恩田陸さんの小説「麦の海に沈む果実」の感想です。
湿原の真ん中にぽっかり浮かぶ不思議な学園が舞台の学園・ミステリー小説です。
少女・理瀬と理瀬を取り巻く友人たち、謎めいた校長、そして次々起こる事件。
随所に張り巡らされた伏線の妙と、秘密が明かされていく様は圧巻です。
- 作者:恩田陸
- 対象:中学生~
- 性的な描写なし
- <注意>グロテスクな描写あり
- 2000年7月に講談社より刊行
- 2004年1月に文庫化
「麦の海に沈む果実」あらすじ
「麦の海に沈む果実」は恩田陸さんの小説です。
刊行が2000年と、今から20年以上前の作品になります。
しかし、2022年の現在に読んでもまったく色あせない、学園小説の傑作でした。
まずは、そんな「麦の海に沈む果実」のあらすじを掲載します。
三月以外の転入生は破滅をもたらすといわれる全寮制の学園。二月最後の日に来た理瀬の心は揺らめく。閉ざされたコンサート会場や湿原から失踪した生徒たち。生徒を集め交霊会を開く校長。図書館から消えたいわくつきの本。理瀬が迷いこんだ「三月の国」の秘密とは?この世の「不思議」でいっぱいの物語。
麦の海に沈む果実―Amazon.co.jp
舞台は北海道・函館の湿原地帯にある学園。
学園は全寮制の中高一貫校で『青の丘』と呼ばれる人工の山に建てられています。
ちなみに学園の名前は明かされません。別に名前が分からなくても物語に支障はありません。
物語は、そんな『青の丘』の学園に2月の一番最後の日に転校してきた14歳の少女・理瀬(りせ)の視点で進みます。
三月に転入するのが一般的なのに『三月以外の転入生は破滅をもたらす』と言われる学園。
そんな学園に二月に転校してきた理瀬に待ち受けるのはどのような『破滅』なのか?
あたりを湿原に囲まれた、ある意味クローズドサークルの世界で繰り広げられる、学園ミステリーです。
学園もの×ミステリー+ホラー&ファンタジー
Wikipediaで「麦の海に沈む果実」は『学園小説』にジャンル分けされています。
しかし、わたし個人の感覚では学園ものの本格ミステリー小説でした。
序章から伏線だらけでした。伏線の答え合わせである終章まで読むと、この小説の世界がまったく違った風に見えてきます。
怪奇現象が起きるわけではありませんが、グロテスクなシーンもあり、全体的な印象としてはホラー小説にも当てはまるのでは?と思います。
さらに、恩田陸さんの作風らしく、全編を通してどこか現実味がないフワフワした世界観で繰り広げられるファンタジックな小説でもあります。
学園が舞台のミステリーであり、ホラーやファンタジーの要素もある。
「麦の海に沈む果実」はなかなか贅沢な小説と言えますね。
また、主人公や主な登場人物は10代の少年少女たちなので、ジュブナイル(ヤングアダルト)小説として、同じ年頃の中高生にもオススメしたい小説です。
『理瀬』シリーズの一覧
「麦の海に沈む果実」には関連シリーズが8作品刊行されています。
このシリーズは、「麦の海に沈む果実」の主人公の名前にちなみ『理瀬』シリーズと名付けられています。
『理瀬』シリーズをAmazonでチェックする「黄昏の百合の骨」までは2000年前後に刊行されていますが、短編「麦の海に浮かぶ檻」は初出が2017年、そして「薔薇の中の蛇」は2021年に刊行されています。
20年以上に亘る大シリーズだったのですね。
『麦の海に浮かぶ檻』が収録された「歩道橋シネマ」の感想は↓
長編3作目「黒と茶の幻想」の感想は↓
「麦の海に沈む果実」感想
「麦の海に沈む果実」の感想です。
キャラクターが魅力的すぎる
「麦の海に沈む果実」の魅力は理瀬を取り巻くキャラクターたち。
クールながらも優しい黎二(れいじ)や理瀬と同室で何かと気にかけてくれる憂理(ゆうり)、ゲルマン系の美少年ながらもミステリアスなヨハン、年長で聡明な聖(ひじり)などなど。
美形だらけなので、小説なのに情景を思い浮かべるだけでうっとりしてしまいました・・・。
学園ものということもあり、登場する名前は多め。
そのため、当初は名前を覚えるのに一苦労してしまいました。
ただ、メインとして物語を動かすのは上記の黎二・憂理・ヨハン・聖と行方不明とされている麗子と学園の校長くらいなので、そこまで心配する必要はありませんでした。
その「校長」の存在もインパクトがあって素敵でした。
学園の謎を解き明かそうとする少年少女たちと、少女の目から見た謎すぎる大人(校長)、という構図でも描かれる「麦の海に沈む果実」。
その構図は学園小説としてオーソドックスですが、この「麦の海に沈む果実」の謎はなかなかに闇が深く、ドロドロしています。
しかし、終章を読み終わり、全貌が見えると清々しいほどにさっぱりとした気分になれました。
『すべてが伏線』に圧倒された
あらすじでも書きましたが、この「麦の海に沈む果実」はすべてが伏線という言葉が過言ではないくらいに伏線だらけでした。
小説では、理瀬(語り手)と読者に謎がいくつか提示され、解明されたり、されなかったりします。
しかし、最も大きな謎は理瀬の正体でしょう。
語り手である理瀬ですが、自身のことを理解していない様子が多々見受けられます。
その自信でも分からない理瀬についてが明かされたとき、物語は一気に加速していきました。
そして、ミステリー小説の醍醐味、最後にすべての伏線が回収されていく様は圧巻です。
謎は終章までですべて明かされるので安心です。
ただ、謎がすべて明かされても、やはり『青の丘』の学園はミステリアスで不思議なままでした。
この『青の丘』が舞台の物語はまだあるので、早急に読みたいと思います。
タイトル「麦の海に沈む果実」の意味とは
「麦の海に沈む果実」というタイトルは、タイトルだけではどんな小説なのか想像できません。
けれども、この言葉は序章に掲載されている詩のタイトルとして登場します。
この詩は小説を読み終わった後に読むと、いろいろ考えさせられます。
10代の繊細な少女の視点で描かれる、どこか懐かしい小説「麦の海に沈む果実」の感想でした。