アンディ・ウィアーさんのSF小説「火星の人」の感想です。
火星での活動中のトラブルで、1人火星に取り残されてしまった主人公の決死のサバイバルを描いた作品です。
とにかくハードですが、主人公のポジティブさに心惹かれること間違いなし!
本格SFなのにとても読みやすいのも魅力の小説でした。
- 作者:アンディ・ウィアー(Andy Weir)
- 訳者:小野田和子
- 2011年にアメリカで自費出版により刊行
- 2014年にクラウン・パブリッシングより刊行
- 日本でも2014年にハヤカワ文庫SFとして刊行
- 2015年には『オデッセイ』としてハリウッド映画化
- 2016年ジョン・W・キャンベル新人賞 受賞
- 第46回星雲賞海外長編部門 受賞
「火星の人」について
「火星の人」はアメリカの小説家アンディ・ウィアーさんのSF小説です。
アンディ・ウィアーさんにとってデビュー作にあたります。
けれども、正直デビュー作とは思えないほど面白かったです。
そんな「火星の人」のあらすじを掲載します。
有人火星探査が開始されて3度目のミッションは、猛烈な砂嵐によりわずか6日目にして中止を余儀なくされた。だが、不運はそれだけで終わらない。火星を離脱する寸前、折れたアンテナがクルーのマーク・ワトニーを直撃、彼は砂嵐のなかへと姿を消した。ところが――。奇跡的にマークは生きていた!? 不毛の赤い惑星に一人残された彼は限られた物資、自らの知識を駆使して生き延びていく。宇宙開発新時代の傑作ハードSF。
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この「火星の人」は、運悪く火星に1人取り残された主人公が火星から脱出するまでのサバイバルを描いたSF小説です。
読む前は、火星人との戦いやハイテクノロジーでのトラブルなどSFチックな展開を想像していました。
しかし、火星で主人公マークが行うのはジャガイモ作りや悪路でのドライブなど、なかなか親しみやすいことばかり。
と書くと微笑ましい感じですが、実際は生き残るための必死のサバイバルなので内容は非常にスリリング。
最後までハラハラドキドキが止まりませんでした。
また、火星が舞台の本格的なSFではありますがとても読みやすいのがこの「火星の人」の特長です。
SF小説の経験が少ないわたしですらスラスラ読めたので、万人受けするSF小説だと思います。
専門用語が多いので最初は戸惑いましたが、読み進めていくうちに何となく慣れます。
また、忘れやすい専門用語や火星の基礎知識を↓にまとめました。
良かったらご活用ください。
作者アンディ・ウィアーとは
この「火星の人」の作者アンディ・ウィアーさんの経歴を掲載します↓。
アンディ・ウィアーは、カリフォルニアに素粒子物理学者でエンジニアの息子として生まれた。15歳で国の研究所に雇われ、現在までプログラマーとして働いている。科学、とくに宇宙開発に強い関心を寄せ、作家志望だったウィアーが初めて発表した小説が本書『火星の人』である。『火星の人』は、まず自らのウェブサイトに公開され、その後キンドル版を発売。発売後3カ月で、35000ダウンロードを記録した。その後、2014年に紙書籍版を発売された。20世紀フォックスによる映画化が決定している。
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『15歳で国の研究所に雇われ』という部分に衝撃が走るかと思います。
ちなみに、この『国の研究所』はサンディア国立研究所という、アメリカのエネルギー省が管轄する、先進的な研究が行われている研究所です。
サンディア国立研究所では
- 核兵器の開発・管理
- 軍事科学
- 安全保障の全分野
などが研究対象となっています。
このサンディア国立研究所において、現在もプログラマーとして働いています。
そんな中、2009年に自身のWebサイトで「火星の人」を発表。
最初は無料で公開していましたが、読者の後押しを受け、2014年に正式に小説として刊行されました。
当初は自費出版でしたが、あまりにも人気が出たため後に出版社からも刊行されています。
もうなんか、アンディ・ウィアーさんの経歴だけで映画みたいですね・・・。
2015年にはハリウッドで映画化
この「火星の人」は2015年にハリウッドで『オデッセイ』と言うタイトルで映画化されました。
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日本でも2016年に公開、けっこう話題になっていた記憶があります。
その当時はそこまで興味がなかったのですが、小説を読んだ後だと俄然興味が湧きました。
また、監督があの「エイリアン」のリドリー・スコット監督というのも注目ポイント。
わたしは「エイリアン」が大好きなので、とても興味があります!
小説だけでも十分に面白かったですが、やはり宇宙系のSFはハリウッドのダイナミックな映像で楽しむに限ります。
個人的な感想ですが、ハリウッドがとても好きそうなストーリー&舞台なので出来は相当期待できます。
「火星の人」の感想
「火星の人」の個人的な感想です(ネタバレなし)。
主人公マークのポジティブさ
「火星の人」の魅力は、何と言っても主人公マーク・ワトニーのポジティブさ。
火星に1人取り残されるという絶望的な状況でも、まったく諦めず、ひたすら生き残る方法を考え続ける強さが彼の最大の魅力でした。
小説はほとんどがマークが書き残したログによって構成されています。
そのログの面白いながらも綿密な状況説明によって物語の世界観にグッと引き込まれました。
息つく間もないストーリー展開
「火星の人」は
- <起>火星に取り残される
- <承>生き残るための思索・行動
- <転>生存を脅かすトラブル
- <結>火星からの脱出
と起承転結がしっかりした小説です。
ただし、実際は起承転承転承転・・・結というような感じでした。
生き残りをかけたアイデアが上手くいったと思ったら、とんでもないトラブルが発生する、という展開の繰り返しです。
特に序盤はけっこう順調に物事が進み続けるので、半ばで重大トラブルが起きたのは衝撃でした。
飽きずに500ページ以上読み進められて楽しかったですが、心臓に悪かったです・・・。
世界が一丸となる人間ドラマ
「火星の人」の主人公マークは最初は自力で、途中からはNASAなど地球の人たちなどと協力しながら生存のための道を探り続けます。
マークは火星で孤軍奮闘し続けますが、その姿を地球の人たちはずっと見守り、サポートし続けました。
着々と火星脱出の道筋を作っていく中では普通だったらあり得ないような協力もありました。
そんな人間と人間の協力・強調もクローズアップされているのが「火星の人」の特長でした。
少なくとも壮絶な内ゲバなどはなく、誰もがマークを地球に返すために最大限のことをする。
そんな人間ドラマとしても読み応えがある作品でした。
「火星の人」用語・火星Q&A
「火星の人」に登場する専門用語と火星の基礎知識に関するQ&Aをまとめてみました。
「火星の人」用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
MAV | 火星上昇機。Mars Ascent Vehicleの略。 |
MDV | 火星降下機。Mars Descent Vehicleの略。 |
EVA | 船外活動。Extravehicular activityの略。 |
RTG | 原子力電池・放射性同位体熱電気転換器。 |
パスファインダー | NASAの無人火星探査機。 |
ローバー | 探査車。 |
ソジャーナ | パスファインダーにあったローバーの愛称。 |
NASA | アメリカ航空宇宙局。 National Aeronautics and Space Administrationの略。 |
JPL | ジェット推進研究所。Jet Propulsion Laboratoryの略。 NASAの無人探査機における研究開発・運用に携わる研究所。 |
エアロック | 宇宙船と船外を出入りするために使われる装備。 |
ちなみに、マークが通信手段を得るために訪れたパスファインダーは実在する火星無人探査機です。
小説は2035年と今から14年後が舞台。
意外とすぐの近未来でした。
火星Q&A
火星に関するわたしの疑問を簡単にまとめていきます。
火星と地球の距離は?
火星と地球との距離は時期によって異なりますが、おおよそ5700万~1億200万kmの間とのこと。
2018年に最接近した際は5759万kmの距離でした。
仮に6000万kmとすると、時速300kmで走行する新幹線では20万時間かかります。
日にちでは約8333日、年では22年以上かかる距離です。
ちなみに、時速800kmの飛行機なら7万5000時間、3125日、8年半ほどに短縮されますが、それでも長い旅です。
そう考えると、1年かからずに火星に行ける「火星の人」の宇宙船ヘルメスはスゴいですね・・・。
※参考 国立天文台 地球が火星に再接近
火星の大きさは?
火星の大きさは地球の半分ほど。
太陽系の惑星の中では2番目に小さいサイズとなります。
火星の質量は?
火星の質量は地球のおよそ10分の1。だいぶ軽いようです。
火星の表面積は?
火星の表面積は地球のおよそ4分の1です。
火星の重力は?
火星の重力は地球の40%ほどです。
火星の大気は?
火星の大気は地球の0.75%ほどと超薄め。
しかし、大気の厚みは地球の倍近くである11kmもあります。
大気が薄いため熱がキープできず、地球よりも気温は低くなってしまいます。
火星の大気は『二酸化炭素・95%、窒素・3%、アルゴン・1.6%、その他酸素・水蒸気など・微量』という組成で構成されています。
まず人間は生きられない二酸化炭素濃度ですね・・・。
火星の時間は?
火星の時間は小説冒頭でも記されていましたが『24時間39分35.244秒』です。
地球よりも40分ほど1日が長いのですね。
地球とは異なり1日を『1ソル(sol)』と言い表します。
ここまで「火星の人」のあらすじ・感想や読み進めるための知識をまとめてみました。
専門用語は難しかったものの、それが気にならなくなるくらい面白い小説でした。
宇宙関連の明るい話題が多い中、火星サバイバルを小説で楽しんでみてはいかがでしょうか?