ジョーン・G・ロビンソンの児童文学「思い出のマーニー」の感想です。
心を閉ざした孤独な少女が不思議な少女との出会いを通じて変化していく様子を描いた小説です。
繊細な少女の心模様と、イギリスの田舎町ののどかな風景が美しい、ファンタジックなお話でした。
- 作者:ジョーン・G・ロビンソン
- 訳者:高見浩(新潮文庫)
- 対象:小学校高学年~
- エログロ描写なし
- 1967年にイギリスにて初版が刊行
- 2014年に新潮文庫版が刊行
- 2014年にスタジオジブリによってアニメーション映画化
「思い出のマーニー」について
「思い出のマーニー」はジョーン・G・ロビンソンによるイギリスの児童文学です。
ちなみに原題は『When Marnie Was There』。
1960年代のイギリスの田舎町を舞台に、2人の少女の美しい友情を描いています。
2014年にスタジオジブリがアニメーション映画として映像化し、一躍話題となりました。
そんな「思い出のマーニー」のあらすじを掲載します。
みんなは“内側”の人間だけれど、自分は“外側”の人間だから――心を閉ざすアンナ。親代わりのプレストン夫妻のはからいで、自然豊かなノーフォークでひと夏を過ごすことになり、不思議な少女マーニーに出会う。初めての親友を得たアンナだったが、マーニーは突然姿を消してしまい……。やがて、一冊の古いノートが、過去と未来を結び奇跡を呼び起こす。イギリス児童文学の名作。
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もともと「思い出のマーニー」は児童文学ですが、大人が読んでも存分に楽しめる小説でした。
わたしが読んだのは『新潮文庫』版の「思い出のマーニー」。
日本では、他にも
- 岩波少年文庫(上・下)
- 角川文庫
- 角川つばさ文庫
があり、新潮文庫・角川文庫・角川つばさ文庫は新訳なので、読みやすいかと思います。
作者のジョーン・G・ロビンソンについて
「思い出のマーニー」の作者は、イギリスの児童文学作家であるジョーン・ゲイル(G)・ロビンソンJoan Gale Robinsonです。
1910‐1988。イギリスの児童文学作家。イラストレーターとしてキャリアをスタートさせ、しだいに子供向けのおはなしを書くようになった。
ロビンソンは生涯を通して30冊以上の児童文学を刊行しています。
絵本の挿絵を描くイラストレーターから、児童文学作家へ転身。
有名な作品に『くまのテディ・ロビンソン』シリーズ、『すえっこ、マリー、マリー』などがあります。
スタジオジブリ版「思い出のマーニー」との違い
「思い出のマーニー」は、日本では児童文学としてより、スタジオジブリが製作したアニメ映画の方がはるかに有名でしょう。
実際、わたしもスタジオジブリが映画化したことで存在を知りました。一応、映画も観ています。
そんなスタジオジブリ作品「思い出のマーニー」と、オリジナルでは舞台の国・時代が異なります。
小説・映画の国の違い
オリジナルの小説「思い出のマーニー」の舞台はイギリス(イングランド)。
ロンドンで暮らす主人公のアンナが、夏の間だけノーフォーク州にある海辺の田舎町を訪れるというストーリーです。
一方、スタジオジブリ版「思い出のマーニー」の舞台は日本・北海道。
ストーリーはほぼそのままですが、主人公・杏奈(アンナ)は札幌市在住、訪れる田舎町は同じく北海道の釧路湿原などがモデルとなっています。
また、この作品の舞台変更により、主人公のイギリス人の少女・アンナAnnaが、日本人の少女・杏奈と変更されてもいます。
ただし、もう1人の主人公であるマーニーは小説の姿そのままで映画に登場します。
小説・映画の時代の違い
小説「思い出のマーニー」の時代は1960年代、映画「思い出のマーニー」は2010年代が舞台です。
50年も描かれる時代が異なりますが、元のストーリーのテーマはいつの時代にも通じる普遍性があるので、映画を観てもあまり違和感はありませんでした。
ただ、時代・国の変更により、マーニーの人生など細かい設定も変更されています。
「思い出のマーニー」あらすじ・感想
「思い出のマーニー」のネタバレなしあらすじ・感想です。
ローティーンの少女の繊細さ
「思い出のマーニー」の主人公・アンナとマーニーは、はっきりと年齢が書かれていないので推測ですが、11~13才くらいの少女です。
その12才前後の女の子の繊細さは、一応わたしも通った道ですが、非常に面倒なものがあります。
大人が笑い飛ばしてしまうようなことでもいちいち傷つき、悲しみ、嘆き苦しむ。
アンナは今から60年ほど前の時代を生きている少女ですが、この厄介すぎるほどの繊細さはいつの時代も変わりません。
さらに、アンナには養子である、という背景もあります。
幸せに育てられているものの、天涯孤独の身の上、というは12歳ごろの少女の心を荒ませるには十分でしょう。
物語が始まったばかりの頃のアンナは、この世の全てに悲観していて、周りの大人を心配させるようなエキセントリックじみた振る舞いを続けます。
この行動には共感できるものの、大人であるわたしにとってはやや受け入れがたいところもありました。
アンナは可哀想な女の子ではあるものの、ほとんど初対面の子に対し「太った豚」呼ばわりはさすがにヒドいです。
せめて10年前の、10代だった頃に読んでいたら、また感想は違っていたかもしれません。
マーニーとの劇的な出会い
「思い出のマーニー」は硬く心を閉ざした少女・アンナが、不思議な美少女・マーニーとの出会いと交流を通して徐々に変化していくストーリーです。
わたしが知らないだけかもしれませんが、少女が少女と出会う『ガール・ミーツ・ガール』の話は児童文学において、そこそこ珍しいのではと思います。
湿地の館に暮らしている?金髪の美少女・マーニー。
やや古めかしい服に身を包んでいるものの、その服が様になるオーラがある少女です。
見るからにお嬢様なのに天真爛漫でおてんばなマーニーに、アンナは不思議なほどに惹かれていきます。
小説内でのマーニーの描写は、楽しいシーンでも悲しいシーンでも全体的にキラキラしていて、読んでいて楽しかったです。
この日本の小説にはあまりない、海外の児童文学のキラキラ感は特別ですよね。
ただ、アンナはマーニーとの交流で楽しい日々を過ごしたものの、その日々がアンナを直接的に変えていくわけではない、という点はけっこう面白いと思いました。
また、アンナとマーニーの別れがあまりにも突然だったのもビックリです。
アンナだけじゃなく読者も置いてけぼりなので、素直にアンナに同情してしまいました。
少女の変化と真実
マーニーとの劇的な出会いと別れは嵐のように去って行きます。
ここまでで小説のほぼ半分。
マーニーは小説全体の半分しか登場していないのです。
残り半分は、マーニーが住んでいた湿地の館に新しく引っ越してきたリンゼイ一家との交流がメインで描かれます。
上は14歳、下は2歳ほどの赤ちゃんという子ども5人兄弟と夫婦の7人家族であるリンゼイ一家。
とにかく賑やかで慌ただしい一家ですが、その一家にアンナはすんなりとなじんでいきます。
そのうち、アンナは自分より少し年下の少女・プリセラと仲良くなり、同じ時間を過ごすように。
また、このプリセラが発見したマーニーの日記により、マーニーは50年以上前に湿地の館に住んでいた少女であることが発覚します。
つまり、アンナと仲良くなったマーニーは、アンナが生きる現代には存在し得ない人物だったのです。
と書くと、一気にホラー感がありますが、小説ではホラーらしい描写や流れは一切ありません。
けれども、冷静に考えると、けっこう怖いとは思います。
マーニーはアンナが作り出した幻想なのか?
はたまた、ある条件下で2つの時間が重なり合っていたというSF展開なのか?
という疑問は当然ですが、この「思い出のマーニー」はそういうことを突き詰める小説ではないので、掘り下げて考える必要はないでしょう。
しかし、このマーニーとの出会いと別れ、別れの後に知った真実により、アンナは心を開けるようになります。
一夏の不思議な体験により、閉ざしていた心を開けるようになったアンナ。
「思い出のマーニー」はそんな繊細な少女の心象風景を丁寧に描いた小説だったと思います。
さらに「思い出のマーニー」はクライマックスである驚きの真実が明かされます。
真実は驚きとともに、アンナにとってもマーニーにとっても大きな救いだと思いました。
児童向け文学ながら、大人が読んでも感動できる「思い出のマーニー」の感想でした。
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