森見登美彦さんの小説「四畳半神話体系」の感想です。
どんな未来を選んでも、薔薇色のキャンパスライフはほど遠い!
そんな大学生のなかなか奇妙な生活を不思議な構成で描く青春小説です。
- 作者:森見登美彦
- 対象:中学生以上
- エログロ描写なし
- 2005年1月に太田出版より刊行
- 2008年3月に角川書店より文庫化(角川文庫)
- 2010年にテレビアニメ化
「四畳半神話体系」について
「四畳半神話体系」は森見登美彦さんの青春小説です。
青春小説、と書きましたが、この「四畳半神話体系」を青春小説と書いていいのかは微妙なところ。
少なくとも、主人公は青春を謳歌している(本人は一切そう思っていません)小説です。
まずは、そんな「四畳半神話体系」のあらすじを紹介します。
私は冴えない大学3回生。バラ色のキャンパスライフを想像していたのに、現実はほど遠い。できれば1回生に戻ってやり直したい! 4つの並行世界で繰り広げられる、おかしくもほろ苦い青春ストーリー。
―Amazon.co.jp
主人公は、下鴨幽水荘という下宿の四畳半に住んでいる『私』、大学三回生の男性です。
「四畳半神話体系」は、この『私』の語りが永遠と続く小説となります。
三回生となった『私』は大学入学からの2年間を思い返します。
その不毛であり、くだらないものの、端から見るとただただ面白い大学生活。
そんな魅力的?な大学生活が描かれた、他に類を見ない青春小説です。
2010年にテレビアニメ化
「四畳半神話体系」は2010年に、フジテレビのノイタミナという枠でテレビアニメ化されています。
わたしはこのアニメで「四畳半神話体系」を知りました。
アニメ⇒小説の順で楽しんだので、アニメの大胆すぎる構成変更ぶりに驚きました。
よくこの小説をアニメ化したなとそもそもの発端にビックリですし、よくもあそこまで面白い形にアニメ化できたなとも感動します。
小説の良さである文体と雰囲気を残しつつ、ところどころでオリジナルを織り込みつつ、世界観を損なっていない。
ある意味、理想的なアニメ化だと思いました。
小説はもちろんですが、アニメもオススメです。
※ちなみに、続編である「四畳半タイムマシンブルース」は映画化されています。
「四畳半神話体系」感想・あらすじ
「四畳半神話体系」の感想・あらすじです。
以下には「四畳半神話体系」の話の構成について触れる部分があります。
まっさらな状態で読みたい、という方はご注意ください。
独特すぎる『森見ワールド』全開
「四畳半神話体系」は森見登美彦さんにとって作家生活2作目の小説です。
わたしはデビュー作である「太陽の塔」も読んでいますが、その時点で森見登美彦さんはあの独特すぎる『森見ワールド』を展開!
2作目であるこの「四畳半神話体系」でも、その独自ワールドを思う存分、いや、さらにパワーアップさせてグングン展開しています。
森見登美彦さんの小説といえば、古風であり、堅苦しく、回りくどいのに、ずっと変なことばかり書いている、唯一無二の文体が特徴です。
初めて森見さんの小説を読んだとき、その面白すぎる文体に面食らったことを覚えています。
今までに読んだことがなかった文体でした。
その独自の文体から繰り広げられるのは、これまた独特すぎる京都の街並み。
森見さんは大学時代を京都で過ごされているので、そのときの経験が生かされていることと思います。
(このような生かし方で良いのかとも思います。)
観光地ではない、京都で暮らした人間から見た京都の姿は、リアルなのかどうかは住んだことがない私にとって判断が付きませんが、とにかく珍妙です。
小説を読んでいて、絶対こんな事ないだろう!とは思うものの、いや歴史ある町だからもしかしたら・・・、と思わせるイメージが京都にはありますよね。
「四畳半神話体系」は、そんな謎のパワーが感じられる小説です。
どの道を選んでも、結局は・・・
「四畳半神話体系」は青春小説でありつつ、SF要素もある小説でもあります。
ただ、SF小説かといわれると微妙ではありますが。
この「四畳半神話体系」は、主人公『私』の大学一回生・春の選択により分かれた4つの平行世界を1話ずつ描いた作品です。
つまり、パラレルワールド。
大学一回生の春、薔薇色の大学生活を夢見て入学した『私』の前に現れた4つの選択肢。
それは、映画サークルや謎の師匠の弟子、ソフトボールサークル、秘密結社というもの。
※ちなみに、アニメ版ではこの4つとは他の選択肢もオリジナルエピソードとして追加されていました。
この4種類のサークル・団体へ入ったことで『私』の大学生活はもちろん変わっていきます。
4つの選択肢に分かれた大学生活を、三回生になった『私』がそれぞれ振り返っていく、というのが「四畳半神話体系」の構成です。
よって、わたしたち読者は『私』が経験した大学2年間を4回読むことになります。
この平行世界の面白さは、同じスタートラインから始まり、各選択肢ですったもんだがあるものの、最終的に行き着くゴールはほぼ同じである点。
さらに、途中に挟まれる一部のエピソードが他の話とも一致していたり、他の話の世界と交錯しているのでは?という描写があったりして、この点はとてもSFらしかったです。
コインランドリーのエピソードは、作中では最後まで明かされませんが、けっこう重要なポイントだったと思います。
多分、コインランドリーは他の話の世界とつながっているのですが、そこが作品に大きな影響を与えるかと言われると、与えていなかったです。
結局のところ、どの選択肢を選んでも、ほとんど大差ないところに落ち着くのが愉快でした。
また、これは結構重要ですが、すべてハッピーエンドで幕引きとなります。
やはり、幸せな気分で終わるのは良いものですね。
奇妙で奇天烈なキャラクターたち
「四畳半神話体系」とは、奇妙な登場人物たちが、奇天烈な団体の中で、とにかく変なことをし、また変なことに巻き込まれていく小説です。
出てくる登場人物はそろいもそろって変人ばかりですが、どこか愛おしいというか、読んでいるうちに愛着が湧いてしまう人たちばかり。
主人公である『私』をはじめ、人間くさいキャラクターばかりなので、言動にいちいち笑ってしまいます。
そんなキャラクターたちの中でも、特に面白いのが、『私』に何かとまとわりつく友人の『小津』。
どの世界でも小津は『私』に絡み、いっしょに悪さをし、また助けてくれたり、迷惑をかけたりします。
まさに腐れ縁という名の運命の相手。
4話を通して読むと、小津のバイタリティーあふれる大学生活に衝撃を受けました。
あまりにもエネルギッシュで充実した大学生活を送っているのですが、その活力を向ける方向性が間違っているばかりに主人公ではないのが小津らしいです。
また『私』にとっての運命である明石さんや、師匠、城ヶ崎先輩に羽貫さんなど、濃い面々がそれぞれ自由に暴れているのが「四畳半神話体系」の良さ。
おそらく、この「四畳半神話体系」で最も好みが分かれるのが主人公『私』でしょうが、わたしにとっては好きでも嫌いでもない、ああ理屈っぽい変なやつだな、と思うばかりです。
小説内で、主人公『私』は自身が語る通り、ほとんど何も成し遂げず、成長しているわけでもありません。
実にくだらない、実に不毛な大学2年間ですが、読んでいるとそれがどこまでも面白いのです。
小説という名の娯楽をどこまでも楽しめる、そんな作品だと思いました。
ここまで「四畳半神話体系」の感想でした。