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「黒牢城」米澤穂信 籠城の中起きた難事件、解決を導く軍師の意図とは?有岡城の戦いを元にした新感覚時代ミステリー

米澤穂信さんのミステリー小説「黒牢城」の感想です。

戦国大名・荒木村重を主人公に据えたこの「黒牢城」。

籠城戦となった有岡城の戦いの最中、城内を騒がせる不可解な事件が次々と発生。

事件解決のため、有岡城の土牢に幽閉されていた黒田官兵衛が安楽椅子探偵として活躍する、新感覚の時代ミステリーです。

黒牢城」基本情報
  • 作者:米澤穂信
  • 対象:中学生~
    • グロテスクな描写あり
    • 性的な描写なし
  • 2021年6月にKADOKAWAより刊行
  • 166回直木賞・受賞
  • 2022年本屋大賞・第9位
  • 第12回山田風太郎賞・受賞
  • このミステリーがすごい! 2022年版・国内編第1位
  • 週刊文春ミステリーベスト10・国内部門第1位
  • ミステリが読みたい! 2022年版・国内編第1位
  • 2022本格ミステリ・ベスト10・国内ランキング第1位
  • 2021年歴史・時代小説ベスト3 第1位
  • この時代小説がすごい! 2022年版・単行本第3位

「黒牢城」について

「黒牢城(こくろうじょう)」は米澤穂信さんのミステリー小説です。

米澤穂信さんはこの「黒牢城」において直木賞を獲得。

ミステリーの名手である米澤さんの直木賞受賞作ということで、本格ミステリーを期待し、何の前情報も入れず読み始めたところ、歴史小説でビックリしました。

米澤穂信さんの小説を10年以上読み続けてきましたが、まさかの歴史小説とは。

しかし、史実を元にしていますが、しっかり米澤穂信作のミステリー小説です。

長くなりましたが、そんな「黒牢城」のあらすじを掲載します。

本能寺の変より四年前、天正六年の冬。織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の軍師・黒田官兵衛に謎を解くよう求めた。事件の裏には何が潜むのか。戦と推理の果てに村重は、官兵衛は何を企む。デビュー20周年の到達点。『満願』『王とサーカス』の著者が挑む戦国×ミステリの新王道。

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「黒牢城」の主人公(語り手)は戦国大名・荒木村重。

織田信長の家臣だった村重ですが、天正6(1578)年に謀反を企て、自らの有岡城に立て籠もります。

そんな村重の謀反を制止するため、使者として小寺官兵衛(黒田官兵衛)が有岡城を訪れるところから「黒牢城」は始まります。

『序章』だけ読むと、本格的な時代小説が始まってしまった・・・、と時代小説を読み慣れていないわたしはヒヤヒヤしてしまいました。

けれども、その心配は杞憂。

「黒牢城」は、城下の町ごと籠城することになった有岡城内では不可解な事件が次々と発生。

そんな不可解な事件を解決すべく、荒木村重が黒田官兵衛へ『探偵』としての助力を願う、というストーリーです。

軍師として公正に名高い黒田官兵衛を探偵に据える、この大胆な設定は最高にしびれました。

荒木村重・有岡城の戦いについて

荒木村重は戦国大名として活躍した人物です。

生家である荒木家は池田家に仕える一家臣でした。

しかし、織田信長の家臣となった村重は功績を挙げ、主人だった池田家を乗っ取る下剋上を成し遂げます。

その後天正2(1574)年に伊丹城を落とし、自らが伊丹城主となり、そのまま摂津の国を治めるように。

伊丹城を有岡城と改名し、摂津守を名乗るようになった村重。

信長の家臣として武功を立て続けた村重ですが、天正6(1578)年、突然、信長に反旗を翻します。

この謀反の理由は諸説あるようですが、定かではありません。

信長からの信頼が厚かった村重による突然の謀反。

村重やその家臣はそれから約1年もの間、有岡城にて籠城戦を続けます。

この戦いが有岡城の戦いです。

その結末については、ドラマなどでご存じの方もいるかと思います。

わたしは大河ドラマ「軍師官兵衛」を観て、荒木村重と有岡城の顛末を知っていたので、正直気が重かったです・・・。

もちろん、荒木村重って?という方でも大丈夫、前知識がなくても読めます。

また時代小説に慣れていない方でも案外読みやすい小説です。

「黒牢城」感想・あらすじ

「黒牢城」の感想・あらすじです。

軍師ではない『探偵』黒田官兵衛

「黒牢城」における最大のおすすめポイントは黒田官兵衛を探偵役に任命しているところ!

軍師として名高い黒田官兵衛。

官兵衛は村重を説得すべく、単身で有岡城を訪ね、そのまま土牢に閉じ込められてしまいます。

殺すことも、逃がすこともせず、ただ閉じ込められる。

この処遇は史実通りなのですが、この史実を生かし官兵衛を安楽椅子探偵に仕上げるという発想はあまりにも面白かったです。

たしかに、あの黒田官兵衛なら話を聞いただけで事件を解決できそう、と思ってしまいます。

村重が語って聞かせ、官兵衛が事件解決の糸口を授ける。

それを元に村重は事件に沸き立つ城内を鎮める。

そんな不思議な形式により、この「黒牢城」は物語を進めていきます。

城下まるごと、ほぼクローズドサークル

「黒牢城」にて描かれる有岡城の戦いは、天正6年7月から翌天正7年の11月まで続いた戦いです。

天正6年の11月に黒田官兵衛が有岡城を訪ね、そのまま幽閉されます。

有岡城に立て籠もる、いわゆる籠城戦が始まったのは12月8日のこと。

そこから約1年もの間、有岡城では籠城戦が繰り広げられることになります。

籠城、と聞くと城の中で武士たちだけで敵を待ち構える、というイメージでした。

しかし、この有岡城の戦いでは、有岡城とその城下ごと籠城し、敵を待ち構える『総構え』というスタイル。

総構えは守りが堅いのが特長ですが、それでも1年もの間持ちこたえたのは素人でもすごいと思います。

ただ、守りが堅いのは、反面、中からも出られないという意味。

実際、籠城戦では武士だけでなく、民草も城内に閉じ込められた状態でした。

入ることも難しく、出ることはもっと難しい。

そんなほぼクローズドサークルで起きた事件は話の種になりやすく、簡単に人心を惑わせます。

臣下や民からの求心力低下を防ぐべく、村重は早急な事件解決のため、官兵衛を頼ってしまう。

こんな極限状態もあるのかとドキドキしてしまいました。

季節の移り変わりを感じて

「黒牢城」は、黒田官兵衛を幽閉した11月から始まり、籠城を開始した12月の冬、春の3月、そして初夏から夏の終わり、秋にかけて季節の移り変わりが感じられます。

ただ、イメージ的には、寒い冬から春になり、夏になり、と暖かい季節になるにつれ状況は好転しそうなもの。

しかし「黒牢城」では、季節の移り変わりを通して、死の気配が濃くなっていく様を描いていました。

最初こそ意気揚々と籠城していた家臣たちの心が、季節が進むにつれ離れていく。

それを感じ村重も焦り、またしても官兵衛に頼る。

頼られる官兵衛は自らの知略で村重を導いていく。

そんな探偵・黒田官兵衛の真意が明らかになったとき、「黒牢城」前編を覆っていた罰の真意も明らかになります。

そして、その後は史実通り、戦いの終結へつながります。

ただの時代小説でも、ミステリー小説でもない、何とも苦しい結末でしたが、救いがあるラストに心が晴れました。


荒木村重が織田信長を裏切った理由は不明で、現代でもよく分かっていないそうです。

だからこそ「黒牢城」では、謀反の理由を大胆に解釈し、その信念に基づき荒木村重を描ききっていました。

重厚な歴史物でもありますが、読んでいるときの感想は、殿さまも辛いな・・・、というのが一番でした。

ここまで「黒牢城」の感想でした。

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