本ページにはプロモーションが含まれます。

「モダン The Modern」ニューヨーク近代美術館を巡る5つの連作短編集

ニューヨーク近代美術館・MoMA 人間ドラマ
Pixabay

4月公開の映画「キネマの神様」の原作者・原田マハさんの作品について、前回は「デトロイト美術館の奇跡」をご紹介しました。

アメリカ・デトロイト美術館が舞台の実話を元にしたフィクションだった「デトロイト美術館の奇跡」。

美術館と美術館に関係する人々のつながりを描いた感動作でした。

そこで今回は、そんな原田マハさんの「美術館もの」つながりとして「モダン The Modern」というお話をご紹介します。

「モダン The Modern」の舞台はニューヨーク近代美術館、通称MoMAです。

MoMAについて知っている方はもちろん、全く知らない方にもオススメの一作です。

「モダン The Modern」基本情報
  • 小学校高学年~
    • エロ・グロなし
    • 難しい表現もなし
  • 舞台はニューヨーク近代美術館(MoMA)
  • 5つの連作からなる感動の短編集
  • 2015年4月発行

「モダン The Modern」のあらすじ

「モダン The Modern」は原田マハさんが2015年4月に発表した小説です。

原田マハさんらしい、アートをテーマにした短編集になっています。

そんな「モダン The Modern」のあらすじを掲載します。

モダン・アートの聖地、ニューヨーク近代美術館――MoMA。ピカソ、マティス、ルソー、ワイエスなど20世紀絵画の巨匠たちの作品が綺羅星のごとく並ぶこの美術館を舞台に、アートを愛するさまざまな人の夢や苦悩、人生の決断を描く。アート小説の名手たる著者の真骨頂にして、もっとも都会的な短編集。

モダンーAmazon.co.jp

「モダン The Modern」には5つの短編が収録されています。

その5つとも、アメリカ・ニューヨーク近代美術館が話の舞台です。

ニューヨーク近代美術館・MoMAとは

ニューヨーク近代美術館は1929年に開館した美術館です。

Pixabay

The Museum of Modern Artの頭文字を取り、MoMA(モマ)の愛称で知られています。

そんなMoMAの特徴は、近代美術を専門に取り扱った美術館であること。

モダンアートの殿堂ともよばれ、世界中の現代美術に大きな影響を与え続けています。

日本でも、全国各地のロフトにMoMAのキュレーター(学芸員)が厳選した商品を取り扱うMoMA Design storeがあります。

「美術館」と聞くと敷居が高そうですが、意外と身近にも存在するので親近感がわきますね。

「モダン The Modern」収録短編5作の内容

「モダン The Modern」は「ニューヨーク近代美術館が舞台」のみが共通する5つの短編が収録されています。

主人公や時代はどれもバラバラ。

しかし、すべてニューヨーク近代美術館にまつわる話です。

その短編それぞれの簡単な説明をしていきます。

中断された展覧会の記憶 Christina’s Will

2011年3月11日・東日本大震災が発生した際、福島県の美術館に貸し出していた絵画にまつわる話。

その絵画とは、アンドリュー・ワイエス作「クリスティーナの世界」。

この「クリスティーナの世界」は1948年に描かれた作品です。

その20世紀中期にアメリカで描かれた絵画の中でも特に有名で、人気の高い作品でもあります。

・・・といっても、お恥ずかしいことに、わたしは「モダン The Modern」を読むまでこの作品のことを知りませんでした。

実際にネットで検索して見てみましたが、全体的に色調が暗めで物寂しい雰囲気だなというのが第一の感想です。

小説の中でも説明されていますが、絵画に描かれているクリスティーナは足が不自由で遠くに見える納屋まで這って進んでいるところが描かれています。

このクリスティーナは実在の人物。

ワイエスは彼女が実際に這って進んでいる姿を目撃し、絵画として残したのです。

その背景を知ると、繊細ながらもとても力強い絵に思えてきます。

ちなみに、小説では原発事故があった福島県に貸し出されていた「クリスティーナの世界」を、MoMAの職員の女性が迎えに行く、という内容です。

放射能被害をおそれ、展覧会の終了を前倒しして避難させようとしたのですね。

このエピソード、小説でとてもリアルに描かれているので本当にあった話だと思って読んでいました。

しかし、実は完全なフィクションです。

小説内でも言われていますが、この「クリスティーナの世界」が外部に貸し出されるのは非常にまれ。

すべて作者・原田マハさんの創作だったのですね。

ロックフェラー・ギャラリーの幽霊 Ghost in the Blanchette Hokker Rockefeller gallery

1999年の年末の話で、主人公はMoMAの警備員の男性です。

この警備員の男性が、パブロ・ピカソ作「アヴィニョンの娘たち」の前でたたずむ青年を見かけるところからこのお話は始まります。

タイトルからも想像できますが、その青年は幽霊です。

その青年とMoMA、そしてピカソとの関係性にまつわるお話です。

この編に登場する絵画「アヴィニョンの娘たち」は1904年に描かれたもので、ピカソ独特の手法「キュビズム」の革命の発端となった作品でもあります。

キュビズムとは、多方面から見たものの形が1つの方向に収まっている手法のこと。

同じピカソの「泣く女」が有名でしょうか?

横顔のはずなのに両目が正面を向いている、不思議なあの絵です。

「アヴィニョンの娘たち」は、バルセロナのアヴィニョン通りにあった売春宿にいた5人の売春婦をモデルに描かれた作品です。

また、この辺にはピカソの「鏡の前の少女」という絵画も登場します。

この「鏡の前の少女」は1932年に描かれたもので、「アヴィニョンの娘たち」と比べると華やかな色調です。

しかし、どこか不気味でグロテスクな印象も抱きます。

そんな2作品と幽霊の青年の関係性が明かされ、次の編に続きます。

私の好きなマシン My favorite machine art

時代は1981年のお話ですが、中心にあるのは1934年に開催された「マシン・アート展」。

この「マシン・アート展」は、MoMAで実際に行われた展示会です。

名もないデザイナーによる工業製品や機械の部品などを集めたとても画期的な展示会でした。

そして、この話には前編に登場した幽霊の青年が存命だったころも描かれています。

何かの作品が中心ではなく、MoMAの歴史について描かれた編です。

新しい出口 Exit between Matisse and Picasso

2001年9月11日起きた9・11、世界同時多発テロの1年後を描いています。

主人公はMoMAでアシスタントキュレーターとして勤務する女性。

彼女は1年前に起きた9・11のテロで、同僚であり良きライバルであった友人の女性を亡くしていました。

彼女と亡くなった友人の夢は、それぞれが専攻するピカソとマティスの絵画を同時に展示する大回顧展を開催することでした。

しかし、友人がたまたま9月11日にテロの現場・世界ワールドトレードセンターにいたことで、その夢は潰えてしまいます。

残された彼女が未来を向くまでのお話がこの編の内容です。

と、ここで、小説を読んで私が疑問に思ったことを解決していきます。

MoMAと世界貿易センタービルの位置関係とは

まず、MoMAと世界貿易センタービルの距離関係についてまとめます。

これまで日本から一歩も出たことがないわたしからすると、この2つの距離感は一切想像がつきません。

そこで、Googleマップで2つの位置関係を調べてみました。

画像の地図上の青い印がMoMA・ニューヨーク近代美術館、赤い印が世界貿易センタービルです。

どちらもニューヨークのマンハッタン島にあり、その距離はおよそ8km。

車だと約26分の距離です。

こんなにも近い位置にあったのですね。

この距離なら、テロ発生時にMoMAの周辺まで騒ぎが広がっていることも納得です。

ピカソとマティスの関係性

続いて、主人公とその友人が大回顧展で共同展示するのが夢だったピカソとマティスについてです。

パブロ・ピカソは、これまでの編でもご紹介してきた言わずと知れた大画家です。

そして、アンリ・マティスも同じく大画家。

色彩の魔術師と呼ばれ、心が感じる色彩を表現するフォーヴィズム(野獣派)のリーダー的存在とのことです。

実際、マティスの絵は原色がふんだんに使われたものが多くとても鮮やかです。

芸術がよく分からないわたしから見ても、素直に「キレイ」と思える作品ばかりです。

そんなマティスとピカソは12歳差(マティスが年上)で、同じ時代に画家として活躍。

ピカソはスペイン出身ですが、マティスが生まれたフランスでも活動していたので接点があったのですね。

小説内にもありますが、お互いをライバルと認め合う良き友人だったようです。

その関係性は、ピカソが描いた「アルジェの女たち」という作品からも分かります。

この「アルジェの女たち」は、1954年に亡くなったマティスの追悼のために描かれたものとされています。

このピカソとマティスの関係性と、ピカソを専攻する主人公とマティスを専攻する友人の関係性が重ね合わせてあるのがこの編「新しい出口」の特長です。

あえてよかった Happy to see you

舞台は2000年、主人公は1年という期限付きでMoMAで働く日本人女性です。

おそらく、というか確実にこの女性のモデルは作者の原田マハさんだと思います。

小説内に描いてあるので詳細は省きますが、主人公の女性の経歴は原田マハさんの経歴そのまま。

そんな原田マハさんの芸術への愛情が伝わってくる、静かなお話でした。

この話を最後に持ってくることで、物語の良い幕引きになっています。

花緒の感想

原田マハさんの「モダン The Modern」について紹介しました。

今回は、小説に登場する作品を中心に、わたしが読んでいて分からなかったことを調べてまとめてみました。

小説だと登場する作品が見えないのが悔しいですね。

しかし、現代はネットで検索するとすぐにその作品がチェックできるので便利な時代です。

絵画への興味が深まりつつ、人間ドラマも味わえる短編集でした。

タイトルとURLをコピーしました