ジョージ・オーウェルの名作ディストピアSF小説「1984」の感想です。
常に監視され、不信感を表に出したら存在そのものを消される、まさにディストピアを描いたSF小説の傑作ともいえる「1984」。
狂気的な社会に翻弄されつつ、抗おうとする主人公の運命とは?
- 作者:ジョージ・オーウェル(George Orwell)
- 対象:中学生以上
- 性的な描写あり
- グロテスクな描写あり
- 1949年にイギリスで初版刊行
- 日本では1950年に初版が刊行
- 1998年「英語で書かれた20世紀の小説ベスト100」選出
- 2002年「史上最高の文学100」選出
ここでは、2021年3月に角川文庫より刊行された田内志文・訳の「1984」を紹介します。
「1984」について
「1984」はイギリスの小説家ジョージ・オーウェルのSF小説です。
読んだことはなくても、有名だから名前は知っている!という方も多いであろう傑作「1984」をついに読みました。
何となくあらすじや設定は知っていたものの、想像を超えるディストピアぶりに慄きます。
それでは、まずはそんな小説「1984」のあらすじを掲載します。
1984年、世界は〈オセアニア〉〈ユーラシア〉〈イースタシア〉という3つの国に分割統治されていた。オセアニアは、ビッグ・ブラザー率いる一党独裁制。市中に「ビッグ・ブラザーはあなたを見ている」と書かれたポスターが張られ、国民はテレスクリーンと呼ばれる装置で24時間監視されていた。党員のウィンストン・スミスは、この絶対的統治に疑念を抱き、体制の転覆をもくろむ〈ブラザー同盟〉に興味を持ちはじめていた。一方、美しい党員ジュリアと親密になり、隠れ家でひそかに逢瀬を重ねるようになる。つかの間、自由と生きる喜びを噛みしめるふたり。しかし、そこには、冷酷で絶望的な罠がしかけられていたのだった――。
全体主義が支配する近未来社会の恐怖を描いた本作品が、1949年に発表されるや、当時の東西冷戦が進む世界情勢を反映し、西側諸国で爆発的な支持を得た。1998年「英語で書かれた20世紀の小説ベスト100」に、2002年には「史上最高の文学100」に選出され、その後も、思想・芸術など数多くの分野で多大な影響を与えつづけている。
1984―Amazon.co.jp
「1984」は、架空の1984年を描いたSF小説です。
1984年は現在(2024年)から40年も前の時代ですが、この「1984」が書かれたのは1947~1948年にかけて。
当時としては30年以上も未来の話でした。
といっても、その当時としても「1984」で描かれている未来はSFであるという認識だったと思います。
「1984」で描かれる1984年は、世界がオセアニア・ユーラシア・タンザニアの3つのエリアに分かれ、常にどこかがどこかと戦争状態にあるという情勢。
物語の主人公であるウィンストン・スミスはオセアニアのロンドンで役人として働いている男性です。
ウィンストンは忠実なオセアニアの国民として生きつつ、しかし内心はオセアニアの体制を批判している反体制主義者でもありました。
町中はたとえ個人の家であっても監視・盗聴されていて、国家に対してわずかでも批判的な言動を取ろうものなら、すぐに『蒸発』。
たとえ批判的な言動がなくても存在そのものを消させることも日常茶飯事でした。
そんな閉鎖的な監視社会に生きるウィンストンはある日、同じく役人として働くジュリアという女性から手紙をもらいます。
そのことにより、ウィンストンの運命は大きく動き始めます。
「1984」の世界は3つのエリアに分かれています。
- オセアニア:主に英語圏で構成されたエリア。「1984」の主人公ウィンストンはオセアニアの国民。
- ユーラシア:旧ソ連とヨーロッパにかけて広がるエリア。
- イースタシア:東アジアを中心としたエリア。日本はここに含まれる。
3つはそれぞれが独裁社会となり、いつもどこかと戦争をしている状態です。
また、小説では言及されていませんが、南アジアや北アフリカの一部地域は紛争地帯・非居住地域となっているとのことです。
※詳細は「1984(小説)―Wikipedia」を参考にしました。
作者ジョージ・オーウェルとは?
「1984」の作者ジョージ・オーウェルは植民地時代のインドに生まれたイギリスの小説家です。
本名はエリック・アーサー・ブレア(Eric Arthur Blair)。
民主社会主義者であり、反共産主義、反全体主義思想の持ち主で、その思想は作品に顕れています。
今回ご紹介する「1984」はオーウェルにとって遺作となった作品です。
「1984」の執筆を開始した時点で結核を患っていたオーウェルは途中、療養で執筆の中断を余儀なくされながらも、足かけ2年ほどを経て完成させています。
そして「1984」の刊行翌年である1950年に46才の若さで亡くなりました。
「1984」感想・あらすじ
「1984」の感想・あらすじです。
最悪すぎるディストピア社会
「1984」で描かれる社会はディストピアであることは読む前から知っていました。
しかし、読んでみると想像していたよりも遥かに地獄でした。
四六時中、家の部屋の中まで監視されている。
食べ物を始め物資は配給制。
娯楽はほぼなし。あえて言うなら他人を密告することが迫害。
国家やビッグ・ブラザー(指導者)への忠誠心を持ち続ける。
少しでも批判的なことをしたら存在から抹消。
普通にキツすぎる社会です。
けれど、現代の感覚からすると、そこまで突拍子もない設定ではないとも感じてしまいました。
誰もがスマホを持ち、すぐにカメラを起動し、どんなことでも映し出せるのが今の社会です。
ある意味、現代は「1984」のような監視社会になりかけているので、あまり異常性を感じなかった自分に軽く異常性を感じています。
また、国家に対して批判的な言動をするとその人物は存在から消される、というのはSFなどでよくある設定ではあるものの、やはり怖かったです。
みんな気付いているけど、口には出さないで静かに受け入れるしかない。
その人一人が消えていくのが当たり前となった社会はシンプルに恐怖だと感じました。
一番驚いたのは『ヘイト(憎悪)』の時間です。
裏切り者として国家から国民の敵として憎むよう命令されているエマニュエル・ゴールドスタインの映像を照れスクリーンに流し、2分間ひたすらヘイトの言葉を浴びせ続けるというもの。
斬新ですが、分かりやすい洗脳の一種に感じました。
形は違いますが、現代は「1984」が描いた世界に少しずつ近づいているのでは?と思わざるを得ないシーンだったと思います。
あくまでも「主人公ウィンストンから見た社会」について
「1984」は主人公ウィンストン・スミスの視点から進んでいくストーリーです。
ウィンストンの視点からしか物語は見えず、読者もウィンストンの目を通して「1984」のディストピア社会を見ていくことになります。
ウィンストンの知識がそもそも乏しいため、3つに分かれた世界のことはそこまで説明されません。
ただ世界の詳しい情報がなくても、別に問題なくストーリーは進みます。
そんな読者の代わりの物語を歩んでいくウィンストンですが、39才男性で静脈瘤性潰瘍を患う、一見では人畜無害ですが内心は国家に批判的である反体制主義者というキャラクターです。
仕事は『真実省』というお役所であらゆる文書のねつ造作業をするというもの。
国家にとって少しでも都合が悪いことになると、すでに発表されている文書であっても内容を改ざん・ねつ造する必要があります。
シンプルにヤバい仕事ですが、お役所仕事です。
ウィンストンは真面目な役人ですが、その仕事内容に何とも思わないわけではなく、むしろ仕事を続けることで国家への不信感を高め続けていました。
その後ウィンストンは禁止されている日記を付けてみたり、年下の女性との逢瀬を重ねたり、ディストピア社会の中でも楽しみを見出していきます。
けれども、そんな楽しみも唐突に終わりを告げ、真の地獄とも言える『愛情省』による尋問と拷問が始まります。
この尋問と拷問の日々はどこまでウィンストンが正気で、どこからウィンストンの狂気や妄想が入り混じっていくのかがあやふやなところがポイント。
最初の頃は明瞭だったウィンストンの視点が、どんどんフワフワしていき、最終的には・・・。
という描写は読み終わってゾッとしました。
SFを少しかじったことがある程度、というわたしでもなじみがある設定が出てくるのが「1984」の特徴です。
後の世に発表された作品たちに多大な影響を与え続けている名作であることを実感しました。
ディストピア小説の決定版とも言える「1984」。
角川文庫版は令和になってから刊行された新訳なのでとても読みやすいのが魅力です。
軽く読める小説ではありませんが、ちょっと気になっているという方には是非ともオススメしたい一冊でした。