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「きいろいゾウ」西加奈子 ツマ・ムコさんと呼び合う夫婦の平穏な日常と苦い過去

象と少女 きいろいゾウイメージ 小説

西加奈子さんの小説「きいろいゾウ」の感想です。

穏やかでのんびりとした田舎で暮らす若い夫婦のツマとムコさんの暮らしが描かれた小説です。

しかし平和だった二人の生活に、過去からの暗い影が忍びより・・・。

イキイキとした描写とゆったりとした時間の流れを味わえる、一風変わった恋愛小説です。

「きいろいゾウ」あらすじ
  • 作者:西加奈子
  • 対象:小学校高学年~
    • グロテスクな描写はなし
    • やや性的な描写はあり
  • 2006年3月に小学館より刊行
    • 2008年3月に文庫化
    • 2006年7月に劇中に出てくる「きいろいゾウ」の絵本を刊行
    • 2013年に実写映画化

「きいろいゾウ」あらすじ

「きいろいゾウ」は西加奈子さんの小説です。

西加奈子さんにとって3作目の小説でもあります。

デビュー間もない時期に書かれた小説ということもあり、西加奈子さんの強めのクセが鋭く残っています。

そんな「きいろいゾウ」のあらすじを掲載します。

夫の名は武辜歩、妻の名は妻利愛子。お互いを「ムコさん」「ツマ」と呼び合う都会の若夫婦が、田舎にやってきたところから物語は始まる。背中に大きな鳥のタトゥーがある売れない小説家のムコは、周囲の生き物(犬、蜘蛛、鳥、花、木など)の声が聞こえてしまう過剰なエネルギーに溢れた明るいツマをやさしく見守っていた。夏から始まった二人の話は、ゆっくりと進んでいくが、ある冬の日、ムコはツマを残して東京へと向かう。それは、背中の大きな鳥に纏わるある出来事に導かれてのものだった―。

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「きいろいゾウ」は田舎で暮らす夫婦・ツマとムコさんの夏から冬にかけてを描いたお話です。

二人の生活と、二人を取り巻く人々との温かい交流を描いています。

けれども、中盤まで賑やかで明るい話なのですが、後半に入るとガラッと雰囲気が変わります。

西加奈子が絵も担当した絵本も

この「きいろいゾウ」には、小説の柱ともいえる『きいろいゾウ』という絵本が登場します。

この絵本『きいろいゾウ』は西加奈子さんのオリジナル。

しかし、小説「きいろいゾウ」の刊行から4カ月後に、西加奈子さん自らが手がけて本物の絵本を刊行しています。

小説とともに読むと、物語の世界観がグッと広がります。

2013年に実写映画化

「きいろいゾウ」は2013年に実写映画化もされています。

↑Amazon Prime videoなら無料で映画を観られます。

主演は宮崎あおいさんと向井理さん。

人気俳優2人の共演で大きな話題になったので、覚えている方も多いのではないでしょうか?

映画化前より「きいろいゾウ」のファンだったと語るお二人の好演を確認してみましょう。

「きいろいゾウ」の感想

「きいろいゾウ」の感想です。

ツマ・ムコさんの夫婦の形

「きいろいゾウ」のテーマは1つではありませんが、小説の核となる大きなテーマは「いろいろな夫婦」だと思います。

まず、主人公夫婦であるツマ(妻利愛子)とムコさん(武辜歩)。

2人の名前からしても、この「きいろいゾウ」は夫婦の話なのだと示唆しているように感じます。

また、ツマは「妻」ですが、ムコさんは「婿」であることが少し気になります。

妻は結婚している女性の配偶者を示す言葉とされています。

夫婦がいて、女性の方が妻ということですね。

一方、婿は『娘の夫』という意味。

日本の家制度を元に、妻の家に入った男性とされています。

そこまでたいそうな意味はないかもしれませんが、この名前からムコさんはツマという(家のような)存在の中に入ったと深読みできます。

小説では、幼い少女のようなツマを頼もしいムコさんが支えるといった関係性のように物語が始まります。

けれども、小説を読み進めていくと、お互いがお互いを支え合っている、そして終盤ではツマが現在のムコさんの心の支えになっているということが分かります。

ムコさんはツマの庇護下にあり、守られている。

どこかそんな感じがする不思議な関係性でした。

ツマ・ムコさんを取り巻く人たち

ツマとムコさんの周りにはいろいろな夫婦がいます。

隣に住む老夫婦であるアレチさんとセイカさん。

アレチさんは気さくな老人でツマ・ムコさんにも親しくしていますが、そのツマであるセイカさんは認知症です。

しかし、アレチさんや周りの人たちはセイカさんを邪険にせず、そのままのセイカさんを愛しています。

ごはんがちゃんと食べられなくても、ちゃんと遊べなくても誰も叱りません。

その普通な扱いにじんわりとした優しさを感じました。

また、平木直子とその夫のエピソードも印象的です。

占い師に「不幸になる」と言われ、親や兄妹にも結婚を反対されたのに、押し切って結婚した平木直子。

案の定、夫から暴力を振るわれ続け、孫ができた今でも幸せとは言えない状況です。

それでも「夫と一緒になってよかった」と言い切る彼女に辛さと強さの両方を感じました。

恥ずかしいを積み重ねて大人になる

ツマ・ムコさんの近所の駒井さんの孫・大地君のエピソードも印象的でした。

美少年で頭も良い、非の打ち所がない優等生のような大地君ですが、登校拒否により田舎の祖父母の家に預けられている少年でした。

大地君はツマ・ムコさんと打ち解け、頻繁に二人の家に遊びに来るようになります。

そんな大地君が登校拒否になった理由は、学校で恥ずかしい思いをしたからでした。

その恥ずかしいことは、大人からすれば、他の子どもにとっても取るに足らないようなこと。

しかし、恥をかいた大地君は、大人になるということは恥をかき続けるということだと気付き、怖くなり学校に行けなくなってしまいます。

その繊細な少年の心の成長という観点でも、この「きいろいゾウ」はとても良い話だったと思えました。

ただ、大地君は小学3年生なのですが、現実にこの年でこんなに利口で良い子が存在するのかは若干フィクション感がありました。

<ネタバレあり>ツマにとっての「きいろいゾウ」とは?

「きいろいゾウ」には、各章の巻頭にオリジナルの絵本「きいろいゾウ」のストーリーが紡がれています。

絵本「きいろいゾウ」は、病気で入院している女の子を空を飛べる不思議な象が背中に乗せ世界中を旅する、というお話。

幼いツマはこの絵本「きいろいゾウ」を読み、絵本の少女を自分と照らし合わせ、入院していて孤独な少女時代を生き抜きました。

そして、ツマと同じようにムコさんも幼い頃に「きいろいゾウ」を読んでいました。

絵本「きいろいゾウ」では、最後にきいろいゾウが普通の灰色のゾウになり、女の子のいる世界で生きていくことを決意します。

女の子に病気を治して探しに来てと告げ、別れました。

絵本はここで終わってしまいますが、この「きいろいゾウ」を読んだツマ・ムコさんは大人になり運命の出会いを果たします。

そして、いっしょにいることを決意し、結婚します。

ツマにとって「きいろいゾウ」はムコさんだったのだと思います。

女の子は生きて元気な身体になることを決意する。

きいろいゾウは空を飛べなくても、地上の世界は美しいことに気付き、女の子のいる世界で生きていくことを決意する。

ムコさんはきいろいゾウのように、ツマのそばでツマに生きる希望を与えました。

そして、ツマはムコさんにいっしょに生きていくことの幸せを気付かせました。

過去に捕らわれかけていたムコさんを今に引き戻したのはツマでした。

ラストでは「もうこの二人は大丈夫だろう」と思わせて幕が下ります。

互いが互いを必要としている。

そんな憧れられるような強い結びつきの夫婦でした。

飛べない鳥のエピソード

わたし個人的には、ムコさんの過去の恋愛のエピソードがロマンチックで素敵でした。

道徳的に不倫はダメですが、だからこそ鳥の絵に思いが込められていると感じます。

背中に描かれた美しい鳥の絵。

鳥は背中から外に飛び出すことはできないけれど、描かれたムコさんを前に進ませました。

劇中に何度も出てくる詩とともに、この鳥の絵はムコさんにとってずっと心のより所1つだった。

そのことに気付いたムコさんは、さらに「ツマを愛している」ことに真の意味で気付きました。

この「きいろいゾウ」はツマの心の成長が物語の核にあると思っていましたが、実際はムコさんの気付きと成長の物語だったのだと思います。

少しのんびりしたいときに読みたい1冊でした。

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