桜木紫乃さんの小説「ブルース」の感想です。
『影山博人』という1人の男性の人生が8人の女性の視点から描かれたノワール小説です。
暗い影を帯びた男に魅了され続ける女性たち。
そんな女を虜にし続ける男が行き着いた先とは?
- 作者:桜木紫乃
- 対象:中学生~
- 性的な描写あり
- グロテスクな描写あり
- 2014年12月に文藝春秋より刊行
- 2017年11月に文庫化
「ブルース」あらすじ・感想
「ブルース」は桜木紫乃さんの小説です。
『影山博人(かげやま・ひろと)』という男性を、彼と関わりを持った女性の視点から描き出す連作短編となります。
舞台は北海道。主に釧路や札幌で物語は展開していきます。
ジャンルは、人間ドラマや恋愛要素が入ったノワール小説でしょうか。
暗黒小説とも呼ばれ、人間の悪意や差別、暴力などを描いた小説ジャンルのこと。舞台が闇社会であったり、主人公が犯罪者であったりする作品が多い。
↑の説明を読むと少し怖い感じがしますが、この「ブルース」は女性の視点で描かれているので残虐な描写はひかえめです。
そんな「ブルース」の詳しいあらすじを掲載します。
霧たちこめる釧路で生まれ、貧しく苛烈な少年時代を経て、男は、自らの過剰な指を切り落として、夜の支配者へとのし上がる──。
男の名は、影山博人。
最初の物語は、没落した社長夫人が、かつて焦がれた6本指の少年の訃報を新聞に見つけるところから始まる。
同衾した女をみな翻弄し、不意に姿を消してしまう正体不明の男であり、故郷に戻った後、暴力で容赦なく人を支配する黒い権力者。
不思議な魅力あふれる影山の、15歳、19歳、27歳、32歳、そして、40手前から52歳までの8つの時期を、時々に出会った女による語りで構成。――はたして、影山博人は、外道を生きる孤独な男なのか? それとも、女たちの「夢」の男なのか?
デビュー10周年の著者による、新境地にして、釧路ノワールの傑作!
「謎」の男をめぐる、八人の女たちの物語。──俺には、白と黒しか要らないんだ
ブルース―Amazon.co.jp
小説は『影山博人』の人生が時系列で描かれていきます。
ただ、その時の詳しい年齢は記されていなかったため、上のあらすじを読んで初めて詳細な年齢を知りました。
あらすじを参考に『影山博人』の短編ごとの年齢を表にまとめてみます。
恋人形 | 15歳 |
楽園 | 19歳 |
鍵 | 19歳・27歳 |
ブルース | 34歳 |
カメレオン | 38歳ごろ(昭和60年) |
影のない街 | 40代前半 |
ストレンジャー | 40代後半 |
いきどまりのMoon | 52歳 |
自力でまとめてみましたが、おそらく合っているのではと思います。
38歳ごろに昭和60年・1985年なので、最後の『いきどまりのMoon』は1999年頃ですね。
謎多き男の人生
影山博人の人生は多くの謎に包まれたまま幕を閉じます。
影山博人本人の語りがないため、彼が何を思い何を感じているのかは女性の視点を通してしか感じられません。
また、ほとんどの女性は人生をずっと共にしているわけではなく、影山博人の人生の通過点にしか過ぎません。
そのため、どのように影山博人が成り上がっていったのかは不明。
影山博人は登場するたびに成り上がり、富と権力を手に入れていきます。
そのサクセスストーリーをキレイに省いたのは、これが仕事がテーマの小説ではない、という桜木紫乃さんの決意表明にも感じました。
なぜ危ないものに惹かれてしまうのか
「ブルース」の最大の魅力は、当然ですが主人公である影山博人そのものです。
過酷な少年時代から、明らかに悪事に手を染めつつ成り上がっていった男。
冷酷でありながら勇気と優しさも持ち合わせ、さらに美男子。
そして体を重ねた女性を残らず虜にしてしまう上手さも兼ね備えている。
暗い過去すら自らの魅力としてしまい、どんなことをしてでものし上がってやろうという野心を持ち合わせた男。
正直、カッコよすぎるのではないか、と思ってしまいます。
そんな影山博人が人生を共にすることを選んだ女性や、その女性の娘に対する深い愛情が、彼の本質を表していると感じました。
タイトル「ブルース」の意味とは?
この小説のタイトルである「ブルース」は音楽のジャンルの1つです。
アメリカ南部でアフリカ系アメリカ人が歌っていたのが始まりとされ、ギターを伴奏に用いた歌が主役の曲たちになります。
ジャズとの違いは楽器の演奏が主か、歌が主かとのことです。
ブルースという名前は、悲しみ・孤独を表現する『ブルー(Blue)』が由来。
しかし、ブルースは喜びやセクシャルな内容、差別に対する反発などさまざまなテーマで歌われる、感情豊かな音楽ジャンルです。
※参考 ブルース―Wikipedia
このタイトル「ブルース」が付けられた意味が分かるのは小説の最後。
ラストシーンとともに、影山博人の人生がブルースの曲そのもののようだったのかと思いました。
1人の人間の人生を複数の他人の視点から描く、という小説はそこそこあります。
しかし、この「ブルース」の影山博人の人生はあまりにも魅力的です。
ラストシーンがとても美しく、とても切ない、そんな小説「ブルース」の感想でした。