宇佐美りんさんの小説「推し、燃ゆ」の感想・あらすじです。
身も心もすべてを推しに捧げる高校生、しかしその『推し』が事件を起こし炎上してしまいます。
それでも変わらず応援し続ける主人公の心の様子がありのままに描かれていきます。
芥川賞受賞、本屋大賞9位の話題作です。
- 作者:宇佐美りん
- 対象:中学生~
- エログロ描写なし
- 2020年9月に河出書房新社より刊行
- 2021年第164回芥川賞・受賞
- 2021年本屋大賞9位
「推し、燃ゆ」について
「推し、燃ゆ」は宇佐美りんさんの小説です。
宇佐美りんさんは本書で芥川賞を受賞、大きな話題となりました。
第2作目とは思えないほどの完成度、そして圧倒的な熱量に飲み込まれます。
そんな「推し、燃ゆ」のあらすじを掲載します。
【第164回芥川賞受賞作】
推し、燃ゆ―Amazon.co.jp
逃避でも依存でもない、推しは私の背骨だ。アイドル上野真幸を“解釈”することに心血を注ぐあかり。ある日突然、推しが炎上し――。デビュー作『かか』が第33回三島賞受賞。21歳、圧巻の第二作。
主人公は高校生のあかり。
あかりは男性アイドルとして活動する上野真幸(うえの・まさき)を『推す』ことに人生を捧げていると言っても過言ではありません。
小説は、そんなあかりの推し・真幸がファンの女性に暴力を振るい、その事実をあかりが知るところから始まります。
作者・宇佐美りんとは
「推し、燃ゆ」の作者である宇佐美りんさんの略歴を掲載してみます。
1999年生まれ、わたしよりも年下です。
自分よりも年下の方が書いた小説を初めて読みました。
デビューから2作目で芥川賞に輝くなんて、まさに天才です。
この「推し、燃ゆ」を読んでも分かりますが、とにかく才能に溢れています。
『推し』とは
「推し、燃ゆ」のタイトルにも使用されている『推し』という言葉。
「推し、燃ゆ」では主人公のあかりが推しである真幸を心の中で『推し』と呼んだり、ブログ上で『推し君』と書いたりしていました。
『推し』とは、他の人にオススメしたいほど好きな対象を指します。
この場合の『好きな対象』とは
- 実在する(三次元)アイドル
- 実在しない(二次元)アイドル
- マンガ・アニメのキャラクター
- 俳優・女優
- マンガ・アニメそのもの
- 物(食べ物・乗り物など)
- 名所
- 歴史・歴史上の人物
など、とにかく自分が「誰かに勧めたいほど好きである」と認識していれば、その対象は『推し』になるようです。
わたしには現在『推し』はいませんが、かつてはいました。なので、あかりほどではないですが『推し』を推す気持ちは分かります。
「推し、燃ゆ」感想
「推し、燃ゆ」の感想です。
あかりの視点
推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。
「推し、燃ゆ」は唐突に幕を開けます。
その次の文章は
まだ詳細は何ひとつわかっていない。
と続きます。
そして、この『あかりの推し=真幸がファンに暴力を振るった詳細』については、小説をすべて読んでも分かりません。
- なぜファンに暴力を振るったのか
- 真幸とファンの本当の関係とは
- その時何があったのか
など、気になること・知りたいことは山ほどあります。
しかし、読者であるわたしたちにはこの件の真相は一切明かされません。
それは主人公であるあかりも分からないから、だと思います。
「推し、燃ゆ」はひたすらあかりの一人称で綴られ、あかりの心情が赤裸々に描かれています。
『真幸の事件』は物語の中心ではなく、『真幸の事件を受けたあかりの心情』がストーリーそのもの。
空白の行はあるものの、章の区切りはなく、気付いたら時間が経っています。
あかりの意識を切り取ってつなぎ合わせている、といった感じです。
「推し、燃ゆ」はいわゆる純文学なので、読者を楽しませたり喜ばせたりするために書かれたわけではありません。
ひたすら主人公の心の移ろう様を読む芸術性が重視される文学です。
だからこそ、あかりの心情の生々しさが暴力的なまでにむき出しになっていて、読んでいて辛くなってくるほどです。
しかし、その荒々しさがこの「推し、燃ゆ」の最大の魅力だと思いました。
ただ、荒々しいものの均整が取れているので、一気に読めてしまうのもまた魅力でした。
推しとの距離感
あかりと推しである真幸は現実では接点がありません。
あかりが一方的に知っていて、応援しているだけ。
真幸にとっては、大勢いるファンの1人でしかありません。
その関係性は端から見ると無意味だったり虚しいだけとしか感じなかったりするかもしれません。
しかし、あかりにとってはその推しとの距離感が何よりも救いである、と読んでいて思わずにいられませんでした。
あかりにとって現実の人間関係は煩わしいものばかり。
けれども推しである真幸を応援している時だけは、他のことをしている時とは別人のようにイキイキしている様子が伝わります。
真幸の一挙手一投足を解釈し続けるあかりには狂気を感じるほど。
このあかりから推しへの一方通行の関係が、あかりにとっては最高なのだろうと思いました。
また、推しへの病的なほどの関心がないと、あかりは壊れてしまいそうなほど脆いのも辛かったです。
双方向ではない、相手からレスポンスが来ない関係だからこそ、あかりは推しを好きでいられる。
だからこそ、あかりに限らず、推しに人生を捧げられる人が大勢いるのだろうと感じました。
推しの炎上、から始まる「推し、燃ゆ」は、様々な終わりをもって幕を閉じます。
推しや周囲はどんどん変わるものの、自分自身は変わらずに居続けたあかりに最後に訪れた変化とは。
その終わりは、ただの終わりではなく、次へのはじまりでもある。
そんなメッセージが込められたラストだったと思います。
ドキドキするような熱量で読み進められる、小説「推し、燃ゆ」の感想でした。