杉井光さんの小説「世界でいちばん透きとおった物語」の感想です。
父親の遺稿を探す青年を描くミステリー小説です。
父親は誰にどんな物語を遺したかったのか。
ラストに判明する衝撃の仕掛け!この小説でしか味わえない興奮が待っています。
- 作者:杉井光
- 対象:中学生~
- エログロ描写なし
- 2023年5月に新潮文庫より刊行
- 単行本なし
「世界でいちばん透きとおった物語」について
「世界でいちばん透きとおった物語」は杉井光さんのミステリー小説です。
天涯孤独の主人公が、会ったことのない亡くなったばかりの父親の遺稿を探すストーリー。
普通のミステリーのようにみえて、ある衝撃の仕掛けが隠されています。
この衝撃はぜひとも本好きに共有したい!そう思わせる小説でした。
まずは、そんな「世界でいちばん透きとおった物語」のあらすじを掲載します。
絶対に予測不能な衝撃のラスト――あなたの見る世界は『透きとおる』。
大御所ミステリ作家の宮内彰吾が、癌の闘病を経て61歳で死去した。
女癖が悪かった宮内は、妻帯者でありながら多くの女性と交際しており、そのうちの一人とは子供までつくっていた。
それが僕だ。宮内の死後、彼の長男から僕に連絡が入る。
「親父は『世界でいちばん透きとおった物語』というタイトルの小説を死ぬ間際に書いていたらしい。遺作として出版したいが、原稿が見つからない。なにか知らないか」奇妙な成り行きから僕は、一度も会ったことがない父の遺稿を探すことになる。知り合いの文芸編集者・霧子さんの力も借りて、業界関係者や父の愛人たちに調べを入れていくうちに、僕は父の複雑な人物像を知っていく。
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やがて父の遺稿を狙う別の何者かの妨害も始まり、ついに僕は『世界でいちばん透きとおった物語』に隠された衝撃の真実にたどり着く――。
文庫の帯に『ネタバレ厳禁』との文字が躍る、この「世界でいちばん透きとおった物語」。
しかし、この「世界でいちばん透きとおった物語」のネタバレは、正直、書いてしまっても意味が分からないと思います。
小説を読まないと、この衝撃は伝わりません!
小説を読んでいて、久々に鳥肌が立ちました。
「世界でいちばん透きとおった物語」に隠されたある仕掛けの凄まじさは、確かに実際に紙の書籍を読まないと実感できません。
衝撃を受けたいのなら、もう諦めて読むしかないです。
電子書籍は取り扱いなし!紙の書籍のみの大胆さ
「世界でいちばん透きとおった物語」は電子書籍の取り扱いがなく、紙の書籍のみの販売となっています。
おそらく、電子書籍では永遠に取り扱いがないでしょう。
なぜ紙の書籍のみなのか。
その理由は読めば分かります。
紙の書籍派の方はもちろん、紙の書籍に最近触れていないという方にこそぜひ触れて欲しい一冊でした。
読み切ると、興奮して変な汗が出てくる快感を味わえます。
【ネタバレなし】「世界でいちばん透きとおった物語」感想・あらすじ
「世界でいちばん透きとおった物語」の感想・あらすじです。
当然、ネタバレはありません。
会ったことのない父親を探す道のり
「世界でいちばん透きとおった物語」は、主人公の燈真(とうま)が生前は会ったことのない父親の遺稿を探すというストーリーです。
ガンで亡くなった父親は小説家。
燈真の母親とは不倫関係にあり、燈真は不倫の末に生まれた子どもでした。
しかし、燈真と父親は一度も会ったことがなく、亡くなったことを知っても無関係と割り切っていました。
父親が亡くなってから1か月後、唐突に父親の息子・松方朋晃から連絡があります。
父親の息子、つまり燈真の腹違いの兄に当たる人物です。
松方の話によると、父親は亡くなる直前まで『世界でいちばん透きとおった物語』という小説を書いていたとのこと。
けれども、その小説の行方が分からず、遺作として出版したいけれどもできない。金は出すから探すのを手伝え。
そう松方に言われ、不快に思いながらも遺稿探しを手伝うことになった燈真。
校正者だった母親と仕事とプライベートで付き合いがあった編集者・深町霧子のサポートを得ながら、燈真は父親の足跡を辿ることに。
足跡を辿るといっても、その相手は父親の不倫相手がほとんど。
長年付き合いがあった編集者にも話を聞きますが、話を聞けば聞くほど、父親の人間としての酷さを知ることに。
妻と子どもがいながら、同時に何人もの女性と不倫し、挙げ句そのうちの1人とは子ども(燈真)を作った父親。
これだけでも十分酷いですが、小説家として編集者への扱いも酷かったと聞くと、さすがに失望します。
もともと父親に対して良い感情を抱いていなかった燈真でさえ、ドン引きするレベルです。
しかし、誰の話を聞いても圧倒的にクズなのに、愛人たちはみんな好意的なのが印象的でした。
人間くさいドラマも魅力
「世界でいちばん透きとおった物語」は、ミステリーではありますが、人間ドラマの部分でも読み応えがありました。
主人公・燈真の父親への葛藤。
また、編集者である霧子へのほのかな恋心。
知りたい気持ちと知りたくない気持ち。
良い感情を持っていなかった父親のイヤな部分が暴かれる快感。
そんな燈真の普通な感じがとても良かったです。
さらに、燈真の腹違いの兄である松方朋晃もいい味を出していました。
第一印象は燈真同様最悪でしたが、話が進んでいくとけっこう悪い人間ではないのが面白かったです。
ミステリアスな霧子と、個性豊かな父親の不倫相手たち。
そして、燈真の前には姿を現さないものの、インパクト抜群な犯人(敵)。
登場人物が少ないので、混乱せずに読み進められるのも魅力でした。
『某作家』への熱烈すぎる愛
「世界でいちばん透きとおった物語」は(ネタバレになるので作家名は出しません)ある実在の有名作家への熱烈すぎる愛があふれた小説でした。
小説の中盤でその『某作家』の名前が登場し驚きます。
そして、その『某作家』がこの「世界でいちばん透きとおった物語」に大きく影響していることで、また驚きます。
わたしはその『某作家』の某人気シリーズのファンで、全巻集めているのですが、たしかに言われてみるとある部分が似ています。
さらに「世界でいちばん透きとおった物語」では『某作家』の手法の一歩先を行く、スゴいことをしています。
「世界でいちばん透きとおった物語」の仕掛けを施すのに、どのくらいの労力が必要だったのか。
そもそも、どうしてこんな仕掛けを考えたのか。
そんなことを考えたら頭がおかしくなりそうでした。
読み終わった後に、最初から確認する時の快感は他の本では絶対に味わえないでしょう。
何がそんなにスゴいのか。
それを知るには読むしかない!と断言できる小説です。
ただ、このスゴさは本好きにしかピンとこないスゴさかもしれません。
序盤から潜んでいたヒントがラストに与える感動は必読です!究極の愛の物語でした。
ここまで「世界でいちばん透きとおった物語」の感想でした。