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「自転しながら公転する」山本文緒 恋愛をしている、けど恋愛だけに集中できない。そんな悩みの行き着く先とは?

ジャグリング 自転しながら公転する 小説
Theodor MoiseによるPixabayからの画像

山本文緒さんの恋愛小説「自転しながら公転する」の感想です。

32歳の契約社員の女性と、30歳の回転寿司屋の男性店員が出会い、交際を始める。

交際を続け、仲を深めていくものの、2人の前にはあらゆる問題が次々と立ちはだかります。

どことなく苦しい閉塞感のなかで繰り広げられる恋愛模様、読後の爽快感が格別です。

「自転しながら公転する」基本情報
  • 作者:山本文緒
  • 対象:中学生~
    • 性的な描写やややあり
    • グロテスクな描写なし
  • 2020年9月に新潮社より刊行
    • 2022年10月に文庫化
  • 第18回本屋大賞・第5位
  • 第16回中央公論文芸賞・受賞
  • 第27回島清恋愛文学賞・受賞

「自転しながら公転する」について

「自転しながら公転する」は山本文緒さんの恋愛小説です。

2010年代に生きる30代男女の恋愛を描いたストーリー。

恋愛だけではなく、家族や仕事、友人関係にも翻弄され続ける主人公・都(みやこ)と、その恋人となる貫一のもどかしい恋の行方が描かれます。

まずは、そんな「自転しながら公転する」のあらすじを掲載します。

中央公論文芸賞受賞!島清恋愛文学賞受賞!本屋大賞ノミネート!
恋愛、仕事、家族……30代女子の悩みは止まらない!
読者から圧倒的な共感を集めた傑作長編

母の看病のため実家に戻ってきた32歳の都(みやこ)。アウトレットモールのアパレルで契約社員として働きながら、寿司職人の貫一と付き合いはじめるが、彼との結婚は見えない。職場は頼りない店長、上司のセクハラと問題だらけ。母の具合は一進一退。正社員になるべき? 運命の人は他にいる? ぐるぐると思い悩む都がたどりついた答えは――。揺れる心を優しく包み、あたたかな共感で満たす傑作長編。(解説・藤田香織)

自転しながら公転する―Amazon.co.jp

文芸賞を3つ受賞したこの「自転しながら公転する」は、山本文緒さんにとって新たな代表作となるほどの傑作長編でした。

この先もどんどん意欲的な小説を生み出していくのだろう、と誰もが思っていた矢先、山本さんは2021年10月に膵臓がんのため帰らぬ人に。

「自転しながら公転する」は山本文緒さんにとって最後の長編小説になりました。

「自転しながら公転する」感想・あらすじ

「自転しながら公転する」の感想・あらすじです。

タイトルの意味に打ちひしがれる

「自転しながら公転する」

このタイトルの意味は小説の早い段階で明かされます。

わたしたちが住んでいる地球は軸を中心に回転(自転)しながら、太陽の周りも回っている(公転)。

その状態を主人公・都の状況と重ね合わせた、貫一の言葉です。

自分のことで手一杯なのに、家族や仕事のあれこれもやる必要があり、目が回る。

素直に、なんて上手い表現なんだろうと、読んでいる途中だったのにしばらく放心してしまいました。

その言葉を貫一が口にした時点で、都の日常はてんやわんやの状態でした。

しかし、その言葉以降、貫一との日常や家族、仕事のことがさらに慌ただしくなり、都は翻弄され続けます。

わたしと都は立場や状況は全く異なりますが、この一度に多くの難問が現れ、目が回りそうになりながらも進んでいく日常には心当たりがあります。

大抵の人は覚えがあるのではないでしょうか?

恋愛小説ですが、恋愛だけでない生きていく上でのもどかしさが濃厚に描かれた小説でした。

娘と母の物語でも

「自転しながら公転する」は都の一人称が中心の小説です。

しかし、時折、都の母である桃枝の一人称が挟まれます。

桃枝は重い更年期障害に苦しんでいて、家事もままならない状態。

苦しむ桃枝の克明な描写は、都の苦しみとは違った静かな色合いで心が冷えました。

都はそんな母を助けるべく、東京から地元・茨城へ戻り働いていました。

父と協力し、母をサポートする都。

しかし、貫一という恋人ができてから、家族のことがあまり見えなくなっていきます。

一時快方へ向かっていた桃枝の病状はまた悪化し、父親も限界に。

そんなゆっくり家庭が壊れていく様子が、シンプルに一番怖かったです。

先ほども触れたタイトル「自転しながら公転する」ですが、自分のこと・周りのことで悩みパンクしそうなのは都だけではありませんでした。

都も母も父も、みんなパンク寸前な中で、家族が選んだ結末はとても救いがありました。

自分に持っていないものを持っている相手

恋愛では自分に持っていないものを持っている相手を好きになる。

そんな言葉がありますが、この「自転しながら公転する」の都と貫一は、まさにそんな2人でした。

足りない部分を補うために惹かれ合うという心理状態のことらしいですが、都と貫一は自身が持っていない相手の部分に惹かれるとともに、恐れてもいました。

そのため何度も衝突し、そして打ち解けます。

決定的な亀裂が入っても都は貫一が忘れられず、そのことを幼なじみに指摘されても認められず。

しかし、貫一と離れたからこそ、都は貫一に近づく決意ができます。

そして迎える大団円は静かでなんともドラマティックでした。


都の仕事先であるアウトレットのアパレルでの人間関係の面倒くささや、中卒という学歴がネックとなる貫一など、恋愛だけに溺れていられない現代社会のややこしさが繊細に描かれた小説でもありました。

山本文緒さんが20年以上前に書いた「恋愛中毒」を読んだばかりなので、特にそう感じました。

恋愛だけに没頭できる、そんな時代は終わったのだろうと思います。

しかし、だからこそ「自転しながら公転する」はストーリーに奥行きがあり、恋愛だけではない人間ドラマとしての魅力にも溢れていたのでしょう。

ここまで「自転しながら公転する」の感想でした。

↓にはネタバレありの時系列をまとめています。ぜひ読後にご覧ください。

【ネタバレあり】「自転しながら公転する」の時系列

「自転しながら公転する」は実際の出来事とリンクした部分が多い小説でした。

そこで、時代背景を探るべく、自力で時系列をまとめてみました。

劇中のネタバレがあるのでご注意ください。

  • 2016年9月
    都32歳・貫一30歳

    アウトレットの駐車場で出会う

  • 2017年5月
    都の職場の歓送迎会

    天馬からセクハラを受ける

  • 2017年9月
    貫一の誕生日(31歳)

    ネックレスを巡り喧嘩をする

  • 2017年12月
    都と貫一が熱海へ旅行

    その帰り道に貫一が無免許運転で捕まる

  • 2018年9月
    都35歳

    都と貫一が再会する

    ※この年2018年7月に西日本豪雨が発生

  • 2042年
    都・貫一の娘(みどり)の結婚式

プロローグ・エピローグは本編開始時点の26年後、都と貫一の娘の結婚式が描かれているというのがポイントでした。

26年後なので都は57~8歳、貫一は55~6歳。

エピローグではサラッと都・貫一の結婚生活が語られていますが、相当ハードな人生を過ごしています。

それでも、2人は仲良く寄り添って生きてきた、その結果が表れているラストでした。

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