柚木麻子さんの小説「デートクレンジング」の感想です。
婚活によって引き裂かれそうになる友情を必死に食い止めたい、そんな女性の葛藤と奮闘が描かれています。
幸せになって欲しい、けどわたしの傍にずっといて欲しい。
女の友情と結婚の両立という、ややこしい女性の内面を描いた小説です。
- 作者:柚木麻子
- 対象:中学生~
- エログロ描写なし
- 2018年4月に祥伝社より刊行
「デートクレンジング」について
「デートクレンジング」は柚木麻子さんの小説です。
ジャンルとしては「恋愛」や「青春群像劇」が当てはまるかと思われます。
が、大きなテーマは『女性同士の友情』や『女性に対する価値観』です。
柚木麻子さんがデビュー当時から扱ってきたテーマですが、作品を重ねるごとにその感性が鋭くなっているのではないでしょうか・・・。
そんな「デートクレンジング」のあらすじを掲載します。
「私にはもう時間がないの」
女を焦らせる見えない時計を壊してしまえたらいいのに。喫茶店で働く佐知子には、アイドルグループ「デートクレンジング」のマネージャーをする実花という親友がいる。
実花は自身もかつてアイドルを目指していた根っからのアイドルオタク。
何度も二人でライブを観に行ったけれど、佐知子は隣で踊る実花よりも眩しく輝く女の子を見つけることは出来なかった。
ある事件がきっかけで十年間、人生を捧げてきたグループが解散に追い込まれ、実花は突然何かに追い立てられるように“婚活”を始める。
初めて親友が曝け出した脆さを前に、佐知子は大切なことを告げられずにいて……。自分らしく生きたいと願うあなたに最高のエールを贈る書下ろし長編小説。
―Amazon.co.jp
主人公の佐知子は35才。5年前に社内で出会った男性と結婚し、現在は義母の喫茶店で働いています。
大人しい性格の佐知子には、彼女と正反対とも言えるパワフルな実花という親友がいます。
大学時代の同級生として出会い、20年近く親友で居続けた2人。
そんな穏やかな2人の関係に小さな亀裂が入るところから、この「デートクレンジング」は始まります。
「女性の友情とその面倒くささ」を書かせたら日本で右に出るものはいないのでは?という柚木麻子さん。
そんな柚木さんによる「デートクレンジング」は、どうしようもないくらいに面倒くさい女性の友情を描いています。
読んでいて思わず苦笑してしまうくらい厄介で面倒くさいのですが、少なからず理解できてしまうのが自分でも痛いです。
タイトル「デートクレンジング」とは?
タイトル「デートクレンジング」は、佐知子の親友・実花がマネージャーを務めていたアイドルグループの名前です。
その名前の元になったのはアメリカ発祥の『デートクレンズ』という言葉。
『デートクレンズ』の意味は「一定期間、異性とデートをしない」こと。
異性から一時的にでも距離を取ることで、家族や友人、さらに自分自身のことを見つめ直すきっかけを作ることが目的となります。
作中のアイドルグループ「デートクレンジング」のキャッチコピー『デートの呪いをぶっつぶせ!』とつながりますね。
ただし、作中でも言及されていますが、ぶっつぶすのは『デート』ではなく『デートの呪い』。
デートで疲れた心と身体を癒やす、そんな思いが込められているのですね。
「デートクレンジング」あらすじ・感想
「デートクレンジング」のあらすじ・感想を、小説に登場する女性ごとに書いていきます。
『推し』が親友だったら
『親友の幸せを願う気持ち』と『親友を奪われるのが嫌な気持ち』の間で揺れ動き、暴走していく佐知子。
佐知子は客観的に読むとやや常軌を逸している風に見えます。
けれども、佐知子にとって実花がそこまで大切でかけがえのない存在だからこそ。
幸せな家庭を築く佐知子と、独身の実花はもう親友のままではいられないのか?
そんなライフステージの違いによる葛藤と、一番の『推し』が親友だったら、という面倒くささは最高で、清々しさすら感じました。
ただ、佐知子は大人しそうで穏やかな印象の女性ですが、その中身は意外とアグレッシブです。
良い意味では他人に流されない強い意志としたたかさを持っていると言えます。
しかし、悪い意味では傲慢で自己中心的とも言えます。
よって主人公である佐知子の人物像は好き嫌いが分かれそうですが、わたしは若干苦手なものの人間味がありけっこう好きです。
あと、佐知子の夫はこの小説の中で、いや柚木さんの小説の中で一番良い人だったと思います。
『生きがい』を奪われたら
アイドル好きが高じてアイドルのマネージャーとなった実花。
「デートクレンジング」はそんな実花がマネージャーを務め、生きがいでもあったアイドルグループが解散した直後から始まります。
全身全霊をかけ5人の少女たちを導いてきた実花。
そんな生きがいを奪われた実花は、何かを取り返すかのように婚活をスタート。
男だったら別に誰でも良い。とにかく結婚しなければ。
ムキになっているかのような実花の婚活は、佐知子じゃなくてもハラハラしました。
アイドルという生きがいを失い、その穴を埋めるための実花の婚活。
「時間がない」という呪いのような言葉の価値観は、残念ながらまだ世間に蔓延している『一般的な』価値観とも言えます。
そんな価値観と闘ってきたはずの実花が屈し、自分を殺しながらも婚活を続ける様子は痛々しかったです。
だからこそ、実花が最後に出した答えにはホッとしました。
美人で強気なものの、実は弱くて脆い実花。
どちらかと言えば、実花の方が佐知子よりも共感しやすいキャラクターかもしれません。
『親友』を失ったら
婚活を始めた実花の隣に、唐突に居座りだした芝田みこ。
実花の隣をずっと独占していた佐知子は、実花の弱みにつけ込むように隣に滑り込んできた芝田が嫌で嫌で仕方がありません。
婚活コラムニストとして雑誌のエッセイなどを手がける芝田。
その内容に目新しいものはなく、佐知子は実花から芝田を引き離すのに躍起になっていきます。
しかし、ひょんなことから、佐知子と芝田は(お互いイヤイヤながらも)急接近。
芝田の明け透けな本音を聞くうちに、佐知子の芝田に対する態度も軟化していきます。
そんな芝田、普通に嫌な女として書かれていますが、嫌な女であるものの面白い女としてどこかコミカルに描かれているのが特徴です。
たしかに近くにいたら嫌だな、と思うタイプの人ですが、どこか憎めない愛嬌がある感じです。
まあ、スゴく嫌な感じなんですが。
また芝田には、過去に相手の結婚・出産を機に疎遠になった親友がいました。
そのことが芝田を焦らせ、嫌な女を作り上げた原因だと思うと、微かには溜飲は下がります。
新しい道を歩み始めたら
実花がマネージャーを務めていたアイドルグループ「デートクレンジング」。
その元メンバーが、自分の道を見つけ歩き出しているところも良かったです。
モデルとして新たな道を歩き出した暮羽(くれは)と、メンバーの中心的存在だった桃香の解散後も続く友情や、思いは少し感動しました。
ただし暮羽から桃香への熱烈すぎる愛はなかなかスゴかったです・・・。
また、詳細すぎるアイドルのバスツアーの様子は、まるで自分も現地にいるかのようなインパクトを感じました。
わたしはアイドルに詳しくないので佐知子同様にビックリしっぱなしでした。
端から見ると異様な光景かもしれません。
けれども、一心不乱に何か1つの『推し』を愛し、応援し続けるのは素晴らしく尊いものだと思わされるシーンだったと思います。
さらに、愛すべき対象『推し』はアイドルや芸能人などに限らない、というのも尊いと感じました。
親友でありながら、お互いがお互いを『推し』合っていた2人の、曲がりくねった友情の結末はぜひ読んでもらいたいです。
個人的には最後に実花や芝田たちが出した結末が、この小説のテーマだったのではと思います。
人生の形はいろいろ、そんな普通ですが心強いメッセージをもらえたような気がします。
ここまで柚木麻子さんの小説「デートクレンジング」の感想でした。