スティーブン・キングの小説「シャイニング」の感想です。
雪に閉ざされるホテルの管理人になった一家を襲う、怪異を描いたベストセラー小説です。
緻密な描写、序盤から幾度となく提示される結末と畳みかけるような展開は圧巻です。
怖い話が苦手な方でもおそらく読める?家族が大きなテーマのホラーです。
- 作者:スティーブン・キング(Stephen・king)
- 訳者:深町眞理子
- 対象:中学生~
- 性的な描写あり
- グロテスクな描写あり
- 1977年にアメリカで刊行
- 日本では1978年にパシフィカより刊行
- 1986年に文春文庫より再び刊行
- 2008年に新装版が登場(解説・桜庭一樹)
- 1980年にアメリカ・イギリスにて実写映画化
「シャイニング」について
「シャイニング」はアメリカの小説家スティーブン・キングのホラーサスペンス小説です。
オリジナルは小説である「シャイニング」ですが、小説を基にした同名の映画の方が有名かもしれません。
かく言うわたしも、映画「シャイニング」を最近観たために小説に手を伸ばした次第です。
映画を観て、小説ではどのように描かれているのか?と興味がわき、思わず文庫の上下巻を買ってしまいました。
まずは、そんな「シャイニング」のあらすじを掲載します。
鬼才スタンリー・キューブリック監督による映画化作品でも有名な、世界最高の「恐怖の物語」
雪に閉ざされたホテルに棲む悪霊が、管理人一家を襲う。天才キングが圧倒的筆力で描き出す恐怖! これこそ幽霊屋敷もの、そして20世紀ホラー小説の金字塔
シャイニング―Amazon.co.jp
冬の間に閉館するホテルの管理人をすることになった主人公・ジャック。
ジャックは妻・ウェンディと5歳の息子・ダニーを連れ、山奥の『景観荘(オーバールックホテル)』へ足を踏み入れます。
やがて雪が降り、麓との行き来ができなくなる冬が到来。
外界から閉ざされたホテルでジャック・ウェンディ・ダニーの3人は惨劇に見舞われます。
というのが「シャイニング」の大方のあらすじです。
吹雪で閉ざされたホテル内で父親に母親・幼い息子が襲われる。
小説・映画を知らなくても「シャイニング」には、そんなサイコホラーのイメージがあるのではないでしょうか?
わたしも実際そんなイメージを持っていたのですが、映画を観てみると、想像以上にお化け要素が強いホラーでビックリしました。
ホテルによって狂わされていく父親。
それに対抗するのは息子を守りたい一心の母親と、『かがやき』を持った幼い息子。
そして、母親・息子に息子と同じ『かがやき』を持った黒人の料理人が加勢するという構図です。
小説は父親・ジャック、母親・ウェンディ、息子・ダニー、そして時々料理人・ディックという4者の視点から描かれていきます。
上下合わせて800ページほどですが、混乱せずに読めるのは主要の登場人物が少ないためでしょう。
「シャイニング」小説・映画の違い
小説「シャイニング」と映画「シャイニング」の違いをネタバレなしでまとめます。
ホテルへ行くまでが長い
小説と映画の違い1つめはホテルへ行くまでが長いこと。
物語の舞台であるホテル『景観荘(オーバールックホテル)』へ行くまでに100ページ以上かかります。
しかし、その100ページの中でジャックたち一家の抱える問題やその背景などが詳細に描かれているのが特徴でもあります。
映画でも一部は触れられていますが、ジャックにこんな複雑な過去があったのかと驚きました。
また、ジャックの生い立ちについては映画では一切触れていません。
ジャックの生家、またウェンディの生家の複雑さ、それ故の現在の苦境などが書き連ねられているので、映画で分からなかった部分を補完しているような感じでした。
雪が降り始めるまでが長い
小説と映画の違い2つめは雪が降り始めるまでが長いこと。
雪が降り始めたのは上巻の終わりでした。
ホテルに着いてから300ページほど雪が降っていないホテルでの生活が描かれるのですが、その部分はほとんど映画で描かれていなかったので面白かったです。
ジャックが知ることになるホテルの歴史やスズメバチ。
また、全編を通して生け垣の描写が生々しく、読んでいて怖かったです・・・。
動物の形にカットされた生け垣、そもそも生け垣全体が怖くなりそうです。
印象的なモチーフがない
小説と映画の違い3つめは映画で登場する印象的なモチーフがないこと。
「シャイニング」といえば、ホテルにたたずむ双子の女の子。
ジャックたち一家と同じように、冬の管理人としてホテルに住み、父親(グレイディ)に惨殺された女の子たちです。
この双子の女の子は小説には登場しません。
管理人・グレイディとその妻、2人の娘たちの悲劇の内容は変わりませんが、娘たちは双子ではなく8才と6才。
また、小説では女の子たちがダニーの前に姿を現すことはありません。
小説にはないモチーフを映画に入れた理由は不明ですが、おそらく視覚的なインパクトでしょう。
実際、映画で観たときのインパクトは強く、ゾッとしました。
217号室について
映画でもインパクトがあった217号室のシーン。
映画では正体が明かされない幽霊ですが、小説ではしっかりそのストーリーが紹介されています。
ただ、視覚的にインパクトがあるシーンだったので、わざわざ説明するよりも、何も説明しない方が面白いと考えたのだろうと思います。
実際、何が何だか分からない方が映像では怖いものです。
また、217号室に限らず、ホテル全体の歴史も映画では語られません。
小説を読むと、序盤から曰く付き過ぎるホテルだと感じましたが、映画だとキレイなホテルとしか思えなかったのも演出の妙だと感じました。
結末が大きく違う
小説と映画の違い4つめは結末が大きく違うことです。
結末なので内容は書きませんが、映画のラストとは大きく違う点が2つあります。
映画から小説を読むと、とても驚くでしょう。わたしは驚きました。
『シャイニングは映画と小説が別物』という意見を目にしましたが、確かにラストだけ観るとそうだったかもしれません。
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「シャイニング」感想・あらすじ
「シャイニング」の感想・あらすじです。
いくつものホラーを楽しめる
ホラー小説である「シャイニング」。
劇中には怖い要素・怖がらせるサスペンス的な演出が随所に散りばめられています。
また、敵と対峙するスリラー要素もあり、特に後半のたたみかけるような演出は小説でもハラハラして楽しめました。
そんな「シャイニング」は、ホラーのうち複数のジャンルが組み合わさっているのが特徴でもあります。
映画を観る前、わたしの「シャイニング」のイメージは父親が妻(母親)・息子を襲うサイコホラでしかありませんでした。
しかし、実際の「シャイニング」は、幽霊が登場するホラーでもあり、場所が問題であるお化け屋敷系のホラーでもあり、さらに普通の人が狂気に取り憑かれ凶行に走るサイコホラーでもあります。
ただ幽霊もお化け屋敷も怖いですが、もともとイメージしていた父親の凶行という部分が一番怖かったです。
小説では特に父親・ジャックの葛藤や、ホテルの意志との静かな戦いも緻密に描かれ、とうとうホテルに飲み込まれてしまう結末には切なさも感じました。
『家族の再生』のはずが
「シャイニング」はホラー小説としても面白いですが、家族小説としても魅力的な小説だと思います。
もしジャック・ウェンディ・ダニーの3人家族が幸せな家族だったら、こんなにも切なく、悲しい結末にはならなかったでしょう。
家族の再生のために、冬の間、ホテルの管理人となったジャック。
自らの過失で職を失ったジャックには同情できません。
しかし、ある出来事がきっかけで1年以上も禁酒しているのは素直にすごいことだとも思います。
ただ息子を傷つけてしまったタイミングで禁酒をせず、自分の身が危うくなって初めて禁酒を決意した、という部分にジャックの本性が見えた気がしました。
また、母親との関係から臆病になり、思い切った決断ができなかったウェンディの苦しみには同情します。
そしてダニー。
5才にしてはとても大人びているものの、心の中の友達・トニーと会話をする不思議な少年として描かれます。
幼い子供が見えない友人を作るのはそう珍しいことではありません。
けれど、ダニーにとってのトニーはいわゆる『イマジナリーフレンド』ではありませんでした。
そんな3者の関係性がそれぞれの心情・関わりを通して綿密に描かれていくのが「シャイニング」の特徴でもあります。
スティーブン・キング作品特有の細かすぎるほどの描写の数々は小説ならではの楽しさだと思います。
40年以上前の小説ですが、古くささはなく、圧倒的に面白いことは間違いありません。
ここまで「シャイニング」の感想でした。