スティーヴン・キングのサスペンス小説「デッド・ゾーン(The DEAD ZONE)」の感想です。
昏睡状態から目覚めたら、未来予知ができる超能力者になってしまった。
そんな主人公ジョン・スミスの悲劇的な運命を描く名作サスペンスです。
- 作者:スティーヴン・キング(Stephen King)
- 訳者:吉野美恵子
- 対象:中学生以上
- 性的な描写ややあり
- グロテスクな描写あり
- 1979年にアメリカで初版が刊行
- 日本では1987年に新潮社より文庫版が刊行
- 1983年にアメリカで映画化(日本公開は1987年)
- 全2巻(上下巻)
「デッド・ゾーン」について
「デッド・ゾーン」はスティーヴン・キングのサスペンス小説です。
不運な交通事故により5年弱の昏睡状態に陥った主人公ジョン・スミスの、悲劇的な運命が描かれています。
舞台は1970年代のアメリカ。
当時の空気感を味わいつつ、スリリングな展開を楽しめます。
まずは、そんな「デッド・ゾーン」のあらすじを掲載します。
ジョン・スミスは人気者の高校教師だった。恋人のセーラとカーニバルの見物に出かけたジョンは、屋台の賭で500ドルも儲けた。なぜか,彼には当りの目が見えたのだ。愛を確認し合ったその夜、ジョンは交通事故に遭い、4年半の昏睡状態に陥った。誰も彼が意識をとり戻すとは思わなかったが、彼は奇跡の回復を遂げた。そして予知能力も身につけた。そして-、彼の悲劇が始まった。
デッド・ゾーン(上)
「デッド・ゾーン」はスティーヴン・キングにとって5作目の長編小説で、デビュー6年目に書かれたもの。
デビュー6年目だとまだまだ新人小説家、といった感覚ですが、キングはこの時点ですでに「シャイニング」など傑作を世に送り出しているので常識は通用しません。
この「デッド・ゾーン」は日本語版だと上下2巻、合計700ページ超えの大作です。
とてもボリュームがある小説ですが、相変わらず読みやすくてすらすら読めました。
ただ、唯一残念なのが、日本版「デッド・ゾーン」は1987年刊行の新潮文庫版しかないこと。
人気作は改訂版や新訳版などが登場しますが「デッド・ゾーン」は約40年前の文庫版しかありません。
ほとんど手に入らない貴重な存在となってるので、見かけたら逃さずチェックしてみてください!
映画化&ドラマ化済み
「デッド・ゾーン」は1983年に映画化、2002年から2007年まではドラマ化もされています。
ちなみに、日本で映画版が公開されたのは1987年なので約4年後。
全米公開から日本公開まで時間がかかるのは現代も同じですが、さすがに遅いですね・・・。
また、この「デッド・ゾーン」はWikipediaによると
キング作品の映画化の中では評価が高い。
とのこと。
スティーヴン・キングの小説はとにかく手当たり次第に映画化されている印象なので、当たりはずれが多いのも仕方がない気がしますが。
ただ、評価が高いとのことなので、興味がある方はぜひ映画の方もチェックしてみてくださいね。
「デッド・ゾーン」感想・あらすじ
ここからは「デッド・ゾーン」のネタバレなし感想・あらすじです。
不運すぎる超能力の目覚め
物語は1970年、主人公のジョン・スミス(ジョニー)が24才のときから始まります。
高校で教師をしているジョニーは同じ学校に勤める恋人のセーラとのハロウィンデートに出かけます。
デートの行き先だったカーニバルの掛け小屋で、超人的な予知能力を見せ、セーラや周囲のギャラリーたちを驚かせたジョニー。
しかし、セーラを家まで送った帰り道に事故に遭い、昏睡状態に陥ります。
昏睡状態は4年半以上も続きますが、もう父親ですら諦めていた矢先、突然、ジョニーは目を覚まします。
そして目を覚ましたジョニーは触れた相手・ものの未来や過去が見える超能力・デッドゾーンを手に入れていました。
※Wikipediaの説明には
他人や物に触ることで「死」にまつわる過去、現在、未来の出来事が映像として脳内に再生されるという超能力を持つことになった。
と書かれていました。
超能力の目覚め、と聞くと、その超能力を活かし一攫千金!という下世話な発想が浮かんでしまいがち。
けれども「デッド・ゾーン」のジョニーにとってはあまりの不運。
悲劇の始まりでしかありませんでした。
ジョニーが感じる未来予知は不幸なものばかり。
息子の手術が成功する、など良い未来を予知し励ますこともありますが、たいてい不幸でした。
不幸な未来を予想し、的中させて感謝されることはもちろんありますが、不気味がられることも同じくらいあります。
未来が見えても人を助けられない。
そのことや世間からの好奇の目に気を病み、苦しみ続けるのは悲劇そのもの。
超能力でヒーローになる!というのがいかに難しいかを思い知らされたような感じでした。
舞台は『70年代のアメリカ』、しかし現代の話でも不思議じゃない
「デッド・ゾーン」は1970年から1979年までの約10年間、70年代のアメリカを描いた小説です。
しかし、小説に出てくる設定やテーマは、まるで現代?と思うくらいに現代社会に通ずる問題を描いていました。
新興宗教にはまる母親に、人心掌握に長けた外道政治家、超能力者のプライバシーを暴こうと躍起になるマスコミなど。
現代でも通じる、というか、この「デッド・ゾーン」が刊行された約45年前から何も変わっていないのでは?と思わされました。
テクノロジーがどれだけ発達しても、起こる問題は同じなのだと痛感します。
そのため、1979年に刊行された、1970年代を描く小説なのに、古くささをほとんど感じずに読み進められたのが面白かったです。
その一方で、1970年代のアメリカの政治的な混乱や、カルチャーの変動なども描かれていて興味深くもありました。
『ジョン・スミス』の匿名性
「デッド・ゾーン」の主人公の名前は『ジョン・スミス(John Smith)』。
アメリカではジョンもスミスもありふれた名前。
この2つを組み合わせた『ジョン・スミス』はアメリカでは偽名の代名詞として使われているほど。
フィクションで登場人物が『ジョン・スミス』を名乗る場合はほぼ100%偽名、というのは暗黙の了解ですが「デッド・ゾーン」の『ジョン・スミス』は本名です。
なぜ、わざわざそんなありふれた名前にしたのか。
これはわたしの推測ですが「デッド・ゾーン」の主人公ジョン・スミスは誰でもなり得る存在である、というメッセージなのでは?と解釈しています。
特別な存在ではない。どこの誰でも、ジョンスミスのような存在になってしまう可能性がある、というメッセージです。
不運な主人公であるジョン・スミス。
けれども、その不運な境遇を他の人たちのために使い切ったヒーローの話でもあります。
誰でもヒーローになれる。
というメッセージも込められているのかもしれませんが、こんな辛い思いをするのは正直キツいです・・・。
正義と悪の闘いなのか?
「デッド・ゾーン」の主人公ジョン・スミスと相反する存在として冒頭から登場するのがグレグ・スティルソンという人物。
最初は聖書の訪問販売をしていたグレグですが、次に登場した十数年後には町長に。
そして、下院議員に当選し、国政にまで乗り出していきます。
突飛なパフォーマンスで人気を集めるグレグですが、政治の対抗馬を暴力や脅迫により潰していくという汚い手で勝ち上がってきたという裏の顔がありました。
政治を描いた作品だと珍しいことではありませんが、さすがにやり口が酷すぎてドン引きできるレベルです。
全く別の人生を歩んできたジョニーとグレグ。
その2人の人生が交錯したとき、ジョニーは自分が生まれてきた運命を悟ってしまいます。
ジョニーとグレグの結末は、つい最近起きた事件を思い出させました。
あまりにもタイミング良く読んでしまったものだと思います。
しかし、この2人の結末は圧巻でした。
理想の結末です。
悲劇的ながら、最高のヒーローになったジョニーの生き様を描いた名作です。
ここまで「デッド・ゾーン」の感想でした。