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「滅びの前のシャングリラ」凪良ゆう 終末世界で描かれる愛に溢れた物語

滅びの前のシャングリラ凪良ゆうイメージ 小説
Hans BijstraによるPixabayからの画像

凪良ゆうさんの小説「滅びの前のシャングリラ」の感想です。

舞台は1ヶ月後に人類が滅亡する現代日本。

滅亡が近づくにつれ地獄が深まる終末世界の中で、登場人物たちが見出す新たな希望とは?

絶望的な状況なのに、どこか温かい人間ドラマが堪能できる傑作です。

「滅びの前のシャングリラ」基本情報
  • 作者:凪良ゆう
  • 対象:中学生~
    • 性的な描写あり
    • グロテスクな描写あり
    • いじめの描写あり
  • 2020年10月に中央公論新社より刊行
  • 受賞歴
    • 2021年本屋大賞・第7位
    • キノベス2021・第1位

「滅びの前のシャングリラ」について

「滅びの前のシャングリラ」は凪良ゆうさんの小説です。

ジャンルとしては『終末もの』。

舞台は小惑星の衝突で1ヶ月後に人類滅亡が宣言された世界です。

そんな終末世界を4人の男女の視点から描いた人間ドラマとなっています。

まずは、そんな「滅びの前のシャングリラ」の感想を掲載します。

「明日死ねたら楽なのにとずっと夢見ていた。
なのに最期の最期になって、もう少し生きてみてもよかったと思っている」

一ヶ月後、小惑星が地球に衝突する。滅亡を前に荒廃していく世界の中で「人生をうまく生きられなかった」四人が、最期の時までをどう過ごすのか――。
圧巻のラストに息を呑む。2020年本屋大賞作家が贈る心震わす傑作。

―Amazon.co.jp

凪良ゆうさんはこの「滅びの前のシャングリラ」の前作「流浪の月」で本屋大賞・第1位を獲得。

「流浪の月」は現在(2022年5月時点)実写映画が公開され、話題ですね。

花緒
花緒

映画はまだ観ていませんが、「流浪の月」の小説は読んでいます。

そんな本屋大賞1位獲得後、第1作となった「滅びの前のシャングリラ」は「流浪の月」とはまた違った作風です。

しかし、どちらも過酷な世界でもがく人たちの生き様を描いている、という点では共通しています。

どちらにしても地獄のような世界観ですが、地獄の中で見える一筋の希望の美しさは格別でした。

タイトルの『シャングリラ』とは?

「滅びの前のシャングリラ」の『シャングリラ』は理想郷という意味の言葉です。

シャングリラ(英語: Shangri-La)は、イギリスの作家ジェームズ・ヒルトンが1933年に出版した小説『失われた地平線』に登場する理想郷(ユートピア)の名称。ここから転じて、一般的に理想郷と同義としても扱われている。

シャングリラ―Wikipedia

フィクションではよく見かける言葉なのでなじみ深いという方も多いのではないでしょうか?

人類滅亡の直前にメインの登場人物たちは束の間の幸せを味わいます。

「滅びの前のシャングリラ」はまさにタイトル通りの小説でした。

「滅びの前のシャングリラ」感想・あらすじ

「滅びの前のシャングリラ」の感想・あらすじです。

ここからの文章には「滅びの前のシャングリラ」のネタバレも含みます。未読の方はご注意ください。

深まる終末世界

「滅びの前のシャングリラ」は全4章からなる連作短編小説です。

  1. シャングリラ
  2. パーフェクトワールド
  3. エルドラド
  4. いまわのきわ

※初回限定特別付録として同作のスピンオフ『イスパハン』も含めると5章です。

すべて同じ世界観、語り手は4章それぞれで異なりますが、登場人物たちはみんなどこかでつながっています。

また、章を読み進むごとに終末世界が深まっていくのも特徴です。

3章までは終末世界の途中で次の章へ移りますが、4章ではとうとう人類滅亡の瞬間が描かれます。

1カ月間の終末世界を経て、世界がどのように終わりを迎えるのか。

読んでいる間中ずっと想像していた「滅びの前のシャングリラ」の『終わり方』は、正直、意外なものでした。

しかしこの「滅びの前のシャングリラ」の『終わり方』としてはこれ以上ない最高の終わり方だったと思います。

余韻も含めて、わたしにとっては素晴らしい結末でした。

終末世界の荒廃具合

もしも1ヶ月後に人類は滅亡します、と言われたら?

「滅びの前のシャングリラ」は、読者であるわたしたちにもそう問いかけている小説です。

『そんなことあるはずない』と一笑に付すこともできますが、この「もしも」は明日唐突に全人類に降りかかるかもしれない「もしも」です。

わたしはこの「滅びの前のシャングリラ」の読後にしばらく考えてしまいました。

わたしだったらどうするか?

案外変わらずに本でも読んで過ごすかもしれません。

特に何も築き上げずに生きてきたので、最期の瞬間までのんびり過ごすのではと思ってしまいました。

けれども、世間一般的にはわたしのような考えの方は少ないのでは?と「滅びの前のシャングリラ」を読んで思わされました。

小説に感じたリアリティ

実際に人類滅亡が宣言されたことがないので、どこまで現実に即しているかは誰にも分かりません。

しかし「滅びの前のシャングリラ」で描かれ続ける終末世界の荒廃具合は、まさに終末世界に相応しい地獄絵図でした。

特に共感できるのが、滅亡が宣言されても自分の仕事をし続ける人たちの様子です。

テレビは何とか放送し続けるし、ネットも何とか使える状態。

日本人らしい真面目さというか勤勉さというか、でも何となく分かる感じがしてリアルだと思いました。

「1ヶ月」という期間の中途半端さ

「小説丸」というWEBサイトに「滅びの前のシャングリラ」に関する凪良ゆうさんのインタビューが公開されています。

このインタビューの中で『滅亡まで一ヶ月という「中途半端」の面白さ』という項があり、とても共感しました。

『1ヶ月後に人類滅亡』は長いようで短いようで、滅亡までの期間としてはとても中途半端です。

明日滅亡する、だったら「もう何をしても無理だ」と完全に諦めきれますが、1ヶ月は長いです。

かと言って、何か対策を練れるような余裕はないので短いですよね・・・。

この期間に関し、凪良ゆうさんは

私が直感的に選んだ一ヶ月後という設定は、激情を保ち続けるには長くて、落ち着くには短すぎる。中途半端なんですよ。たぶん、私はその中途半端さが書きたかった。

と語っています。(小説丸 凪良ゆうさん「滅びの前のシャングリラ」より引用)

その中途半端さにより、平和だった世界はどんどん荒廃し、地獄と化します。

1ヶ月後に人類が滅亡するのに、殺戮や略奪や暴動が起き続ける世界。

そんな愚かしいながらも、この状況になったら多分こうなるんだろうな・・・、というリアリティがこの「滅びの前のシャングリラ」の面白さです。

新しい地獄で見つけた希望

「滅びの前のシャングリラ」の(3章以外)の語り手たちは、人類滅亡の直前から未来に希望を持っていない人たちでした。

学校でいじめられている高校生、ヤクザの使いっ走りで人を殺したアウトロー、落ち目の歌姫。

境遇はそれぞれ違いますが、もともとの世界ですでにもがき苦しんでいた彼らにとって、新たな地獄である終末世界はある意味希望でもありました。

終末世界で生きる希望を見出してしまう、というのは良いのか悪いのか分かりません。

しかし、亡くなる直前に少しでも明るい希望を見出せたなら、それはそれで幸せだったと考えるべきでしょうか。

また、だからこそ、それまでの世界で未来を信じて必死で生きてきた3章の語り手の無念さが胸を締め付けます。

3章のタイトル『エルドラド』は黄金郷という意味。

彼女が必死で築き上げてきた幸せと未来の希望は人類滅亡とともに消える運命となってしまいましたが、それでも彼女は最後に黄金郷へ辿り着けたのではと思います。


わたし個人としてはとても面白い小説でしたし、話題作でもありますが、人には勧めにくい傑作だと思いました。

序盤のいじめの描写はけっこうキツいですし、その後の終末描写も相当ハードです。

しかし、終末世界での幸せな人間模様という、本当だったら両立し得ない世界観が素晴らしく描かれているので、その点では非常にオススメできます。

ここまで凪良ゆうさんの小説「滅びの前のシャングリラ」の感想でした。

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