辻村深月さんの小説「ツナグ」の感想です。
亡くなった人に一度だけ再会させることができる『使者(ツナグ)』。
使者との再会を願う人たちと、その再会を見守ってきた『ツナグ』の少年を描く感動作です。
- 作者:辻村深月
- 対象:小学校高学年~
- エログロ描写なし
- 2010年10月に新潮社より刊行
- 2012年9月に文庫化
- 第32回吉川英治文学新人賞 受賞
- 2012年10月に実写映画化
「ツナグ」あらすじ
「ツナグ」は辻村深月さんの小説です。
世界観が同じ5つの短編が収録された連作短編小説となります。
この「ツナグ」は数年前に実写映画化され、大ヒットしたのでご存じの方も多いかと思います。
そんな「ツナグ」のあらすじを掲載します。
一生に一度だけ、死者との再会を叶えてくれるという「使者(ツナグ)」。突然死したアイドルが心の支えだったOL、年老いた母に癌告知出来なかった頑固な息子、親友に抱いた嫉妬心に苛まれる女子高生、失踪した婚約者を待ち続ける会社員……ツナグの仲介のもと再会した生者と死者。それぞれの想いをかかえた一夜の邂逅は、何をもたらすのだろうか。心の隅々に染み入る感動の連作長編小説。
ツナグ―Amazon.co.jp
小説のタイトルにもなっている『使者(ツナグ)』とは、生きている人と亡くなった人をもう一度だけ会わせることができる仲介人のような存在です。
こう書いていても非常にファンタジックな存在だと思いますが、小説を読むと「本当に『ツナグ』はいるんじゃないだろうか?」と思えてしまうほどリアルに感じました。
さらに、この「ツナグ」は基本的には人間ドラマに重きを置いたファンタジー作品ですが、物語全体を通して『ある謎』を巡るミステリー的な要素もあります。
各編ごとにもちょっとした謎を解き明かすミステリー要素があり、セリフや行動の1つ1つに気を配って読むとより楽しめるかと思います。
※『ある謎』については後述する各編のあらすじにて詳しくご紹介します。
続編「ツナグ 想い人の心得」も刊行
大ヒットを記録した「ツナグ」には待望の続編が刊行されています。
その名も「ツナグ 想い人の心得」。
「ツナグ」から7年後が舞台で、「ツナグ」の世界観がそのままにさらに深い人間ドラマを味わえます。
「ツナグ」の続編「ツナグ 想い人の心得」の感想は↓
2012年に実写映画化
「ツナグ」は2012年10月に実写映画化されています。
主演は松坂桃李さん、共演は樹木希林さんです。
実はわたしはこの映画「ツナグ」を当時、劇場へ観に行きました。
その時の映画の記憶を頼りに今回小説「ツナグ」を読み返してみると、配役がとても合っていて少し驚きました。
特に畠田靖彦を演じた遠藤憲一さんは、他に考えられないほどにベストキャストだったなと思います。
また、原作とは若干イメージが違うものの樹木希林さんは圧倒的に素晴らしかったです。
ストーリーは原作にとても忠実だったので、どちらから入っても安心して楽しめると思います。
※小説の「アイドルの心得」の編は丸々カットされていました。
興味がある方は、原作とともに映画版もチェックしてみてはいかがでしょうか?
『使者(ツナグ)』のルール
「ツナグ」に登場する『使者(ツナグ)』のルールを簡単にまとめてみます。
- 『ツナグ』は生者と死者の再開を仲介する存在
- 『ツナグ』の力で1人の生者が死者に会えるのは一度きり
- 死者も生者に会えるのは一度だけ
- 『ツナグ』の力を使えるのは生前と死後の一度ずつ
- 生前に『ツナグ』を依頼しても、死後に誰かからの依頼を受けることはできる
- 依頼は生者側からでしかできない
- 再会の日は指定のホテルの、満月の日に限られる
各編のあらすじ
「ツナグ」のあらすじを各編ごとにご紹介します。
アイドルの心得
一番最初のお話ということもあり『使者(ツナグ)』の説明&紹介のようなストーリーです。
依頼者は会社員の女性。
会いたい相手は3カ月前に亡くなった女性芸能人でした。
どうして実際にはほとんど接点がない女性芸能人にわざわざ会おうと決意したのか。
依頼者の女性の切実な思いが胸を締め付けるような話でした。
長男の心得
前編「アイドルの心得」と同じく『ツナグ』の紹介のようなストーリーです。
『ツナグ』の依頼としては「アイドルの心得」よりもこちらの方が一般的なのだろう、と思わせるエピソードでもあります。
2年前に亡くなった母親に会うことを依頼する中年男性が主人公です。
※映画で遠藤憲一さんが演じていたキャラクターになります。
この主人公の中年男性はとにかく不器用で、悪い人ではないものの、身内にいたらスゴくイヤな感じの人でした。
しかし、そんな人でも母親の前に立たされると1人の息子になってしまうのだなと、不思議な気持ちになった話です。
最後に明かされる秘密で心が温かくなるような良い話でした。
親友の心得
少し前に亡くなった親友に会いたいと願う女子高生の話です。
前2編と違うのは、結末がまったくハッピーエンドではないこと。
死者との再会が必ずしも幸せなものになるわけではない、ということを示すようなお話でした。
また、この編で初めて『ツナグ』の正体が明かされます。
『ツナグ』として生者と死者の仲介をする少年が、普段は高校生として学校に普通に通っている。
そして物語の大きな部分を担っている、不思議な編でもありました。
ちなみに、この話の主人公である嵐美砂は続編「ツナグ 想い人の心得」にも登場しています。
待ち人の心得
7年前に行方不明になった婚約者に会いたいと願う男性のストーリーです。
この話の辛いところは、依頼をしているものの、男性はまだどこかで婚約者が生きていると信じていたこと。
「会いたい」との返事をもらい、婚約者の死を知ってしまった男性の苦悩は想像を絶します。
そして、この話では『ツナグ』の少年が、依頼者に堂々と介入するというこれまでにない展開が訪れます。
少年がなぜこのような行動を取ったのか。
また、これまでの話の裏で少年が何を思い感じていたのかは次のお話で明かされます。
<ややネタバレあり>使者の心得
前4編の答え合わせや裏話的な編になります。
主人公は、ずっと『使者(ツナグ)』として再開に立ち会ってきた高校生の渋谷歩美。
歩美がどのように『ツナグ』として自らの仕事に向き合ってきたかが明かされます。
実は『ツナグ』として見習いだった歩美。
「アイドルの心得」と「長男の心得」の依頼が初めての仕事だったことが判明します。
体調が優れない祖母から後を継ぐ形で始め、最初は半信半疑だった『ツナグ』の仕事。
けれども、だんだんと『ツナグ』としての役割を意識するようになり、その中で生者と死者をつなぐことへの葛藤を抱くようになります。
死者を生者のために呼び出すことが、生者の傲慢であり死者への冒涜になるとの思いが拭えなかったのです。
その葛藤と成長の様子とともに、お話の中心にあるのが歩美の両親の死。
歩美の両親は歩美が幼い頃にとても不自然な状態で亡くなっていました。
その死の真相に気付き、さらに『ツナグ』の仕事に大きな意味を見出した歩美。
そんな歩美が『ツナグ』として祖母から正式に力を継承された時点で「ツナグ」の物語は終わります。
途中辛い描写も多々あり、思わず涙がこぼれそうになる瞬間もありました。
しかし、読後はとても清々しい気持ちになれる話です。
人の死を身近に感じ、辛いことが多い今だからこそ読みたい1冊「ツナグ」の紹介でした。