桜木紫乃さんの小説「ブルースRed」の感想です。
前作「ブルース」から10年後の釧路を舞台に、ヒロイン・莉菜の暗躍を描くノワール小説です。
重すぎる十字架を背負った莉菜が自分の人生を見出していきます。
前作「ブルース」の虜になった方、さらにまだ読んでいない方にもオススメしたい小説でした。
- 作者:桜木紫乃
- 対象:中学生~
- 性的な描写あり
- グロテスクな描写は少なめ
- 2021年9月に文藝春秋より刊行
- 「ブルース」の続編
「ブルースRed」あらすじ
「ブルースRed」は桜木紫乃さんの小説です。
2014年に刊行された「ブルース」の続編となります。
「ブルース」の記事は↓
前作「ブルース」は『影山博人』という男性を8人の女性の視点から描き出した連作短編集でした。
しかし、この「ブルースRed」は影山博人の娘・莉菜の視点のみで描かれた連作短編集となります。
前作「ブルース」を読んでいなくても楽しめると思いますが、「ブルースRed」を存分に楽しむなら読むべきです。
影山博人の後を継ぎ、裏社会で暗躍する莉菜の生き様を堪能できる小説でした。
そんな「ブルースRed」のあらすじを掲載します。
死に場所を求め、生きる女が、裏切りの果てに辿り着いた終焉の地とは。
ブルースに続く、『新たなダークヒロイン』の誕生!釧路の街を、裏社会から牛耳る影山莉菜。
亡父・博人の血をひく青年を後継者として育て、官僚から代議士への道を歩ませようとしていた。「男と違って、女のワルには、できないことがない」
亡き父の言葉を胸に、重い十字架を背負った女が、幾度もの裏切りの果てに――。『ホテルローヤル』『家族じまい』を経てデビュー20年目の桜木 紫乃が放つ最高傑作!
ブルースRed―Amazon.co.jp
前作「ブルース」の最後の短編『いきどまりのMoon』で語りを務めた莉菜。
『いきどまりのMoon』では27歳の駆け出し写真家だった莉菜ですが、この「ブルースRed」では亡き父親・影山博人の後継として釧路の裏社会を牛耳っていました。
まずこの莉菜の転身に驚き、さらに莉菜の中身の変貌ぶりにも驚かされます。
写真で成功するという夢を追う若い女性の面影もなく、ただただ冷酷で切れ者の裏社会のボスに莉菜は成り上がっていました。
この変貌ぶりは父である博人への贖罪のためなのが切ないです。
「ブルースRed」は、そんな莉菜が影山博人がやり残したことをやり切るまで、そしてその後の人生を生きていくまでを描いた小説です。
「ブルースRed」感想
「ブルースRed」の感想をつらつらと書いていきます。
影山博人の血を引く唯一の息子
「ブルースRed」は影山莉菜の生き様を描いた作品です。
それと同時に、影山博人が遺した唯一の息子・武博の物語でもあります。
博人の面影があり、どんどん理想的に成長する武博に、博人へのものと同じ思いを募らせていく莉菜。
そんな莉菜の思いが遂げられた短編のタイトルが『はじまりの月』というのは、前作で心をつかまれた読者としては堪りません。
そして、読後に振り返ってみればその『はじまりの月』から莉菜は自分の人生の後始末を始めます。
これは「ブルースRed」が刊行される記念で行われた桜木紫乃さんのインタビューの中にも書かれていました。
第5話で彼女は密かに抱えていたある思いを遂げ、人生の目的を達成します。その一瞬で彼女は自分の人生と折り合いをつけることができたことがわかりました。
Yahoo!Japanニュース 人は流されながら年をとったっていい|桜木紫乃さん新刊『ブルースRed』
自分の人生と折り合いを付け、それからはさらに武博のために暗躍を続けます。
その密かな思いと彼女の葛藤は美しくも切なかったです。
また、武博は影山博人と同じく、とても魅力的でした。
Yahoo!Japanニュースでの桜木紫乃さんのインタビューは↓より確認できます。
影山博人の女性たちも再登場
「ブルースRed」には、前作「ブルース」で語りを務めた女性の何人かも再び登場します。
女性たちの現在はさまざま。
自分の力で幸せになった人もいれば、影山博人の影を求め続けて生きている人。
何も変わらずそのままの状態で生きている人もいました。
また、莉菜の母親であり、影山博人の妻となったまち子。
そんなまち子の人生はとても魅力的なものとして映ります。
まち子は唯一、影山博人が傍に置き続けた女性でした。
おそらく数え切れないほどの女性と関係を持った影山博人がなぜまち子を選んだのか。
その理由が分かったような気もしました。
そして、やはり女性って怖いです。一番怖いのはやはり女性でした・・・。
齋藤支靜加のモデルについて
「ブルースRed」で面白いと感じたのは、齋藤支靜加(さいとう・しずか)という女性の存在です。
損得なしに莉菜の味方である数少ない人物で、登場シーンは少ないものの重要な人物でした。
グラビアアイドルとして登場し、元・葬儀会社勤務という経歴。
こんな不思議な経歴で、この名前にうっすら聞き覚えがあったので調べたところ、この齋藤支靜加のモデルはタレントの壇蜜さんだと分かりました。
そもそも、齋藤支靜加は壇蜜さんの本名。
壇蜜さんは前作「ブルース」の帯コメント、さらに文庫化に際し解説を寄せています。
その縁もあってか、続編の「ブルースRed」に登場しているのだと思われます。
自分がモデルとなったキャラクターが小説の中で生きている、しかも好きな作品に。
壇蜜さんがうらやましいです・・・。
しかも、あんな良いキャラクターにしてもらえるなんて・・・。
と、少し嫉妬してみます。おそらく、壇蜜さんも喜んでいるのではと思います。
壇蜜さんが前作「ブルース」に寄せた書評は↓より確認できます。
釧路の裏社会にどっぷり浸かって生きてきた莉菜が最後に選んだ結末は突拍子がないものでした。
それまでの空気から一変するような10話目の短編ですが、それはそれで莉菜の人生の幕引きとして良かったのではと思います。
1人の女性の30年近くの人生を一気に堪能できる濃密な小説「ブルースRed」の感想でした。