スティーブン・キングの中編集「ゴールデンボーイ」の感想です。
中編「刑務所のリタ・ヘイワース」と「ゴールデンボーイ」が収録された大満足の一冊でした。
無実の罪でショーシャンク刑務所に収監された男性の運営を描く「刑務所のリタ・ヘイワース」。
そして、少年と老人の狂気的な交流を描く「ゴールデンボーイ」。
衝撃の展開に慄く、傑作小説でした。
- 作者:スティーブン・キング(Stephen King)
- 訳者:浅倉久志
- 対象:中学生以上
- 性的な描写ややあり
- グロテスクな描写あり
- 1982年にアメリカで初版が刊行
- 1988年3月に日本で文庫化
- 「恐怖の四季」シリーズの2巻目(春夏編)
- 収録中編はいずれもハリウッドで映画化
「ゴールデンボーイ」について
「ゴールデンボーイ」はアメリカの小説家スティーブン・キングの小説です。
一冊に『刑務所のリタ・ヘイワース』と表題作である『ゴールデンボーイ』という2つの中編を収録。
どちらも読み応えがあり、抜群に面白かったです。
まずは、そんな「ゴールデンボーイ」のあらすじを掲載します。
明るい性格、成績良好。何不自由なく暮らす13歳の少年トッドは夏休みのある日、誰も知らぬ秘密を胸に近所に住む老人の家へと足を踏み入れる。老人は、ナチの戦犯だったのでは? 少年と老人の奇怪な交流を描いた「ゴールデンボーイ」、無実を主張しながらも刑務所入りした男の運命が胸を打つ、名画「ショーシャンクの空に」原作「刑務所のリタ・ヘイワース」の傑作中篇2篇を収録。
ゴールデンボーイ―Amazon.co.jp
この「ゴールデンボーイ」はスティーブン・キングによる「恐怖の四季」という中編集の後編にあたる小説です。
前編である「恐怖の四季 秋冬編」には映画がとても有名な『スタンド・バイ・ミー』と、『マンハッタンの奇譚クラブ』の2編が収録されています。
「恐怖の四季」というタイトルの中編集ですが、収録された短編はいずれもホラーではありません。
ただ本作に収録された『ゴールデンボーイ』はある意味、とても怖い話ではありました。
長編の後に書き上げた中編たち
「恐怖の四季」シリーズに収録された中編たちは、いずれも長編を書き上げた余力で執筆された、という特徴があります。
その中でも『ゴールデンボーイ』はあの「シャイニング」を書き終えた後、一気に2週間で書き上げたとのこと!
どういう体力と精神力をしていたら「シャイニング」を書いた後に『ゴールデンボーイ』が書けてしまうのでしょう?
ただ2作とも主人公が妄執に取り憑かれていく、という意味では似通った?作品と言えなくもないです。
ここからは「ゴールデンボーイ」に収録された中編2編をそれぞれ紹介していきます。
「刑務所のリタ・ヘイワース」感想・あらすじ
「刑務所のリタ・ヘイワース」は「恐怖の四季」のうち春にあたる中編です。
無実の罪でショーシャンク刑務所に収監された男性・アンディの姿を、同じく刑務所に服役しているレッドの視点から描き出す感動のヒューマンストーリーです。
1994年にアメリカ・ハリウッドで「ショーシャンクの空に」と改題され映画化。
「ショーシャンクの空に」は映画好きなら誰もが知るレベルの有名作なので、観たことがあるという方もいるのではないでしょうか?
わたしも鑑賞済みです。
映画を先に、小説を後に読んだので、結末を分かった上で読み進めることになりました。
映画「ショーシャンクの空に」は原作「刑務所のリタ・ヘイワース」におおむね忠実ですが、いくつかドラマチックなエピソードが追加されています。
原作の淡々としたストーリーも良いですが、映画のダイナミックで感動的な展開も良かったと思います。
わたしとしてはどちらも魅力的で面白かったです。
【ネタバレあり】圧巻のラストは興奮必至
わたしは映画「ショーシャンクの空に」が公開された数年後に生まれたため、有名な傑作映画であることは知っていても、内容は全く知りませんでした。
映画を観るまで、舞台が刑務所であることすら知らなかったくらいです。
そのため『最後に主人公アンディが脱獄する』という展開に衝撃を受けました。
しかもその方法があまりにも原始的であったことでも衝撃が重なります。
ただ、ストーリーは脱獄がメインではなく、あくまでレッドの視点から映し出されるアンディの生き様でした。
刑務所の中にあるあらゆる理不尽に闘い続け、自分の居場所を切り開き、そして悲願を遂げたアンディの結末には映画でも小説でも興奮が止まりませんでした。
「ゴールデンボーイ」感想・あらすじ
「ゴールデンボーイ」は「恐怖の四季」の夏にあたる作品です。
この「ゴールデンボーイ」も映画化されていますが、こちらは観たことがありませんでした。
また、できるだけあらすじも読まないようにし、何も知らないまっさらな状態で読み始めたので「ゴールデンボーイ」の展開に驚きっぱなしでした。
13才の少年の純粋な悪意
「スタンド・バイ・ミー」や「IT」など13才前後の少年が主人公の傑作を持つスティーブン・キング。
「ゴールデンボーイ」の主人公トッドも最初は13才の少年でした。
トッドは成績優秀でスポーツも得意、両親の自慢の息子。
そんな優等生が興味を持ったのは近所に住む一人暮らしの老人でした。
アーサー・デンカーと名乗る老人は、実は第二次世界大戦下のドイツでナチの強制収容所の所長であったナチの戦犯だったのです。
そのことを偶然知ったトッドはアーサー、本名クルト・ドゥサンダーを脅し、自身が収容所で行った非道を語るように迫ります。
そうして一種の共犯関係に陥った2人。
トッドはドゥサンダーが語る収容所での出来事により悪夢に悩まされるようになりつつも、どんどん引き込まれていきます。
一方でドゥサンダーも当時の経験を思い出すことで悪夢に苦しむようになります。
残虐な記憶により悪夢に取り憑かれていく2人。
けれども、2人はだんだんとドゥサンダーが語る悪夢に取り憑かれ、現実にも影響が出始めます。
「ゴールデンボーイ」は1974年の夏が舞台。
第二次世界大戦の終結から29年後。
この頃にはナチの戦犯が普通に生き残っていて、社会に紛れていたのだと、まずその事実に驚きました。
13才の少年の純粋な興味、そしてまっさらな悪意には読んでいてクラクラしました。
残虐なものに心を引かれる年頃と言えますが、深みにはまりすぎたのがトッドの過ち。
小さな罪や嘘を重ね、その罪や嘘が次第に大きく取り返しがつかなくなっていく様はある意味ホラーでした。
また、ドゥサンダーの方もトッドの狂気に感化され、狂気を取り戻していく様が怖かったです。
読み始めて1ページくらいは「スタンド・バイ・ミー」のようなほろ苦い青春ストーリーになるのかな?と思っていましたが、とんでもなかったですね。
原題の『Apt Pupil』の意味は?
「ゴールデンボーイ」は原題が『Apt Pupil』。
この『Apt Pupil』は英語では『出来の良い生徒・学生』や『優等生』という意味となります。
日本での題である「ゴールデンボーイ」は、原題とは違うものの同じような意味となりますね。
より日本人に分かりやすくするために改題したのだろうと推測されます。
ただ、原題を知ってから小説のラストを思い返すと、あまりにもキツいですね・・・。
トッドの両親の気持ちを慮ると最悪の結末です。
自慢の息子の変わり果てた姿、いや本来の姿を目の当たりにしてしまうシーンは描かれていません。
ラスト一行の、恐ろしいまでのインパクトはしばらく頭がガンガンするほどでした。
「刑務所のリタ・ヘイワース」の開放的で至高のラストとは一転、「ゴールデンボーイ」のラストの絶望感はトラウマものでした。
無実の罪で刑務所に服役した男の話と、大量虐殺をしながらも逃げ延びた男とその男を脅迫する少年の話が一冊に収録されているのは何とも皮肉です。
ただ、どちらも読み応えバツ源の傑作でした。
映画を知っているという方はもちろんですが、何も知らない状態で読み始めるのがやはり一番面白いですね。
ここまで「ゴールデンボーイ」の感想でした。