小西マサテルさんのミステリー小説「名探偵のままでいて」の感想です。
第21回『このミステリーがすごい!』大賞を獲得した話題作、名探偵が認知症のおじいさんという異色の連作ミステリーです。
ミステリー小説としての読み応えはもちろん、孫娘と祖父の心温まる人間ドラマも味わえる小説でした。
- 作者:小西マサテル
- 対象:中学生~
- 性的な描写ややあり
- グロテスクな描写ややあり
- 2023年1月に宝島社より刊行
- 第21回『このミステリーがすごい!』大賞
「名探偵のままでいて」について
「名探偵のままでいて」は小西マサテルさんの連作ミステリー短編集です。
「名探偵のままでいて」は2022年、第21回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞。
作者の小西マサテルさんは今作でデビューしました。
タイトル通り、名探偵が活躍するミステリー小説となっています。
といっても、この「名探偵のままでいて」に登場する名探偵はこれまで数々のミステリーで活躍してきた名探偵とは大分趣が異なるのが特徴。
まずは、そんな「名探偵のままでいて」のあらすじを掲載します。
第21回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作
「認知症の老人」が「名探偵」たりうるのか?
名探偵のままでいて―Amazon.co.jp
孫娘の持ち込む様々な「謎」に挑む老人。
日々の出来事の果てにある真相とは――?
認知症の祖父が安楽椅子探偵となり、不可能犯罪に対する名推理を披露する連作ミステリー!
主人公は小学校の教師として働く楓。27歳の女性です。
そして、この「名探偵のままでいて」において『名探偵』を担うのが、楓の祖父。
認知症を患い、幻視で周囲を戸惑わせてしまう祖父ですが、認知症を患うまでは切れ者の知識人として慕われた人物でした。
楓は祖父が認知症で変わっていく姿に苦しみつつ、祖父のお見舞いを欠かさない優しい孫でした。
そんなある日、楓は自身の日常で起きたある謎を祖父に問いかけます。
すると、祖父は認知症になる前のように、その高い知能により、謎の真相を推理して見せたのです。
そこから、楓は身の回りで起きた謎を、祖父に言い聞かせるようになっていくのです。
レビー小体型認知症について
「名探偵のままでいて」において『名探偵』として鋭い推理を披露する楓の祖父。
そんな祖父が患っているのは認知症のうち『レビー小体型認知症(DLB)』というもの。
このレビー小体型認知症は、レビー小体と呼ばれる異常なたんぱく質が神経細胞内に溜まることで発症する認知症です。
その主な症状は、小説内でもたびたび周囲を惑わせてしまう幻視。
見えないはずのもの、存在しないはずのものが見えてしまう症状です。
また、手足の震えや筋肉の硬直により動作が遅くなるといった、パーキンソン症状も多く見られます。
さらに、気分が塞ぎ込む抑うつ症状、睡眠時に大声を出したり暴れたりするレム睡眠行動異常症などがあります。
仲が良いからこそ、楓と祖父の会話はどこか重苦しいのが印象的でした。
認知症による祖父が祖父でいられるのタイムリミットが迫っていること、また祖父の命そのもののタイムリミット。
そんな暗い影が差す中でも、全体的に爽やかで読後感も良い小説だったのは不思議な感じでした。
「名探偵のままでいて」感想・あらすじ
「名探偵のままでいて」のあらすじ・感想です。
『日常の謎』系ミステリー
「名探偵のままでいて」はいわゆる『日常の謎』系ミステリーです。
大それた殺人事件が起きるわけではなく、主人公たちのごく身近で起きた不思議な現象の謎解きをしていくというスタイルですね。
劇中では殺人事件も起きますが、謎解きは動機や犯人当てが主ではなく、どうしてこんな結果になったのか?という解明が中心となっています。
偶然の巡り合わせにより、たまたまこんな結果になってしまった。
そんな犯人さえも予想だにしていなかった結果について、名探偵である楓の祖父が1つ1つ解決に導いていく。
複雑に絡まった紐を丁寧に解いていくかのような謎解きは、ミステリーを読み慣れていない方でも読みやすいのでは?と思いました。
もちろん、ミステリー好きからしても些細な謎なのに深い結末が待っている展開にはしびれました。
恋愛は三角関係に
「名探偵のままでいて」はミステリーですが、恋愛要素も強め。
主人公の楓と、その同僚の岩田。
そして岩田の高校時代の後輩である四季。
岩田の好意は登場した瞬間からバレバレですし、四季の方もなかなかに隠すのが下手なのが逆に良かったです。
短編の謎×全体の謎
「名探偵のままでいて」は、第1章から6番目の終章までの短編それぞれが独立し完結している小説です。
しかし、冒頭から終章まで全ての章を通して大きな謎が提示され続ける小説でもあります。
連作ミステリーとしてはあるあるですが、やはりこの構造は興奮しますね。
その全体の謎、冒頭からちょっと疑問に感じていた部分が少しずつ明かされ、終章につながっていきます。
楓と祖父の関係性や、母親の存在など、不思議な点は多々あります。
その不思議な点をちょっとずつ明かしていき、最後に怒濤の展開が訪れるのはお約束ですね。
また最後まで読むと、最初からこんなに伏線が巡らされていたのか!とすっかり騙され感動しました。
「名探偵のままでいて」というタイトル、読む前と読んだ後では受け止め方が大きく変わりました。
楓の切実な願いに苦しみすら感じます。
孫と祖父の関係性の温かさにも浸れる、ほっこりしたミステリーでもありました。
ここまで「名探偵のままでいて」の感想でした。