柚木麻子さんの小説「幹事のアッコちゃん」の感想です。
「アッコちゃん」シリーズ3作目は終わりの巻でもありました。
しかし、アッコちゃんの勢いは止まらず、物語の最後まで駆け抜けています。
自分の時間を見つめ直し、もっと自分を大切にしたくなる。「幹事のアッコちゃん」はそんな小説です。
- 作者:柚木麻子
- 対象:小学校高学年~
- エログロ描写なし
- 2016年2月に双葉社より刊行
- 2019年9月に文庫化
- 「ランチのアッコちゃん」シリーズ3作目
「幹事のアッコちゃん」あらすじ
「幹事のアッコちゃん」は柚木麻子さんの小説です。
「ランチのアッコちゃん」「3時のアッコちゃん」に続くシリーズ3作目にして、(おそらく)完結編となる作品でした。
そんな「幹事のアッコちゃんのあらすじを掲載します。
アッコさん節、次々とサク裂!
幹事のアッコちゃん―Amazon.co.jp
妙に冷めている男性新入社員に、忘年会プロデュースの極意を…(「幹事のアッコちゃん」)。
敵意をもつ取材記者に、前向きに仕事に取り組む姿を見せ…(「アンチ・アッコちゃん」)。
時間の使い方が下手な“永遠の部下”澤田三智子を、平日の習い事に強制参加させて…(「ケイコのアッコちゃん」)。
そしてアッコ女史にも一大転機が!?大人気シリーズ第3弾待望の文庫化。
小説本編と関係ないですが『ランチ』『3時(さんじ)』ときて、ちゃんと『幹事(かんじ)』と韻を踏んでいるのが良いですね。
シリーズが続くとたるみがちですが、この「アッコちゃん」シリーズは、シリーズを重ねるごとにパワーアップしているのが特長です。
現実とともに小説の中でも時間が経ち、登場人物たちの成長が垣間見えるのも親しみやすさの秘訣かもしれません。
「幹事のアッコちゃん」はシリーズ完結編?
「幹事のアッコちゃん」は1作目「ランチのアッコちゃん」・2作目「3時のアッコちゃん」の続編として刊行されたシリーズ3作目。
シリーズ1・2作目の感想は↓
この「幹事のアッコちゃん」以降はシリーズの新作は出ていません。
また、小説のラストを読んでも、おそらくこの「幹事のアッコちゃん」でシリーズは完結してしまったと思われます。
面白かったのに、少し残念です・・・。
しかし、スッキリと物語が終結しているので、終わり方としては完璧だったと感じました。
「幹事のアッコちゃん」各話あらすじ&感想
「幹事のアッコちゃん」はこれまでのシリーズと同じく全4話の連作短編集です。
ただし、全2作と違うのは、すべての短編にアッコちゃんこと黒川敦子と、その相棒である澤田三智子がしっかり登場すること。
また、各話のタイトルがみんな『~アッコちゃん』になっています。
だからこそ、最後のシリーズ感が増していますね・・・。
幹事のアッコちゃん
表題作です。
文字通り『幹事』がテーマのお話になります。
澤田三智子が勤める高潮物産の新入社員・久瀬涼平が主人公。
シリーズを通して、唯一の男性主人公です。
しかし、涼平は今風の男性で、料理が得意で自分の時間を大切にするタイプ。
そんな彼が忘年会の幹事を(超イヤイヤ)やらされることになり、悩んでいたところアッコちゃんに出会います。
悩みを聞いたアッコちゃんは、涼平に「4日間、わたしが幹事をする忘年会に参加なさい」と命を受けます。
半信半疑でアッコちゃんの忘年会に参加し『幹事』としての新しい考え方に触れ、変わっていく涼平。
その結果、幹事としての涼平が出した答えとは?というお話でした。
忘年会は集まる人や幹事によって千差万別なのだな~、と思わせるストーリーです。
また、登場するお店がどこも美味しそうで魅力的でした。
特に何種類もポテトサラダを一気に食べられるなんて、いも好きのわたしとしては最高のお店です。
アンチ・アッコちゃん
『アンチ』とは反対・対抗という意味の言葉。
その言葉通り、世間的にも大きくなったアッコちゃんの『アンチ』の女性・赤井温子が主人公です。
アッコちゃんと同い年で同じ大学出身の温子。
同じ名前でもあるのに、何事も上手くいっているように見えるアッコちゃんに比べ、温子の人生はやることなすこと裏目に出る散々なものでした。
罵詈雑言を書き立てることで悪名高いグルメ雑誌の記者である温子がアッコちゃんに取材しているところからお話は始まります。
その後、追加の取材のためにアッコちゃんの会社を訪れると、そこには意外な姿のアッコちゃんがいて・・・。
前向きでパワフルなアッコちゃんを見れば見るほど卑屈になっていく温子。
わたしはどちらかと言えば温子のようなタイプなので、明るい人を目の当たりにするほど元気が奪われるようか感覚になるのは分かります。
また、この『アンチ・アッコちゃん』では、これまでほぼ語られてこなかったアッコちゃんの幼少時代が語られます。
アッコちゃんがなぜ食に興味を持ったのか。
そのルーツを知ると、過剰なほどに押しつけがましいと感じていたアッコちゃんに対する見方が変わりました。
ケイコのアッコちゃん
『ケイコ』は人の名前ではなく『稽古』のこと。
時間の使い方が下手な元部下・笹山三智子に、アッコちゃん自身が行っているお稽古事を付き合わせるというお話です。
ストーリー云々より、これまでずっと登場してきた三智子が恋人と結婚していることに衝撃を受けます。
アッコちゃんの変わり方も大きいですが、三智子の変貌・成長ぶりは特筆すべきものを感じました。
それはさておき、この『ケイコのアッコちゃん』でアッコちゃんが習っているお稽古は本格的なから「え、それ?」と思うものまでさまざま。
しかし、アッコちゃんにとって、自分の時間を生きるために重要なお稽古なのだと感じました。
祭りのアッコちゃん
アッコちゃんが社長を務める「東京ポトフ&スムージー」が三智子の会社に買収を持ちかけられるというストーリーです。
板挟みになり困惑する三智子。
そんな三智子にアッコちゃんはいつものように「お盆休みの4日間、わたしを手伝いなさい」と命じます。
アッコちゃんを手伝ううちに、三智子はアッコちゃん、そして「東京ポトフ&スムージー」にとって最善の未来を考えるようになっていくというお話でした。
三智子の成長、そしてまだまだ立ち止まることなんてないアッコちゃんの姿が描かれ、物語は幕を閉じます。
少し寂しいですが、明るい終わり方で「アッコちゃん」シリーズらしいと思いました。
★まとめ★
「アッコちゃん」シリーズ3作とも口当たりが良く、しかし濃厚な味わいの小説です。
短編ということもあり、好きな話だけサクッと読み返せるというのも楽しみ方の1つ。
悲しい気持ちになったときでも読める「アッコちゃん」シリーズは、見ているだけで楽しい気持ちになるカラフルなバイキングのような小説でした。