佐藤究さんのミステリー小説「QJKJQ」の感想です。
父、母、兄、そして高校生である自らも快楽殺人犯。
そんな殺人狂一家の平穏な日々が、家族の死や失踪により脅かされていく。
主人公・亜李亜(アリア)は家族の復讐のため、家族、そして自らの秘密を探り始めます。
少女のクールな主観で描かれる、スタイリッシュな犯罪ミステリー小説です。
- 作者:佐藤究
- 対象:中学生~
- 性的な描写ややあり
- グロテスクな描写ふんだんにあり
- グロテスクな描写が苦手な方は注意
- 2016年8月に講談社より刊行
- 2018年9月に文庫化
- 第62回江戸川乱歩賞・受賞作
「QJKJQ」について
「QJKJQ(キュージェイケイジェイキュー)」は佐藤究さんのミステリー小説です。
主人公は、殺人狂ばかりの一家で生まれ育った17才の少女・亜李亜(アリア)。
そんな彼女の平穏な日常が少しずつ壊れていく様を描いた小説です。
まずは、そんな「QJKJQ」のあらすじを掲載します。
女子高生の市野亜李亜は、猟奇殺人鬼の一家で生まれ育った。父は血を抜いて人を殺し、母は撲殺、兄は噛みついて失血させ、亜李亜はスタッグナイフで刺し殺す。それでも、猟奇殺人の秘密をお互いに共有しながら、郊外の家でひっそりと暮らしていた。ところがある日、兄が部屋で殺されているのを亜李亜は発見する。もちろん警察は呼べない。そして翌日には母がいなくなった。亜李亜は残った父親に疑いの目を向けるが……。
QJKJQ―Amazon.co.jp
「QJKJQ」は佐藤究さんにとって2作目となる小説。
また、この「QJKJQ」で佐藤さんは第62回江戸川乱歩賞を受賞しました。
ミステリー作家の登竜門とも言える江戸川乱歩賞ですが、この「QJKJQ」はミステリー小説の中でも異色の作品と言えるでしょう。
しっかりミステリーですが、犯罪小説でもあり、また思春期の少女の心象を描いたジュブナイル小説としても面白かったです。
「QJKJQ」感想・あらすじ
「QJKJQ」のネタバレなし感想・あらすじです。
ネタバレしないため、あらすじは控え目です。
スタイリッシュな文体に惹かれる
「QJKJQ」の魅力は、文体のスタイリッシュさ。
主人公・亜李亜の一人称と、時折はさまれる謎の視点によりストーリーが進む「QJKJQ」。
その亜李亜の一人称はクールでおしゃれ。
とてもテンポが良く、一気に読んでしまいました。
小説内には、殺人描写など過激でグロテスクなシーンがたっぷり登場しますが、あまり不快感がなく、むしろ美しさすら感じられるのは文体のなせる技だと思いました。
難しい話ではないので、中学生や高校生など10代の方でも読みやすいかと思います。
ただ、グロテスクな描写が苦手な方は避けた方が良いです。
多様な快楽殺人犯
「QJKJQ」は、主人公・亜李亜をはじめ、父、母、兄の全員が快楽殺人犯である家族を描いた小説です。
そんな家族、いかにもフィクションらしい。
とも思います。
けれど、塀に囲まれ、壁に囲まれた一軒家の中で、何が起こっているのかは、外からはほとんど分かりません。
実際に日本でもごく普通の民家で大量殺人が起きていた事例がちらほらあります。
そんな身近にある死角・家庭の中で、家族がそれぞれ自らの快楽のため殺人を犯している。
殺人狂の家族たちの影響を受けた最も年若い亜李亜もそれに感化され、殺人に手を染める日々。
亜李亜が冒頭で犯す殺人の描写は、グロテスクさよりも幻想的な美しさがあり、一気に物語に引き込まれたシーンでした。
その後、小説では家の中で兄が惨殺され、母も消え、さらに父の秘密に亜李亜が勘付くという怒濤の展開に。
殺人狂である家族の真の顔が何者かの手により暴かれ、追い詰められていく。
亜李亜は誰が、何の目的で家族を殺し、追い詰めているのか逆に暴こうとする。
「QJKJQ」はそんな殺人狂による復讐譚かと思い、読み進めていきました。
しかし、物語は全く予想が付かない方向へ転がり、そのまま突っ走っていきます。
まさに超展開でした。
少女の『主観』と『世界』の揺らぎ
「QJKJQ」は亜李亜の一人称、つまり亜李亜の主観から描かれている小説です。
そのため、亜李亜が見えているもの、感じているものしか小説の文章には書かれません。
亜李亜にとっての現実が、小説にとっての現実とは限らない。
そんな主観の不確かさにより、少女の主観でしか物語を読めない読者は翻弄され続けることになります。
また、亜李亜が生きる小説内の世界が、わたしたち読者が生きる現実と同じものとは限りません。
小説で今、何が起こっているのか。
わたしたち読者は手持ちのカードの組み合わせでしか判断できませんが、大抵のミステリーは誰もが持っているカードのみで謎が解決します。
しかし「QJKJQ」では、持ち合わせのカードにはない新たなカード、つまり設定が与えられ、その設定を踏まえて謎解きが行われます。
私たちが生きる現実とは異なる設定、つまりSFのような設定と言えます。
亜李亜の『主観』の揺らぎと、亜李亜が生きる『世界』の揺らぎ。
その2つが二人三脚で揺らぎ、壊れていくので読者としては息つく間もありませんでした。
フィールドワークの場面もあり、正統派ミステリーらしい場面も随所に見られる小説です。
展開が気になりすぎて、一気読みしてしまった面白さでした。
多種多様な殺人方法や、殺人犯の定義など、殺人にまつわることにとても詳しくなれる小説でもあります。
グロテスクな描写が大丈夫なら是非ともオススメしたい作品です。
ここまで「QJKJQ」の感想でした。