スティーブン・キングの小説「ドクター・スリープ」の感想です。
小説「シャイニング」の続編が30年以上の時を経て登場!
『かがやき』を持つ少年・ダンが大人になり、同じ境遇の少女を守るため、新たな敵に立ち向かいます。
2019年に映画化もされた話題作です。
- 作者:スティーブン・キング(Stephen King)
- 訳者:白石朗
- 対象:中学生~
- 性的な描写あり
- グロテスクな描写あり
- 2013年にアメリカで初版が刊行
- 2015年に日本で単行本が刊行
- 2018年に文藝春秋より文庫化
- 2019年にアメリカで実写映画化
- 小説「シャイニング」の続編
「ドクター・スリープ」について
「ドクター・スリープ」はアメリカの小説家スティーブン・キングの長編です。
ホラー小説の巨匠と言われるスティーブン・キングの傑作「シャイニング」。
「ドクター・スリープ」は、そんな「シャイニング」の約30年後を舞台にした正式な続編となります。
『かがやき』をもって生まれた少年・ダンが大人になった姿が描かれます。
まずは、そんな「ドクター・スリープ」のあらすじを掲載します。
冬季閉鎖中のホテルで起きた惨劇から30年。超能力“かがやき”をもつかつての少年ダンは、大人になった今も過去に苦しみながら、ホスピスで働いていた。ある日、彼の元に奇妙なメッセージが届く。差出人は同じ“かがやき”をもつ少女。その出会いが新たな惨劇の扉を開いた。ホラーの金字塔『シャイニング』の続編、堂々登場!
ドクター・スリープ 上―Amazon.co.jp
5才の時に父が管理人として雇われたため、滞在したホテルで壮絶な経験をしたダン(ダニー・トランス)。
物語ではそんなダンの成長後が描かれます。
超能力『かがやき』を持ち、その力のせいでホテルの幽霊たちから襲われ、その力により幽霊たちの襲撃を退けたダン。
そんな『かがやき』は思春期を経て大人になったダンにとっては苦痛そのものでした。
『かがやき』の力を抑えるために酒を飲む日々。
その姿は、かつて酒に溺れて破滅した父ジャック・トランスを彷彿とさせます。
記憶を失うほど浴びるように酒を飲み、暴れて仕事や町を点々とする日々。
そんな日常を続ける中で、ダンは取り返しのつかないことをしてしまいます。
後悔から逃れるため辿り着いた町で、ダンは新たな人生を歩むため酒を断つことを決意。
ダンの戦いが始まります。
・・・と、ここまで書いたら、完全にアルコール依存症患者の闘病記みたいになってしまいました。
ただ「ドクター・スリープ」はアルコール依存症患者の闘病記という説明でも間違いではありません。
酒を断ち、それでも渇望してしまうダンの『渇き』の描写は真に迫っていて、あまりにも過酷でした。
しかし、アルコール依存症の克服は、ストーリーの重要な部分を占めているものの、中核ではありません。
「ドクター・スリープ」で描かれるのは、ダンと、ダンと同じく『かがやき』を持つ少女・アブラが、<真結族(トゥルー・ノット)>という化け物軍団と死闘を繰り広げるホラーサスペンスです。
簡潔に言えば、超能力VS超能力。
成長し、導く立場となったダンが、かつての自分と同じ境遇の少女を守るため奮闘します。
前作「シャイニング」とは?
「シャイニング」は、1977年に刊行されたスティーブン・キングの小説です。
雪に閉ざさされた山奥のホテルを舞台に、凶悪な幽霊たちと、徐々に理性を失っていく父親に、5才の息子と母親が立ち向かうストーリーです。
1980年に映画化され、主演のジャック・ニコルソンの怪演でも有名ですね。
大雪で外界との行き来が遮断されたクローズドサークル。
その中で繰り広げられる死闘。
超能力『かがやき』を持つ息子・ダニー(ダン)を狙う凶悪な幽霊たちと、そんな幽霊たちに操られ始める父親。
そんな中でも息子を必死で守ろうとする母親の姿。
「シャイニング」はホラー小説の傑作として有名ですが、ホームドラマとしても読み応えがありました。
2019年に実写映画化
「ドクター・スリープ」は2019年に映画化されています。
主演はユアン・マクレガー(ダン)、共演はレベッカ・ファーガソン(ローズ・ザ・ハット)です。
ドクター・スリープ(字幕版)
映画「ドクター・スリープ」は日本でも大々的に公開されました。
そんな映画「ドクター・スリープ」ですが、小説版とはいくつか違う点があります。
小説と映画はけっこう違う!?
小説「ドクター・スリープ」と映画「ドクター・スリープ」は大筋は似通っているものの、ラストシーンを含め、大部分が異なります。
そもそも映画「ドクター・スリープ」は、映画「シャイニング」の続編という立ち位置。
映画「シャイニング」の設定や結末をそのまま取り入れ、小説版とは違った展開を見せます。
そのため、小説「シャイニング」だけを読んだ後に映画「ドクター・スリープ」を観ると、いくつかの重要な設定が異なっているため混乱するかと思われます。
映画は映画のみで観てから小説を読むか、小説をどちらも読んでから映画「シャイニング」・「ドクター・スリープ」を観る方が良いでしょう。
わたしは映画・小説ともに「シャイニング」・「ドクター・スリープ」を制覇しましたが、映画は映画の良さがありました。
特に「ドクター・スリープ」で、景観荘(オーバールックホテル)を再び目にしたときは感動しました。
映画「ドクター・スリープ」のラストは、小説「ドクター・スリープ」とは全然違います。
けれど正直、映画としてはあれくらい派手でおどろおどろしい方が面白いと思うのでありだと思いました。
映画はいずれも2時間半超えの大作ですが、どちらもオススメです。
Amazon Prime VideoでCheckする≫「ドクター・スリープ」感想・あらすじ
「ドクター・スリープ」の感想・あらすじです。
映画版との違いも合わせてご紹介します。
正直、幽霊よりも怖いアルコールの悪夢
「ドクター・スリープ」の主人公・ダンは重度のアルコール依存症でした。
酒を飲み暴れ、トラブルを起こし、仕事をクビになり、各地を転々とする。
しかし、そんな日々を送っていた20代後半のある日、ダンは過ちを犯し、逃げるようにティ-ニータウンに辿り着きます。
そのティーニータウンでダンは、ビリー・フリーマンやケイシー・キングスリーの助けを得て、アルコール依存症の治療を始めることになります。
アルコール依存症は、前作「シャイニング」から続く、物語のテーマでもあります。
ダンの父親・ジャックはアルコール依存症によって多くのものを失い、あのホテルへ行くことになりました。
そんな父親を間近で見続けていたダンはアルコールに対し悪感情を抱いていたものの、『かがやき』を持つ者の苦悩からか次第にアルコールに溺れるように。
しかし、ダンはアルコールを断つことを決意します。
ジャックのように自分一人の力ではなく、周囲のサポートを得ながらです。
それがジャックとダンのいちばんの違いでしょう。
「ドクター・スリープ」はアルコール依存症の怖さを描く小説としても興味深かったです。
映画でもこのアルコール依存症の描写はありますが、小説でこんなにしっかり書かれているとは思わなかったです。
ちなみに「ドクター・スリープ」にも登場するアルコール依存症者の自助グループ「AA」は実在します。
「AA」はアルコホーリクス・アノニマス(Alcoholics Anonymous)、つまり無名のアルコール依存者たちという意味。
日本にも600以上のグループと、5700人以上の会員がいるとのこと。
同じアルコール依存症の悩みを抱える人たちと、悩みを分かち合うことで、依存症を乗り越える。
小説内でも多くの部分を占めるアルコール依存症やその治療の描写からも分かりますが、アルコール依存症の治療は一朝一夕にはいきません。
父親と違う道をひたむきに進むダンの強さは希望を感じさせました。
少女の成長を描くジュブナイルものでもある
ダンがティーニータウンで職に就き、さらにアルコール依存症の治療を開始した頃、アニストンという町で1人の少女・アブラが生まれます。
アブラはダンと同じく、いやそれ以上の『かがやき』を持つ少女でした。
その素晴らしい『かがやき』によって、アブラは<真結族>という化け物軍団から狙われるようになってしまいます。
アブラは「ドクター・スリープ」のヒロインでもあるキャラクター。
12才という年齢ながら勇気をもって果敢に悪に立ち向かうヒロイックな姿はとてもかっこ良かったです。
また、時折見せる12才の少女らしい姿も魅力でした。
「ドクター・スリープ」は、アブラがダンという『かがやき』を持つ先輩から学び、力を合わせて戦い、成長していく姿が描かれるジュブナイル要素もあります。
スティーブン・キングのジュブナイルものといえば「スタンド・バイ・ミー」や「IT」がありますが、それらの傑作をも彷彿とさせるような展開でした。
映画「ドクター・スリープ」では、小説とはアブラの人種が変更されているのが特徴です。
そのため映画を先に観ていたわたしは、少し混乱しました。
<真結族>の奇妙なリアルさ
「ドクター・スリープ」の悪役は<真結族(トゥルー・ノット)>という人々。
『かがやき』を持つ、特別な子どもの『命気』を吸い、長い時を生き長らえる化け物です。
血を吸う吸血鬼ではなく、気を吸う化け物となります。
RV車に乗り、アメリカ各地を放浪しながら、命気を蓄える子どもを襲い生き続ける<真結族>。
見た目は普通の人間と同じで、金と権力で各地に勢力を伸ばしているので、彼らが罪を追及されることはほぼありません。
なんだか、本当に存在しそうな感覚でした。
アメリカは広いので、こんな人たちがいても分からないかもしれません・・・。
この感覚こそ、まさにホラーですよね。
そんな彼らが狙いを定めたのは、大量の命気を持つ『命気頭』とも言えるアブラでした。
アブラを襲おうとする<真結族>、特にそのリーダーであるローズ・ザ・ハットですが、アブラは強すぎるのでやすやすと抵抗されてしまいます。
アブラの抵抗に激怒したローズはアブラを何としてでも自分たちの毒牙にかけることを決意。
<真結族>とアブラ・ダンたちとの死闘が始まります。
映画で描かれた<真結族>は小説よりも規模が小さめ。
また、ローズ・ザ・ハットを除けば、スネークバイト・アンディにしか掘り下げがないのも少し残念でした。
ただ一人一人掘り下げていたら、ただでさえ2時間半ある映画が終わらないので、仕方がなかったと思います。
けれども<真結族>のビジュアルや雰囲気は完璧だったと思います。
命気を吸うシーンなどは、映像で観ると怪しくも美しくとても魅力的でした。
タイトル「ドクター・スリープ」の意味とは?
小説のタイトルである「ドクター・スリープ」は、ダンのことです。
ホスピスで働くダンは、自らの『かがやき』により、死の間際にある患者を穏やかに送ることを続けていました。
安らかな死へと導く者。
その評判が密かに広まり「ドクター・スリープ」と呼ばれるようになったのです。
映画ではこのタイトルの回収がちゃんと行われなかったのが少し残念でした。
災厄を生き延びた5才の少年が、35年の時を経て、40才になり再び災厄に立ち向かう。
小説内で経過する時間が、小説「シャイニング」から小説「ドクター・スリープ」が刊行されるまでの時間とほぼリンクしているのが印象的です。
ホラーであり、サスペンスでもありますが、人間ドラマ・ホームドラマも楽しめる小説です。
ここまで「ドクター・スリープ」の感想でした。