2021年は世の中で男女平等やジェンダー論について大きく取り沙汰される、今までにない社会情勢となっていますね。
そんな性差を考えるきっかけの1つとして、島本理生さんの小説「夜 は お し ま い」をオススメします。
性の苦しみは女性特有のものではありませんが、女性の多くが苦しむ問題であることは間違いありません。
女性の問題を取り上げた小説ですが、男性の方にも読んで欲しい小説でもあります。
- 作者:島本理生
- 大人向け
- 性的な描写あり
- 暴力描写あり
- 2019年10月・講談社より刊行
※性暴力の描写があるので、苦手な方は避けてください。
「夜 は お し ま い」あらすじ
島本理生さんの小説「夜 は お し ま い」は4つのストーリーからなる連作短編集です。
※正しい表記は「夜 は お し ま い」ですが、これ以降はすべて「夜はおしまい」に統一します。
同じ世界の中に生きる男女4組の恋愛がテーマに描かれています。
そんな「夜はおしまい」のあらすじを掲載します。
島本さんの小説はいつも、自分は傷ついているのだと気づかせてくれる。――藤崎彩織
深い闇の果てに光を掴もうとする女性たちの、闘いと解放。直木賞作家の真骨頂!
性とお金と嘘と愛に塗れたこの世界を、私たちは生きている。
夜 は お し ま い―Amazon.co.jp
ミスコンで無遠慮に価値をつけられる私。お金のために愛人業をする私。夫とはセックスしたくない私。本当に愛する人とは結ばれない私――。
秘密を抱える神父・金井のもとを訪れる四人の女性。逃げ道のない女という性を抉るように描く、島本理生の到達点。
「夜はおしまい」の初出は2014~2015年の雑誌「群像」。
書籍として刊行されたのは2019年なので、5年経ってからの念願の書籍化ですね。
作者:島本理生さんについて
「夜はおしまい」の作者は島本理生(しまもとりお)さんです。
わたしは10代の頃から島本理生さんの小説が好きでよく読んでいます。
特に「よだかの片想い」や「波打ち際の蛍」という小説が特に好きです。
そんな島本理生さんのプロフィールは↓になります。
1983年東京都生まれ。2001年「シルエット」で第44回群像新人文学賞優秀作を受賞。2003年『リトル・バイ・リトル』で第25回野間文芸新人賞を受賞。2015年『Red』で第21回島清恋愛文学賞を受賞。2018年『ファーストラヴ』で第159回直木三十五賞受賞。『ナラタージュ』『アンダスタンド・メイビー』『七緒のために』『よだかの片想い』『あなたの愛人の名前は』など著書多数。
夜 は お し ま い―Amazon.co.jp
島本さんの小説のうち、
- 「ナラタージュ」
- 「Red」
- 「ファーストラヴ」
は実写映画化され話題となりました。
「ファーストラヴ」では直木賞も受賞され、今最も勢いのある作家の1人と言えますね。
「夜はおしまい」4つのストーリー
「夜はおしまい」は、
- 夜のまっただなか
- サテライトの女たち
- 雪ト逃ゲル
- 静寂
という4つのストーリーが連なっています。
それぞれ語り手となる主人公は異なりますが全員女性です。
そして、4人とも性に苦しんでいるという共通点があります。
小説の劇中には激しい性暴力の描写もあり、読んでいて心臓がグッと痛くなりました。
性暴力と言っても、人物が変われば内容も変わります。
「夜はおしまい」は多様な性暴力と、性暴力に翻弄されつつ生きる女性を描いていました。
また、4つのストーリーいずれにも「金井」という男性が登場します。
金井はキリスト教の司祭であり、私立大学の神学科で教鞭を執っている人物です。
傷つく女性たちのそばにいる金井が女性たちにかける言葉により、女性たちはそれぞれが歩むべき道を決めていきます。
「夜はおしまい」は、主人公ではないのもののこの金井という人物を中心とした物語でした。
キリスト教の司祭・神父の違い
「夜はおしまい」のベースにはキリスト教があります。
島本理生さんの小説にはキリスト教に関するものも多いので珍しくはありません。
ただ、↑で引用したあらすじの「神父・金井」という部分が気になったので少し調べてみました。
というのも、金井という人物は物語の後半で「司祭」であることが分かります。
わたしはキリスト教徒ではないので、神父と司祭の違いが分かりませんでした。
そこで、キリスト教についての簡単な説明とともに、神父と司祭の違いについてもまとめてみます。
そもそも「キリスト教」はどんな宗教なのか
キリスト教とはナザレのイエス、いわゆるイエス様をキリスト(救世主)として信仰する宗教のことです。
信者は全世界で23億人以上と、界中で最も信仰されている宗教でもあります。
そのうち日本におけるキリスト教の信者数は2017年時点で約192万人。
これは日本の全人口の1.5%を占める数値です。
日本ではマイナーな宗教と言えますし、日本人であるわたしたちには馴染みの薄い宗教に思えますよね。
しかし、キリスト教は、
- クリスマス
- ハロウィーン
- 西暦
などから日本の生活に深く浸透しています。
特に西暦はイエス・キリストが生まれた年が元年というキリスト教に基づいた暦。
意識はしなくても、わたしたちはキリスト教に深く関わって生きています。
司祭と神父の違いとは?
キリスト教における神父と司祭に違いはありません。
神父と司祭の違いについて説明する前に、キリスト教の宗派の説明を軽くまとめます。
キリスト教には、
- カトリック教会
- 聖公会
- プロテスタント
- 正教会
- 東方諸教会
といった宗派があります。(上記したのは代表的な宗派です)
このうち、司祭はキリスト教における聖職者の位階の1つとなります。
そして神父は、司祭に対する一般的な呼称です。
つまり司祭と神父は同じ意味でした!
違いをざっくり説明すると、
- 司祭=職名
- 神父=司祭への呼び方
となります。
また、神父と混同しがちなのが「牧師」。
神父と牧師の違いは属する宗派の違いです。
神父はカトリック教会や正教会、東方諸教会の司祭への呼称。
一方、牧師はプロテスタントの教職者を指す言葉となります。
小説の中で金井は「金井神父」と呼ばれ、他人から「司祭になった」と言われています。
この違いがイマイチ分からなかったのですが、調べたことをまとめると腑に落ちました。
花緒の感想
「夜はおしまい」を読んで感じたのは『女であることは変えられない』ということでした。
女性として生まれた。
ただそれだけのことで受けた理不尽な暴力をなかったことにはできません。
この「夜はおしまい」では4人の女性の視点から、辛い過去に対する4者それぞれの向き合い方を示しています。
そんな女性たちの選択が今傷ついている女性の救いになるかもしれない、そう思いました。