サラ・グランさんの小説「探偵は壊れた街で」の感想です。
ハリケーンの傷跡が色濃く残る2007年のニューオーリンズを舞台に、1人の女探偵の奮闘を描くミステリーです。
強くてクールでカッコよすぎる探偵・クレアの活躍は必見!
ハードボイルド好きにも、ハードボイルドが良く分からない方にもオススメの小説です。
- 作者:サラ・グラン(Sara Gran)
- 対象:中学生~
- 暴力・グロテスクな描写あり
- 性的な描写あり
- 2011年にアメリカで刊行
- 日本では2015年に創元推理文庫より刊行
- シリーズ1作目(現・シリーズは2作)
- マカヴィティ賞最優秀長篇賞
- ドイツ・ミステリ大賞 翻訳部門受賞
「探偵は壊れた街で」について
「探偵は壊れた街で」はサラ・グランさんのミステリー小説です。
事件の依頼を受けた探偵クレア・デウィットの奮闘を描いています。
この探偵クレア・デウィットは人気を博し、続編も刊行されました。
まずは、そんな「探偵は壊れた街で」のあらすじを掲載します。
クレア・デウィットはただの女探偵ではない。独特の探偵術を駆使し、巧みに銃を扱い、師と仰ぐ探偵たちの教えを守り困難な調査でも諦めずに事実を追う。2007年、ハリケーンの傷痕が未だ残るニューオーリンズで、クレアは失踪した地方検事補の捜索を依頼される。洪水で死んだと思われる一方で、嵐のあとに姿を見た者もおり、経緯がわからない。真実によって誰かが傷つくこともある。しかし探偵にできるのは、謎を解決し先に進むことだけだ。傷ついた街と人々に寄り添う女探偵の活躍を描く、マカヴィティ賞最優秀長篇賞受賞作。
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舞台は2007年のアメリカ・ニューオーリンズ。
探偵・クレアが『2005年8月に起きたハリケーンの後に行方不明となったおじを探して欲しい』という依頼を受けるところからこの物語は始まります。
クレアにとってニューオーリンズはかつて暮らしていた地。
良い思い出も悪い思い出もある、因縁の土地でもありました。
そんな過去の残るニューオーリンズにて消えた男性を探しつつ、クレアが行方不明の真相に辿り着くまでが描かれます。
著者サラ・グランとは
「探偵は壊れた街で」の著者はアメリカの小説家サラ・グラン(Sara Gran)さんです。
サラ・グランさんは1971年、アメリカ・ブルックリン生まれ。
この「探偵は壊れた街で」の主人公であるクレア・デウィットとほほ同い年で、出身地も同じです。
クレアの回想では、少女時代を過ごしたブルックリンの様子が描かれていますが、非常に詳細でした。
実際に主人公と同じ時代を過ごした、著者の回想でもあったのかもしれません。
シリーズ2作目・続編について
「探偵は壊れた街で」には「探偵は孤高の道を」という続編も存在します。
シリーズは現在この2作のみです。
「探偵は壊れた街で」の舞台・ニューオーリンズについて
「探偵は壊れた街で」の舞台はアメリカ・ニューオーリンズ(New Orleans)です。
わたしのニューオーリンズのイメージは『何か・・・、音楽?ジャズ?が有名なところ?』程度だったので「探偵は壊れた街で」での描写には驚きっぱなしでした。
小説では、とにかく治安が悪い風に描かれているので、本当にこんなに悪いのかちょっと調べてみました。
ニューオーリンズの基本情報
ニューオーリンズはアメリカ・ルイジアナ州の南部にある都市。
ルイジアナ州はアメリカの南東部、メキシコ湾に面し、ミシシッピ川の河口がある都市になります。
かつてフランス領だった名残から、現在でもフランス統治時代の雰囲気を残す地域もあるとのこと。
そんなルイジアナ州において、ニューオーリンズは最も大きな都市で、人口は40万人ほど。
わたしのイメージ通りジャズが有名で、発祥地でもあります。
小説内にも登場するカーニバル・マルディグラ祭も有名です。
ニューオーリンズの治安について
ニューオーリンズの治安は本当に良くないです。
日本人の海外旅行者への情報サイトによると、一部の地域を除いては夜間の外出を極力避けるべき、と書かれていました。
また、人通りの少ない路地裏など人目が付かない場所へは立ち入らないように、とも注意喚起されています。
「探偵は壊れた街で」でクレアはストリートギャングの少年たちとの交流から、事件解決へのヒントを手に入れます。
銃撃戦は珍しくなく、暴力は当たり前。
スリや盗みも日常茶飯事、というインモラルな環境は普通の探偵だったら尻込みしそうですが、タフすぎるクレアは平気でグイグイ行くので、読んでいてハラハラしました。
小説内のハリケーンについて
「探偵は壊れた街で」は2007年1月のニューオーリンズが舞台です。
このニューオーリンズでは16カ月前の2005年8月にハリケーンが襲来し、街が壊滅的な被害を受けてから立ち直っていない状況にありました。
この2005年8月のハリケーンは実際に起こった災害です。
小説内と同じ『ハリケーン・カトリーナ』という名前で、ルイジアナ州では1500人以上が犠牲となる大災害でした。
「探偵は壊れた街で」では、このハリケーン・カトリーナについて市民の目線から詳細に描かれています。
大災害とその混乱に乗じて行方不明となった男性。
災害からの復興、というと日本らしいテーマだと感じられます。
しかし、災害はどこの国でも起こり、どの地域も被災地になり得るのだと感じました。
「探偵は壊れた街で」は災害を直接的に描いた小説ではありませんが、ある意味、災害がテーマの作品と言えます。
【ネタバレなし】「探偵は壊れた街で」感想・あらすじ
「探偵は壊れた街で」のネタバレなし感想・あらすじです。
ハードボイルドすぎる女探偵
「探偵は壊れた街で」の主人公は女探偵クレア・デウィット。
この「探偵は壊れた街で」を読む前は『女探偵が主人公だからハートウォーミングなミステリーなのだろう』という偏見バリバリの考えを抱いていました。
結論から言うと、この「探偵は壊れた街で」にはハートウォーミングな展開もあります。
クレアの優しさや繊細さが感じられる、心温まるシーンも確かにあります。
しかし、クレアは数ある探偵の中でも際だってハードボイルドな探偵でした。
少なくとも、今までわたしが読んできたミステリー小説の探偵の中では断トツでハードボイルドです。
クールで時には冷酷とも思える判断も下せるクレア。
暴力に屈さず、むしろ自ら暴力を仕掛けるほどのタフさも持ち合わせています。
日本のミステリーも好きですが、やはり海外のドライでスタイリッシュな探偵はたまりませんでした。
現実と夢・幻覚の曖昧さ
主人公・クレアの一人称により語られていく、この「探偵は壊れた街で」。
そのクレアの視点は、現実と夢・幻覚の境が曖昧で、最初の方は混乱してしまいました。
ただ、読み進めていくと慣れるので大丈夫です。
クレアは現実の情報と、自らの夢や幻覚の中でのひらめきをもとに捜査を進めます。
彼女の夢・幻覚には憧れの存在や亡くなった恩師が登場し、彼女にヒントを与えます。
この不思議な描写は、街や人のリアルな描写が続く「探偵は壊れた街で」の中では異彩を放っており、どこかファンタジックです。
そして、その夢や幻覚を上手く使いこなしつつ、事件の真相に近づいていくのはミステリーの探偵としては異色と言えます。
クレアはハードボイルドの探偵ですが、この夢や幻覚の描写があることにより彼女に親近感を抱くようになり、読み進めやすくなっている風に感じました。
ミステリーとしては、トリックを解き明かす本格ミステリーではなく、社会背景や人物たちの境遇などから事件の真相を追究する社会派ミステリーだと思います。
登場人物の関係性など、ネタバレになってしまうのでほとんど書けません。
また、クレアの過去についても、あまり触れないようにします。
あまりストーリーには触れられませんでしたが、この「探偵は壊れた街で」は素直に面白い小説でした。
400ページ弱を一気読みして、後味もスッキリしていてとても良かったと思います。
ここまで「探偵は壊れた街で」の感想でした。