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「鉄鼠の檻」京極夏彦 真冬の箱根が舞台!雪積もる山奥の古刹で起こる僧侶連続殺人事件の真実とは?百鬼夜行シリーズ4作目

京極夏彦さんのミステリー小説「鉄鼠の檻(てっそのおり)」の感想です。

2月の雪深い箱根の山奥で起こる『僧侶連続殺人事件』。

あまりにも強大な憑物を、中禅寺秋彦は落とせるのか?

仏教、禅宗について深く掘り下げた、唯一無二のミステリーです。

「鉄鼠の檻」基本情報
  • 作者:京極夏彦
  • 対象:中学生以上~
    • グロテスクな描写:ややあり
    • 性的な描写:ややあり
  • 1996年1月に講談社ノベルズより刊行
    • 2001年9月に文庫化
  • 百鬼夜行シリーズ4作目
  • 第9回山本周五郎賞 候補作

「鉄鼠の檻」について

「鉄鼠の檻」は京極夏彦さんのミステリー小説です。

探偵役である憑物落とし・中禅寺秋彦を主人公とする『百鬼夜行シリーズ』の4作目となります。

今回の舞台は、真冬の箱根。

雪が降り積もる中、発生する僧侶連続殺人事件の謎に、京極堂が挑みます。

まずは、そんな「鉄鼠の檻」のあらすじを掲載します。

シリーズ最大の難事件!
京極堂、結界に囚わる。

忽然と出現した修行僧の屍、山中駆ける振袖の童女、埋没した「経蔵」……。箱根に起きる奇怪な事象に魅入られた者――骨董屋・今川、老医師・久遠寺(くおんじ)、作家・関口らの眼前で仏弟子たちが次々と無惨に殺されていく。謎の巨刹(きょさつ)=明慧寺(みょうけいじ)に封じ込められた動機と妄執に、さしもの京極堂が苦闘する、シリーズ第4弾!

鉄鼠の檻―Amazon.co.jp

1作目「姑獲鳥の夏」や2作目「魍魎の匣」、そして3作目「狂骨の夢」まで、舞台となっている1952年の半年間、連続殺人事件に巻き込まれてきた中禅寺や関口たち。

4作目となる「鉄鼠の檻」は年が明けて1953年になりました。

中禅寺の本来の仕事である古本屋の業務を(一応)手伝うため、箱根旅行に同行した関口夫妻。

同時期に、たまたま中禅寺の妹・敦子やカストリ雑誌の編集者・鳥口たちも取材のために箱根へ行っていました。

中禅寺の仕事は謎の蔵に保管されていた古書の鑑定。

敦子や鳥口は、箱根の山奥にある寺院・明慧寺の取材のため、そのふもとにある仙石楼を訪れました。

その仙石楼の庭にあり得ない状況で僧侶の死体が発見されたことで、事件が始まります。

シリーズ1作目「姑獲鳥の夏」は必読!

「鉄鼠の檻」は百鬼夜行シリーズ4作目。

この「鉄鼠の檻」を存分に楽しみたいなら、シーリズ前3作は読んでおくべきでしょう。

また、ストーリーが直接つながっているため、シリーズ1作目の「姑獲鳥の夏」は必ず事前に読んでおくことをオススメします。

「姑獲鳥の夏」に登場したある人物の再登場。

そして「姑獲鳥の夏」では登場しなかった重要人物の登場があります。

そういった意味では、この「鉄鼠の檻」は「鉄鼠の檻」そのものでも完結していますが、1作目「姑獲鳥の夏」の完結編でもあるかもしれません。

【ネタバレなし】「鉄鼠の檻」感想・あらすじ

ネタバレ無しの「鉄鼠の檻」の感想・あらすじです。

関口と、なぜか鳥口の語り

「鉄鼠の檻」はシリーズでおおむね語りを担当してきた小説家・関口と、シリーズ1作目から登場しているものの前3作ではけっこう散々な扱われ方だった編集者・鳥口、そして初登場の古物商・今川という3人の視点から描かれます。

一部、違う人物の視点からも描かれますが、おおむねこの3人です。

語りは三者三様で、関口は相変わらず鬱々としていますし、鳥口は性格よろしく明るい感じですが意外としっかりしていて、今川は真面目で博識。

別の視点から見ていくことで、同じ事件を全く違った観点から見ることができ、物語の理解が深まります。

多角的な視点は大事ですね。

また、この「鉄鼠の檻」では、新たな警察キャラとして、神奈川県警・警部の山下と刑事の益田、シリーズ常連の木場に替わる武闘派・菅原という3人も登場。

こちらも三者三様で事件を引っかき回します。

1996年刊行というタイミング

「鉄鼠の檻」が刊行されたのは1996年1月。

この前年である1995年3月には、オウム真理教による地下鉄サリン事件が発生。

おそらく、日本において『宗教』というものが、もっとも注目を集めていたタイミングだっただろうと思います。

わたしは生まれる前のことなので、当時の空気感や世論などは特集番組や再現ドラマなどでしか分かりません。

けれども、宗教というものに対する風当たりが強くなっているタイミングで、この「鉄鼠の檻」のような宗教に特化したストーリーを書き上げたのは、相当な覚悟だったのだろうと素人のわたしでも分かります。

宗教施設(お寺)内で宗教者(僧侶)たちが次々と殺害されていく。

そんなセンセーショナルな小説ですが、内容的には不謹慎さがほぼないのが不思議です。

むしろ、宗教について誰よりも理解しているからこそ、この内容になっているのだと思わされました。

言っていることは分かるけど・・・

「鉄鼠の檻」のテーマは『禅』。

仏教のうち、禅宗をとにかく掘り下げています。

話は相変わらず面白く、ビックリするくらいスラスラ読み進められます。

しかし、禅について、言っていること、説明されていることは分かるものの、その本質は全然理解できません。

理解しようとがんばって読み進めましたが、禅の考え方などは根本的に理解できないものばかり。

とにかく面白く読めるのですが、禅についてはさっぱり共感も理解もできない、という不思議な感想を持ってしまいました。

一応、わたしの家も仏教のうち、禅宗の曹洞宗が菩提寺なので身近な存在ではあります。

それでも禅宗の考え方は異次元でした。

そもそも、宗教の考え方とはこんなものなのだろうと思うのですが、それでもほぼ無宗教のわたしにとっては理解が遠く及ばない世界ではあります。

けれど、理解ができないからと言ってつまらないことはけしてありません。

理解はできませんが、ずっと面白いのが、やはりこの百鬼夜行シリーズの魅力と言えるでしょう。

雪に包まれた寺というロケーションは最高

「鉄鼠の檻」の舞台は2月の箱根。

連続殺人事件が主に起こるのは禅宗の古刹(古いお寺)。

真っ白の雪と真っ赤な血というのは、鮮やかなコントラストで見栄えがしますね。

また、山奥の古刹というのは、閉ざされた空間感が強いためまさに殺人事件の舞台に相応しい!と思ってしまいましたが、別にクローズドサークルではなかったので、閉ざされてはいません。

ただ、警察や事件の関係者たちは、ふもとの仙石楼と明慧寺を何度も往復していて、読んでいるだけなのに疲れました。

雪が積もった、2月の箱根を何度も登り、そして下山する。

これまでの事件と比べて、事件の期間は1週間あまりと短めです。

そんな短期間に、事件とは関係なくとんでもない重労働をし続けている登場人物たちに同情してしまいました。


文庫版で1300ページ超え。

持ち歩きするには正気の沙汰ではない厚さ・重さが魅力の1つでもある「鉄鼠の檻」。

ぜひ、百鬼夜行シリーズを3作目まで読んだ暁には、この「鉄鼠の檻」も読んでみましょう!

この下には「鉄鼠の檻」ネタバレありの感想があります。

未読の方はご注意ください。

注意【ネタバレあり】「鉄鼠の檻」感想・あらすじ

「鉄鼠の檻」のネタバレありの感想です。

こんな動機は思いつかない

この「鉄鼠の檻」が難解だったのは、殺人の実行犯と、死体を隠蔽(本人にそのつもりはない)した人物が別だったこととなります。

殺人を実行した仁秀老人は、悟った僧侶を悟った順に殺害していっただけ。

そして、死体を隠蔽した哲童は、仁秀老人が残した遺体を禅問答と思い、自らの解釈に基づき遺体を移動させたり、変化を加えたりしただけでした。

一般的に殺人の動機となり得る、憎しみや恨み、嫉妬とは対極の位置にある理由です。

普通の人生を歩んでいれば、こんな動機で人は殺しません。

けれども「鉄鼠の檻」では、その動機に至るべき可能性を、動機の説明までに十分に語ってきているため、すんなり受け入れられてしまいます。

1000ページを超えるストーリー全てが、犯行動機のための伏線とも言える構成。

もはや京極夏彦先生が一番恐いですね。

まさかの再登場

「鉄鼠の檻」で一番のサプライズとも言えるのが、久遠寺医院の院長・久遠寺嘉親の再登場でしょう。

1作目「姑獲鳥の夏」の舞台だった久遠寺医院は、その事件により廃院。

妻と娘2人を亡くした久遠寺は、古なじみであった仙石楼に身を寄せていました。

「姑獲鳥の夏」の事件は、久遠寺にも責任がないとは言えませんが、思い返すとさすがにかわいそうです。

そこに敦子や鳥口などが登場、さらに死体も現れ、またもや事件に巻き込まれてしまいます。

ただ、この久遠寺さんのスゴいところは、死体を発見し、事件に巻き込まれたことを悟るやいなや、探偵・榎木津を箱根に召喚してしまうこと。

結果的に榎木津は大活躍しますが、例によって事件をかき乱します。

しかし、この「鉄鼠の檻」における榎木津は、いつものように奔放で場を乱すばっかりではなく、繊細で人を気遣える優しさも垣間見えるのが特徴です。

また「鉄鼠の檻」では、再登場した久遠寺と因縁深い菅野という医師も登場。

かつて久遠寺医院に勤め、あることをきっかけに突然、姿を消した菅野。

その菅野の失踪後の足取りと、現在、そして最期が描かれます。

「姑獲鳥の夏」の事件の根本原因を作り出した人物が、まさかここで登場するとは。

「鉄鼠の檻」を読むのは2度目なのですが、このくだりを全て忘れていたので、素直に驚きました。

「鉄鼠の檻」を読んだ後にオススメの小説

仏教のうち禅宗についてとことん掘り下げ、ミステリーに仕立てた「鉄鼠の檻」。

この「鉄鼠の檻」を読み返し、思い出したのが、ここ最近読んだ古泉迦十さんの「火蛾」でした。

「火蛾」はイスラム教をテーマとしたミステリーとなっていて、「鉄鼠の檻」と根本的に似ています。

こちらはシリーズではなく、1冊で完結しているため、興味がある方はこちらも合わせてオススメします。

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