
文章にも音声にも謎が散りばめられた、一瞬たりとも気が抜けない没入感を体験できます。
- 作者:道尾秀介
- 対象
- 中学生以上
- 性的な表現ややあり
- グロテスクな表現あり
- 二次元コードを読み取れる機器(スマートフォンなど)を持っている方
- インターネット環境にある方
- 中学生以上
- 2023年11月にKADOKAWAより刊行
「きこえる」について
「きこえる」は道尾秀介さんのミステリー小説です。
この「きこえる」、ただのミステリーではありません!
文章だけでなく「耳」でもミステリーを体感できる、全く新しい体験型ミステリー小説でした。
音声付きの小説なんて、今まで読んだことがありませんよね?
まずは、そんな「きこえる」のあらすじを掲載します。
あなたの「耳が」推理する。「音」が導く真相に驚愕する。
読者を1ページ目から未知の世界へ連れて行く。謎が「きこえて」くる。
衝撃が、あなたの耳に直接届く。
物語×音声。小説を立体的に体感する、まったく新しい「謎解き」の新体験型エンタメ、誕生!私たちの生活に欠かせない「音」。
きこえる―Amazon.co.jp
すべての謎を解く鍵は、ここにある。
「きこえる」には、それぞれ趣向の異なるミステリーの短編が5つ収録されています。
連作ではなく、いずれも完結したストーリーなので空いた時間にサクッと読み進められるのが特徴ですね。
そして、この「きこえる」の特徴は何と言っても耳で推理する新感覚小説であるという点です。
文章×音声によるミステリー体験
あなたの「耳」が推理する。
これは、小説「きこえる」の本の帯に書かれている言葉です。
その言葉通り「きこえる」では、文章と音声を組み合わせた、新しいミステリーに出会えます。
※本作は、音声と小説を融合させた誰も経験したことのない「体験型ミステリ」です。小説を読み進めると、作中の様々なタイミングで「二次元コード」が登場します。そのコードを読み取り、音声を再生してください。それはあなたを新しい世界に連れて行ってくれる「音」です※
きこえる―Amazon.co.jp
小説のあるタイミングで二次元コード(いわゆるQRコードです)が登場。
※実際の二次元コードは公開NGなのでイメージです。
その二次元コードをスマートフォンで読み取ると、YouTubeの限定チャンネルにアクセスでき、オリジナル音声を聞くことができます。
また、スマートフォンを持っていなくても、コードのすぐ下にURLが掲載されているためパソコン・ガラケーからでも音声を体験できます。ご安心ください。
1人1台がスマートフォンなどを持っている現代だからこそできる仕掛け。
相変わらず、時代の最先端をひた走っているのが道尾秀介さんらしいと思います。
音声が加わることで没入感が増し、イヤホンをすることで小説の登場人物が本当にすぐ側にいるかのようなリアリティを感じました。
スピーカーでも楽しめますが、キャラクターの息づかいすら感じられるイヤホン使用がオススメです。
【ネタバレなし】「きこえる」感想・あらすじ
「きこえる」の感想・あらすじです。
新感覚ながら本格的なミステリーを堪能
音声とともに謎解きを楽しめる「きこえる」ですが、本編のミステリーもしっかり本格的です。
短編5つはいずれもミステリーの傾向が異なり、毎回、新鮮な感覚で楽しめました。
特に第二話は、小説ならではのトリックに翻弄され、音声を2回連続で聞き直してしまうほどでした。
また、第三話は、道尾作品ではよくある小学生男子が主人公の短編。
相変わらず子どもにも容赦なく、しかし最後にはしっかり感動させる優しさも感じました。
小説でしかできないトリックに音声で答え合わせをさせるこの取り組みはとても面白く、かつて経験した英語のリスニング試験と同じくらいの集中力で耳を澄ませました。
ただ「小説で答えを出さず、音声で答えを提示する」というスタイルは、けっこう難易度が高めだったと思います。
しかし、その分、第一話から話数を重ねるごとに音声の難易度も上がっていくため、読者側も鍛えられることが想定されています。
その上、短編はどれも語り手の目を通した主観により展開します。
主観のミステリーは「きこえる」に限らず、基本的に語り手が信用できないのもポイントです。
今、流行りのリアル謎解きゲーム的な感覚で楽しめる、アトラクション的な小説でした。
予想を超える音声の完成度
「きこえる」は音声での謎解きが楽しめる小説ですが、その音声はこの小説のために作られたオリジナルのもの。
人の話し声はもちろんですが、周囲の音や環境音、ノイズ、そして歌。
冒頭の二次元コードを読み取り、音声が耳に流れた瞬間、思わず「おおっ」と声が出るほどビックリしました。
とてもしっかりした楽曲が流れてきます。
音声は短いもので1分弱、長いものでも5分以上です。
最初は、けっこう長めだな~、と思いつつ、聞き続けていると引き込まれてしまう完成度でした。
小説の枠にとらわれない試み
読者に音声での推理を委ねる「きこえる」の試みはもちろんですが、道尾秀介さんはこれまでにも小説の枠にとらわれないチャレンジをしてきた作家でした。
以前の記事でも紹介しましたが「いけない」シリーズは文章と画像(写真)を組み合わせたミステリーでした。
この「いけない」2作にハマった方は新作「きこえる」も絶対ハマります。
自分で真実を目の当たりにする、あのゾクゾクした感覚は唯一無二の快感です。
また、読む順番は自由!な6つの短編にて構成された「N」もチャレンジングでした。
読む順番で結末が変わってしまう、というのはスリリングでした・・・。
聞こえてくる音声で答えを導き出す。
この体験は、実際に体験することでしか味わえない面白さです。
また、音声に集中するのはもちろんですが、時々、画面をチェックするのもお忘れなきよう。
読むときは静かな環境で、イヤホンを装着して楽しんでください。
ここまで「きこえる」の感想でした。