京極夏彦さんのミステリー小説「塗仏の宴 宴の支度」の感想です。
異なる登場人物の視点から、別の事件が描かれていく今作。
けれども、どの事件も1つの消えた村へ繋がっていきます。
おなじみの登場人物の変化も大きい「塗仏の宴」前後編の前編「宴の支度」です。
- 作者:京極夏彦
- 対象:中学生~
- グロテスクな描写あり
- 性的な描写ややあり
- 1998年3月に講談社のベルスより刊行
- 2003年9月に文庫化
「塗仏の宴 宴の支度」について
「塗仏の宴 宴の支度」は京極夏彦さんのミステリー小説です。
中禅寺秋彦が登場する『百鬼夜行シリーズ』の6作目にして、前後編の前編となります。
前後編を合わせると2000ページを超える大長編!
後編「塗仏の宴 宴の始末」へと壮大な謎が持ち越されます。
まずは、そんな「塗仏の宴 宴の支度」のあらすじを掲載します。
宴の支度は整いました――。京極堂、挑発される。
「知りたいですか」。郷土史家を名乗る男は囁く。「知り――たいです」。答えた男女は己を失い、昏(くら)き界(さかい)へと連れ去られた。非常時下、大量殺戮の果てに伊豆山中の集落が消えたとの奇怪な噂。敗戦後、簇出(そうしゅつ)した東洋風の胡乱(うろん)な集団6つ。15年を経て宴の支度は整い、京極堂を誘い出す計は成る。シリーズ第6弾。
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「塗仏の宴 宴の支度」において、舞台となるのは静岡県・伊豆半島の山間部。
物語は昭和28年の春先から始まります。
前作であるシリーズ5作目「絡新婦の理」と時期が被っているのが特徴です。
地図からも人々の記憶からも消えた村。
いくつも登場する新興宗教や民間療法。
日常が徐々に侵略されていく感覚。
全てが少しずつ繋がっているのに、どう繋がっていくのかはこの「宴の支度」では分かりません。
とりあえず、はやく続きを読まなくては!と思わされる前編でした。
【ネタバレなし】「塗仏の宴 宴の支度」感想・あらすじ
「塗仏の宴 宴の支度」のネタバレなし感想・あらすじです。
複数の登場人物の視点から
レギュラーの登場人物がシリーズを重ねるごとに増えていく百鬼夜行シリーズ。
「塗仏の宴 宴の支度」では、これまで一人称でおなじみの関口・木場に加え、新たなキャラクターの視点からもストーリーが展開していきます。
2章はシリーズ3作目「狂骨の夢」に登場した朱美が、6章はシリーズ5作目「絡新婦の理」に登場した織作茜の視点を通した物語。
また、4章目にシリーズ1作目から登場している、中禅寺秋彦の妹・敦子の視点でストーリーが進みます。
ずっと登場し、活躍していた敦子ですが、彼女の一人称は今回が初めて。
敦子の視点では、彼女の複雑な生いたちや兄との関係、そして中禅寺敦子の思考が描かれていきます。
そんな敦子の核の部分が描かれることは、敦子の人物像に奥行きが増していくようでした。
最初から登場しているのに、どこかつかみ処がなかった敦子の人間の部分が分かる、というのでしょうか。
敦子が好きな身としては、この展開は嬉しかったです。
さらに、この「塗仏の宴 宴の支度」は章ごとに妖怪の名前の副題が付けられているのも特徴。
副題に付けられた妖怪の説明も作中にあり、ストーリーとのつながりもポイントでした。
また、この「塗仏の宴 宴の支度」では、多々良勝五郎が初登場するのもポイント!
妖怪の研究をしている多々良先生。
後に彼を主人公とした短編が出るほどの人気キャラです。
「塗仏の宴 宴の支度」では登場が少ないものの、インパクトを残していました。
全ての謎は後編へ
「塗仏の宴 宴の支度」は前後編の前編。
この巻では謎を謎のまま、物語の随所にばらまき、ところどころ繋がりを持たせて、後編に持ち越しています。
まさに「宴の支度」。
解決編である「宴の始末」は全て後編です。
別の事件であるはずなのに、出てくる事件の全てが伊豆の『へびと村』に繋がっていく展開。
事件の関係者が何かしら『へびと村』に関係している静かな恐怖。
繋がりが分かっているのは「塗仏の宴 宴の支度」の時点では読者だけというのがまた良いですね。
何も分からないながらずっと面白いですが、登場人物が多いことと、時系列が時折前後すること、話が複雑なので、ちょっとしたメモを取りながら読むことをオススメします。
ここまで、ネタバレなし「塗仏の宴 宴の支度」の感想でした。
↓にネタバレありでの感想を記載しています。
ここから先は【ネタバレあり】の感想です。
【注意・ネタバレあり】「塗仏の宴 宴の支度」感想・あらすじ
「塗仏の宴 宴の支度」のネタバレあり感想・あらすじです。
その1
「塗仏の宴 宴の支度」は、シリーズの中心人物である関口巽が殺人容疑で逮捕され、精神が崩壊していく、という衝撃的な展開となります。
しかも、その被害者とされているのが織作茜。
前作「絡新婦の理」の黒幕であった織作茜がこの「塗仏の宴 宴の支度」のラストに殺害されるというショッキングな展開で後半へ続く!がなされます。
小説を読んでいて「え!」と声が出たのは久々です。
ちなみに、わたしはこの「塗仏の宴 宴の支度」を読むのは2度目。
よって、この展開をスッキリ忘れていたので、おそらくこの場面で驚くのは2度目だと思われます。
関口巽の逮捕からの精神崩壊、そして織作茜の死亡。
ショックが強すぎて、心が付いていきません。
その2
なんと殺害されてしまった織作茜。
ただ、彼女はあまりにも探偵すぎたため、物語上、退場もやむなしかと思ってしまったのも事実です。
憑物落とし・中禅寺秋彦は違った視点から、謎の核心に迫っていた織作茜。
彼女を縛っていた家がなくなり、自由になった彼女は優れた頭脳に加え、行動力も手に入れました。
冷静かつ着実に、グイグイと事件の真相に迫っていく姿はまさに探偵。
犯人側の思考・立場も理解できる彼女は探偵としてあまりにも強い存在だったと思います。
実際、織作茜の視点から進む物語は、探偵小説のようでした。
このまま彼女が存命なら、おそらく中禅寺秋彦とは異なる方向から、真相に辿り着いていたのではないでしょうか?
彼女を亡き者にするのはもったいない!と思う一方で、探偵小説に探偵は1人で十分とも思います。
けっこう織作茜が好きだったのでショックが大きいですが、何とか受け入れ、続きを読もうと思います。