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「スキマワラシ」恩田陸 超能力や都市伝説を盛り込んだ、日本らしいファンタジックなミステリー

タイル 壁のタイル 「スキマワラシ」イメージ 小説

恩田陸さんの小説「スキマワラシ」の感想です。

不思議な能力を持っている青年が兄とともに亡くなった両親の記憶を探るというストーリーですが、都市伝説や幻想的なホラーも加わり、どこかノスタルジックな印象の小説でした。

「スキマワラシ」とはどんな存在なのか?

読み応え抜群の不思議なミステリーです。

「スキマワラシ」 基本情報
  • 作者:恩田陸
  • 対象:小学校高学年~
    • エログロ描写なし
    • 若干、ホラー的な描写あり
  • 2020年8月に集英社より刊行

「スキマワラシ」あらすじ

「スキマワラシ」 は恩田陸さんの小説です。

ジャンルはなんとも微妙ですが、公式では『幻想ミステリー』や『ファンタジックミステリー』と書かれていたのでミステリーとしておきます。

ただ、わたしが読んだ感覚ではファンタジーとホラーが9:1くらいの比率に思えました。

たしかにミステリー要素もありますが、謎がすべてハッキリと解決しないタイプのストーリーなので、物語の解決を求める方には少しオススメしづらい小説でもあります。

そんな 「スキマワラシ」 のあらすじを掲載します。

白いワンピースに、麦わら帽子。廃ビルに現れる都市伝説の少女とは? 古道具店を営む兄と、ときおり古い物に秘められた“記憶”が見える弟。ある日、ふたりはビルの解体現場で目撃された少女の噂を耳にする。再開発予定の地方都市を舞台にした、幻想的ミステリー。

スキマワラシ(集英社文芸単行本)―Amazon.co.jp

まず、この 「スキマワラシ」 は500ページ弱という超ボリューミーな小説です。

厚みが4cmもあり、辞書なみの厚さです。持ち運びには不向きと言えるでしょう。

2021年8月現在ではまだ文庫版も刊行されていないので、しばらくは自宅のみで楽しむ小説になりそうです。

また、この「スキマワラシ」は細かい設定を覚えているうちにすべて読み切るのがベスト!

長い小説ですが、文章が読みやすく難しくもないので一気読みがオススメです。

「スキマワラシ」のあれこれ

ここからは「スキマワラシ」の感想などをいろいろ書いていきます。

少しネタバレがあるのでご注意ください。

主人公の能力について

小説「スキマワラシ」 の主人公・纐纈散多(こうけつ・さんた)には『触れた物の記憶が見える』という能力があります。

小説内では具体的に言及されていませんが、これはサイコメトリーという超能力に当たります。

Wikipediaの「サイコメトリー」の説明を見てみると、

実際には、サイコメトリーという能力の範囲の厳密な定義はないが、最も主な特徴は、物体に残る人の残留思念を読み取ることである。

とありました。

この説明の「物体に残る人の残留思念を読み取ること」という部分は、まさに散多の能力ですね。

ただし、散多は自分が『呼ばれた』と感じた物からしか記憶を読み取れません。

より強い思念が残った物の記憶しか読み取れないと言えますね。

また、見えたとしても断片的なので、能力としては不完全とも言えます。

まあ、触れる物すべての記憶を見ていたら気が狂いそうなので、ある意味ちょうど良いあんばいとも考えられますね。

散多はこの能力を兄としか共有せず、能力を持っている以外は普通の青年というキャラクター。

物語の語り手としてふさわしい好感が持てる人物でした。

主人公の兄が愛する「引手」について

主人公の兄・太郎は引手を愛するという不思議なキャラクターです。

わたしは引手、と聞いてパッと物が想像できなかったので少し調べてみました。

まず「引手」とは襖を開け閉めするために使われる金具のこと。

それ以上でもそれ以下でもありません。

しかし、この襖の引手は実用的ながらさまざまな意匠が凝らされた美しいデザインものも多々あります。

↑はイラストですが、いろいろなデザインがあってキレイですね。

襖を開け閉めするという実用的な面ではもちろんですが、襖のアクセントにもなるため装飾的な面でも重要な役割を担っています。

我が家にも襖・引手はありますが、しっかりと見たことはありませんでした。

少し調べただけでも奥深いことは理解でき、面白い世界だと思います。

ただ、散多も言うとおり、この引手に幼い頃から魅了されている太郎はジジ臭い渋好みな男性ですね。

<ややネタバレあり>「スキマワラシ」とは何だったのだろう?

小説のタイトルでもある「スキマワラシ」 ですが、劇中ではその正体や現れる理由などはほぼ説明されていません。

これはおそらく説明できる代物ではないからなのでしょうが、答えが出されず終わってしまったので、読み終わった後に若干フワフワした気持ちになりました。

小説の冒頭では『人の記憶の隙間に付く妖怪のようなもの』と表現されていました。

ただ、この「スキマワラシ」 は太郎の創作なので、この後に登場する 「スキマワラシ」 とは別物。

「スキマワラシ」 は世間では「まみちゃん」という都市伝説として徐々に浸透していきます。

都市伝説「まみちゃん」は

  • 白いワンピースにお下げ髪
  • 虫捕り網を持っている
  • 水色の胴乱を肩にかけている
  • これから取り壊される場所に現れる

といった条件を満たす女の子の姿。壁を通り抜けることから、完全に生物ではありません。

「まみちゃん」のエピソードは普通にホラーなのですが、どこかほっこりするテイストになっています。

それは人間に対し害をなさない存在だからでしょう。

探したら本当に会えてしまうのではないか、読んだらそう思えてしまうような存在でした。

(ただ、物語のラストに目的を果たして消えてしまうので無理かもしれません・・・)

都市伝説というより、学校の怪談らしいホラーテイストでした。

<ネタバレ注意>残った疑問を書き出してみる

「スキマワラシ」 で明言されなかった疑問を書き出してみます。

  • スキマワラシ(まみちゃん)について
    • 結局何者だったのか
    • なぜ醍醐覇南子を探していたのか
    • 散多が持っていた空色の胴乱を提げていたのはなぜ
    • そもそも、散多はどうやって胴乱を手に入れたのか
    • なぜ胴乱の中には植物の種が入っていたのか
  • 散多が過去の両親の前に姿を現したのはなぜなのか

このうち「なぜ醍醐覇南子を探していたのか」は本当に謎ですが、上手くまとまったのでこれで良いのだとうという気はします。

日本的な建築について

読み終わって、少し経つと、この「スキマワラシ」は襖の引手やタイルなど、日本の建築について造詣が深い小説だったなと思えます。

小説中には、日本の建築は壊れることが前提で作られる、といった台詞がありました。

たしかにヨーロッパの建築は何百年レベルで残って未だに使われていますが、日本の建築は度重なる災害で簡単に壊れて、でもすぐに建て直すという感覚だと思いました。

しかし、壊れたり壊されたりしても、建築の一部を新しい建築物に再利用するという文化がある。

それが日本らしいなとしみじみ思いました。

また、上の文章には書きませんでしたが、中盤から登場する醍醐覇南子は魅力的な人物でした。

ファンタジーやホラーの要素もあるミステリーでしたが、どこか懐かしい日本的なミステリーだった「スキマワラシ」 。

夏の時期に読むのがオススメの1冊です。

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