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「ばにらさま」山本文緒 二度読み必至、喪失と爽快が味わえる短編集

ばにらさま 山本文緒 バニラアイスクリーム イメージ 小説
Aline PonceによるPixabayからの画像

山本文緒さんの小説「ばにらさま」の感想です。

爽快なのに、とても切ない。そんな6短編が収録されています。

思わず読み返す、声が出てしまう衝撃の仕掛けも必見です。

「ばにらさま」基本情報
  • 作者:山本文緒
  • 対象:中学生~
    • エログロ描写なし
  • 2021年9月に文藝春秋より刊行
    • 2023年10月に文庫化

「ばにらさま」について

「ばにらさま」は山本文緒さんの短編小説です。

表題作でもある『ばにらさま』を含め、6つの短編が収録されています。

ただの恋愛小説ではない、思わず読み返してしまう不思議な小説でした。

まずは、そんな「ばにらさま」のあらすじを掲載します。

冴えない僕の初めての恋人は、バニラアイスみたいに白くて冷たい

日常の風景が一転! 思わず二度読み!
痛くて、切なくて、引きずり込まれる……。
6つの物語が照らしだす光と闇

島清恋愛文学賞、本屋大賞ノミネート『自転しながら公転する』の山本文緒最新作!
伝説の直木賞受賞作『プラナリア』に匹敵する吸引力! これぞ短編の醍醐味!

ばにらさま―Amazon.co.jp

※↑の引用は、一部わたしが修正しています。

「ばにらさま」に収録されている短編の説明を引用してみます。

ばにらさま/冴えない僕の初めての恋人は、バニラアイスみたいに白くて冷たい。
わたしは大丈夫/夫と娘とともに爪に火をともすような倹約生活を送る私。
菓子苑/舞子は、気分の浮き沈みの激しい胡桃に翻弄されるも、彼女を放って置けない。
バヨリン心中/余命短い祖母が語る、ヴァイオリンとポーランド人の青年をめぐる若き日の恋。
20×20/主婦から作家となった私。仕事場のマンションの隣人たちとの日々。
子供おばさん/中学の同級生の葬儀に出席した夕子。遺族から形見として託されたのは……

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『恋愛』小説と↑でご紹介した「ばにらさま」ですが、6編のうち恋愛がテーマなのは

  • ばにらさま
  • わたしは大丈夫
  • バヨリン心中

の3編だけかもしれません。

  • 菓子苑
  • 20×20
  • 子供おばさん

は人間ドラマやホームドラマといえる小説でした。

「ばにらさま」感想・あらすじ

「ばにらさま」の感想・あらすじです。

舞台は2010年前後の日本

山本文緒さんの小説は、先日、直木賞受賞作「プラナリア」をはじめて読みました。

「プラナリア」は2000年頃の恋愛を描いた小説です。

今回、ご紹介する「ばにらさま」は刊行されたのは2021年ですが、雑誌に掲載されたのは2008~2015年。

「ばにらさま」を読むと「プラナリア」から10年ほどで世の中が大きく変わったことを感じます。

一番の変化はSNS、承認欲求という言葉はここ十数年で突如現れた言葉でしょう。

ただ、2008~2015年に書かれた短編なので、登場するSNSはブログやTwitterなど。

その後に急速な発展を遂げたInstagramやTikTokは登場しません。

ブログやTwitterと、Instagram・TikTokの大きな違いは、自己表現が文字か画像・映像かだと思います。

もし、この「ばにらさま」が今の2020年以降にこの小説を執筆していたら、またひと味違った小説になっていたのでしょう。

『わたしは大丈夫』『菓子苑』は二度読み必至

「ばにらさま」に収録されている短編は、いずれも「ん!?」と唸るようなトリックが仕掛けられた小説でした。

特に、2編目の『わたしは大丈夫』と3編目の『菓子苑』は思わず読み返してしまう展開のお話です。

引用したあらすじにも書かれていましたが、たしかに二度読みしてしまいました。

狂気的とも言える節約を敢行する主婦と、妻子ある男性との不倫に溺れる女性。

その両者の視点から交互に描かれる『わたしは大丈夫』は、終盤である種明かしがされたとき、思わずゾッとしました。

湿り気がなく、淡々と描かれる主婦と不倫。

中ほどからところどころに違和感を覚えつつも読み進めていき、アッと気付いたときにはドツボにハマっていた感覚です。

まんまとやられました。

そして『菓子苑』ですが、このお話は最初からどこかがおかしかったです。

読み始めてから仕掛けが分かるまで、ずっとモヤモヤしながらページをめくり続けました。

種明かしの瞬間、そのモヤモヤが一気に晴れます。

すべて辻褄が合う、ミステリー小説を読んだかのような快感でした。

小説だからこそ。

小説でしか描けない2人の関係性でした。

喪失感によるつながり

「ばにらさま」には、全ての短編が喪失感によってつながっている、そんな風に思います。

各短編の語り手たちは、物語の中でみんな何かを失ったり、失ったものを憂えたりしています。

失うものは人により全然違いますが、感じるのはどれも喪失。

しかし、心にぽっかりと穴が開くような感覚もあれば、苦々しさだけが残る別れもあります。

光と闇を描く、とあらすじに書かれている「ばにらさま」ですが、その光と闇の境目は曖昧で、はっきりと分かれてはいません。

光と闇が入り混じった日常を覗いている感じでした。

けれども、どの短編でも最後には光が差し込むのが救いでもあります。

重めのテーマを描く短編もありますが、読後感はどれも爽やか。

それでもどこか切なさが胸に迫る短編集でした。


ここまで「ばにらさま」の感想でした。

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