知念実希人さんの小説「硝子の塔の殺人」の感想です。
ミステリー好きの資産家が建てた『硝子の塔』を舞台に、名探偵とその助手が連続殺人事件の解明に挑みます。
未だかつて読んだことがない衝撃の展開が堪能できます。
ミステリーへの愛が溢れすぎている、本格ミステリーの傑作です。
- 作者:知念実希人
- 対象:中学生~
- 性的な描写なし
- グロテスクな描写あり
- 2021年8月に実業之日本社より刊行
「硝子の塔の殺人」について
「硝子の塔の殺人」は知念実希人さんのミステリー小説です。
これまでにも数々のミステリー作品を世に送り出してきた知念実希人さんですが、この「硝子の塔の殺人」は知念さん初となる本格ミステリー小説です。
とにかく面白かった!というのが一番の感想です。
ストーリーの面白さももちろんですが、知念実希人さんの本格ミステリーに対する狂気的なまでの愛情がビシビシ感じられる圧倒的な傑作となっています。
まずは、そんな「硝子の塔の殺人」のあらすじを掲載します。
500ページ、一気読み!
知念実希人の新たな代表作誕生作家デビュー10年 実業之日本社創業125年 記念作品
雪深き森で、燦然と輝く、硝子の塔。
硝子の塔の殺人―Amazon.co.jp
地上11階、地下1階、唯一無二の美しく巨大な尖塔だ。
ミステリを愛する大富豪の呼びかけで、
刑事、霊能力者、小説家、料理人など、
一癖も二癖もあるゲストたちが招かれた。
この館で次々と惨劇が起こる。
館の主人が毒殺され、
ダイニングでは火事が起き血塗れの遺体が。
さらに、血文字で記された十三年前の事件……。
謎を追うのは名探偵・碧月夜と医師・一条遊馬。
散りばめられた伏線、読者への挑戦状、
圧倒的リーダビリティ、そして、驚愕のラスト。
著者初の本格ミステリ長編、大本命!
ストーリーを大まかに説明すると、
大のミステリー愛好家である資産家が建てた奇妙な建物内で連続殺人事件が発生し、居合わせた名探偵と助手を務めることとなった医師(物語の語り手)が事件を解決していく
というものです。
ちなみに、建物は山奥に建てられ、雪崩で外界との連絡手段が途絶えてクローズドサークルとなります。
ザ・本格ミステリーです。
著者のミステリー好きが溢れる
「硝子の塔の殺人」には実在のミステリー作家・小説の名前がたびたび登場。
知念実希人さんのミステリーへの深い造詣、そして強すぎる愛を感じられる、ミステリー好きにはたまらない小説となっています。
ただし、小説の名前はたびたび登場しますが、ネタバレになるような描写は一切ありません。
そのため安心して読み進められますし、作中に出てきた小説を片っ端から読みたくなること請け負いです。
【ネタバレなし】「硝子の塔の殺人」感想・あらすじ
「硝子の塔の殺人」のネタバレなし感想・あらすじです。
主人公(語り手)の医師が犯人?
「硝子の塔の殺人」は、プロローグにおいて、主人公・語り手である医師の一条遊馬が犯人であることを独白するところからスタート。
そこから物語は舞台となる『硝子の塔』で何が起こったのかが時系列で描かれていきます。
本編の開始2ページで犯人が分かる展開。
犯人の視点で語られる倒叙式のミステリーかと思い読み進めていきました。
しかし、違いました。
たしかに、一条は恨みを募らせていた『硝子の塔』の主人・神津島太郎を殺害します。
一条が恨んでいた相手は神津島太郎のみだったので、これで目的は果たされました。
けれども、その翌日、新たな犠牲者が出てしまいます。
2人目の犠牲者は一条の手によるものではありませんでした。
自分以外にも殺人者がいる。
そのショッキングな状況において、一条は殺人犯でありながら、探偵の助手として自分ではない殺人犯を探すことになります。
早く犯人を見つけて、自分の罪をもう1人の殺人犯にもなすりつけようという魂胆でした。
なかなか計算高いですが、一条は基本的に善人。
読んでいて、語り手にすんなり感情移入できるのは重要だと再認識しました。
『医師』であり『探偵の助手』である主人公
医師として勤める傍ら、探偵の助手としても活躍する人物。
そう聞けば、ミステリー好きならすぐに『ワトソン』が思い浮かぶでしょう。
ご存じ、シャーロック・ホームズの助手にして医師のワトソン君です。
「硝子の塔の殺人」において、医師であり成り行きで名探偵の助手にもなる一条はまさにワトソンをモチーフとしたキャラクター。
けれど、一条は、医師であり探偵の助手だった他作品のあるキャラクターも彷彿とさせます。
※その他作品のキャラクターについては過去記事でも紹介していますが、未読の方もいると思いますので伏せます。
『医師』『探偵の助手』そして『犯人』でもある一条。
探偵とタッグを組みつつ、孤軍奮闘し続ける一条の頑張りにも注目です。
残り100ページを残し事件が解決?
「硝子の塔の殺人」は本編が500ページ弱もある長編です。
けれども、本編を400ページほど読み進めると、なんと事件が解決してしまいます。
あと100ページも残っているのに、事件解決なんて・・・。
と思った矢先、それまでの展開を根底から覆す展開が訪れます。
さすがに驚きました。
そして、一度目の謎解きで解明されなかった謎がすべてスッキリ解決します。
何となくモヤモヤしていた部分も霧が晴れたように鮮明になります。
小説の最初からあらゆるところに伏線があったのか!と清々しく騙され続けていたことに気付け、とても満足でした。
わたしは残念ながら犯人が分かりませんでしたが、作中で出される『読者への挑戦状』にぜひ挑戦してみてください。
ここまで「硝子の塔の殺人」のネタバレなし感想・あらすじでした。
↓ではネタバレあり「硝子の塔の殺人」の感想をお送りしていきます。
ここからは「硝子の塔の殺人」のネタバレ全開の感想です。
【注意・ネタバレあり】「硝子の塔の殺人」の感想
「硝子の塔の殺人」のネタバレあり感想です。
結末に言及しているので未読の方はご注意ください。
名探偵に必要なもの
「硝子の塔の殺人」における名探偵はシャーロック・ホームズの格好を模した男装の麗人・碧月夜。
大のミステリーファンにして、自ら名探偵となった女性です。
しかし、碧は名探偵でありながら、本物の名探偵に会いたいあまりに自ら難解な事件を起こす『名犯人』でもありました。
この「硝子の塔の殺人」では事件を解決する名探偵、自らもう1つの事件を起こす名犯人という2つの顔を使い分ける大活躍を見せました。
探偵でありつつ犯人でもあるなんて、ある意味最強のキャラクターと言えます。
とても魅力的なキャラクターだったので他の作品でも活躍して欲しいと願うばかりですが『実は犯人だった』というトリックが使えないのでどうでしょう?
やはり、碧月夜も作中で言っていましたが、犯罪卿・モリアーティーである彼女には、真の名探偵・ホームズが必要ですよね。
ですので次回は碧月夜VS名探偵を望むしかありません。
本格ミステリーのために生み出された設定
「硝子の塔の殺人」の舞台である『硝子の塔』。
フィクションの世界にしか存在し得ない設計、しかもクローズドサークルとなった館で繰り広げられる惨劇は、ミステリーファンは読まずにはいられない設定です。
遺伝子治療に用いる画期的な製品・トライデントを開発し、莫大な資産を手に入れた館の主人・神津島太郎。
そのトライデントを模して、細部まで完璧に再現して作られたのが『硝子の塔』でした。
小説の冒頭には『硝子の塔』の立体図・断面図が掲載されていますが、真ん中に螺旋階段が一本通っていることが確認できます。
遺伝子で螺旋状、この二つの言葉から連想されるのはDNAの二重らせん構造ですよね・・・。
この二重らせん構造という言葉、小説の最初の方でしっかり書かれていました。
まさか螺旋階段がDNAと同じように二重になっているなんて、普通は考えつきません。
しかも、第一の謎解きまではすべて神津島太郎の小説の中という設定だったなんて・・・。
正直、はじめは頭が混乱しました。
しかし、思い返してみるとすべて腑に落ちてしまったのが怖かったです。
そして、すっかり騙され続けてきたのに、さらにもう一段階騙されることに。
『硝子の塔』の構造も2重なら、起きた殺人事件も二重構造だった。
『硝子の塔』と、その原形である遺伝子治療のトライデントが何よりのヒントだった。
最初からヒントがしっかり提示されて、その上ですっかり騙される。
騙されましたが、一切イヤな気分にならず、もはやこの上なくミステリーを楽しめました。
すべて知った上で、近々、読み返そうと思います。
ここまで「硝子の塔の殺人」の感想でした。