3月26日(金)に全国公開される映画「騙し絵の牙」。
その原作小説である「騙し絵の牙」は読み応え抜群の社会派ミステリーでした!
俳優・大泉洋さんが原作モデル・主演を務めることで何かと話題の「騙し絵の牙」を、映画の一足先に小説で楽しみましょう!
- 中学生~
- やや性描写あり
- グロ展開・描写はなし
- 出版業界が舞台の社会派ミステリー
- 俳優・大泉洋がモデルを務める
- 2017年8月刊行
- 2018年本屋大賞ノミネート(第6位)
- 2021年3月には実写映画が公開
「騙し絵の牙」あらすじ
「騙し絵の牙」は出版業界や出版社を舞台にした社会派のミステリー小説です。
出版社をテーマにした小説、というのはそこまで珍しくないですよね。
しかし、この「騙し絵の牙」は普通の社会派ミステリーではありませんでした!
まずは「騙し絵の牙」のあらすじを掲載します。
大手出版社で雑誌編集長を務める速水。誰もが彼の言動に惹かれてしまう魅力的な男だ。ある夜、上司から廃刊を匂わされたことをきっかけに、彼の異常なほどの“執念”が浮かび上がってきて…。斜陽の一途を辿る出版界で牙を剥いた男が、業界全体にメスを入れる!
騙し絵の牙-Amazon.co.jp
タイトルの「騙し絵」とは、本当ならあり得ないことが、目の錯覚を利用してあたかも本当に見える絵のこと。
現代では「トリックアート」と呼ばれることの方が多いでしょうか?
このタイトル「騙し絵」は主人公・速水のこと。
あらすじにもありますが、速水はとても魅力的な男性です。
常ににこやかで他人への気配りを忘れない、まさに理想の上司。
しかし、そんな見えているままの速水が本当の速水とは限りません。
騙し絵のように他人の目の錯覚を利用して巧妙に素顔を隠している速水。
そんな騙し絵が牙を剥いたとき、物語はどんな結末を迎えるのか?
・・・というのが「騙し絵の牙」の肝だと思います。
読み終わった後に分かるのですが、劇中には至る所に細かい伏線が散りばめられています。
まさに目の錯覚を利用した騙し絵のように、上手く見えないように潜んでいました。
ジャンルとしてはミステリーですが、普通に社会派の職業ものとして読み応えがある小説でもあります。
出版業界の裏側に興味があるという方には特にオススメかもしれません。
(ただ、あまりにも過酷すぎるので憧れを抱く方には酷かもしれません・・・)
異例すぎる「主人公=大泉洋」
「騙し絵の牙」が普通ではない最大のポイントは主人公にモデルがいること。
そのモデルとは、表紙を飾っている俳優・大泉洋さん。
大泉洋さんを知らない方のため、簡単な来歴を掲載します↓。
●大泉 洋:おおいずみ・よう
1973年北海道生まれ。俳優・タレント。演劇ユニット「TEAM NACS」のメンバー。大学在学時より出演していた『水曜どうでしょう』は全国で伝説的な人気番組となる。
主演映画『探偵はBARにいる』で第35回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を、『駆込み女と駆出し男』では第39回日本アカデミー賞優秀主演男優賞、第58回ブルーリボン賞主演男優賞を受賞。
2013年に発表した著書『大泉エッセイ 僕が綴った16年』は累計42万部を突破。
映画、舞台、テレビ、バラエティと多方面にマルチに活躍している。
騙し絵の牙-Amazon.co.jp
ただ、モデルと言っても、大泉洋さんの生き様や半生をモデルにしたわけではありません。
モデルにしたのは大泉洋さんのキャラクター。
大泉さんのキャラクターを当て書きして、この「騙し絵の牙」の主人公・速水輝也が誕生しました。
当て書きとは、映画や舞台などお芝居で演じる役者に合わせてキャラクターを作ること。
この当て書きを小説の世界でもやってしまった前代未聞の作品が「騙し絵の牙」です。
大泉洋さんに当て書きしているだけあり、読んでいると主人公・速水輝也は大泉洋さんにしか思えませんでした。
実際、小説内での速水の外見を表した描写は、
- 眠そうな二重瞼の目
- 愛嬌がある常に笑みが浮かんでいる口元
- 表情によって二枚目にも三枚目にもなる
- 少しウェーブのかかった髪
と大泉洋さんそのままです。
そして、速水の話し方もわたしたちがイメージする大泉洋さんと似ています。
もはや、大泉さんの声や仕草などが目に浮かぶレベルでした。
ちなみに大泉洋さんは表紙だけでなく、裏表紙・各章の扉ページにも登場します。
「騙し絵の牙」完成までの道筋
「騙し絵の牙」が書かれるきっかけとなったのは編集者。
編集者が主人公の小説が編集者の発案で始まった、というのは運命の巡り合わせですね。
大泉洋さんと親しかった編集者が「大泉洋を当て書きした小説を書いてみませんか?」と言ったことで企画がスタート。
塩田さんは、およそ4年もの間、出版関係者に対して徹底的に取材を敢行!
さらに、モデルとなった大泉洋さんにも何度も打ち合わせをし、この「騙し絵の牙」を完成させました。
また、主人公・速水輝也は新聞記者から雑誌編集者になったと言う経歴の持ち主です。
この経歴には、新聞記者だった塩田武士さんの経歴も活かされています。
わたしは出版関係者ではなく、出版業界にいたことはありません。
しかし、「騙し絵の牙」がとても真に迫っているように感じるのは、この徹底した取材の賜物なのだろうと思います。
主演・大泉洋で実写化
「騙し絵の牙」は2021年3月に主演・大泉羊さんで実写映画化されます。
(もともと2020年6月に上映予定でしたが、新型コロナの影響で延期となっていました)
主人公を大泉洋さんに当て書きしていることもあり、最初から実写化・映像化が前提で書かれていたとのこと。
メディアミックスは小説にとっても映画にとっても重要ですよね。
ちなみに、この実写映画化に際し、作者の塩田武士さんはインタビューで、
「ハマり役という言葉が生ぬるく聞こえる、映画史上類を見ないシンクロ率100%の主演俳優!」
映画.comより
「『社会派』と『40代の色気』をまとった大泉洋は無敵です」
と並々ならぬ期待を寄せています。
映画版のあらすじや登場人物をサラッと目にしたところ、小説「騙し絵の牙」とはけっこう違う話のようです。
小説だけでなく、映画版も期待ですね。
出版業界は斜陽なのか
読んだ本の感想記事を掲載したブログを運営しているだけあり、わたしは10年以上「本の虫」です。
本が好きで、活字が好きで、暇さえあれば何か読んでいる。
いや、何か読んでいないと落ち着かない!という活字中毒です。
特に好きなフィクションの世界には、何度も勇気付けられ、助けられたことか・・・。
だからこそ、この「騙し絵の牙」に描かれている出版業界の危機はショッキングでした。
「騙し絵の牙」はフィクションですが、「騙し絵の牙」に書かれている出版業界の状態はほぼ事実らしいです。
たしかに、近年は雑誌の休刊・廃刊のニュースをよく見かけます。
「本が売れない時代」という言葉はわたしが小さいときから耳にしていました。
電子書籍の影響で紙の本はどんどん売れなくなっている、どんどん本屋が潰れていくとも。
また、新型コロナの影響で電子図書館が一気に普及しそう、とのニュースも先日見ました。
出版業界を取り巻く状況は悪くなる一方なのに、編集者の業務量は増える一方。
その悪循環の中、わたしたちが読んでいる雑誌・本は生み出されていると思うと、ひたすらに頭が下がる思いです。
そんな中、わたしたち読者ができることは「本を買うこと」しかありません。
書く人・売る人・買う人がそろい続けていないと、本はいつか消えてしまうのではないか。
そんな危機感を抱かせる小説でもありました。
花緒の感想
大泉洋さんをモデルに書かれた小説が、大泉洋さんを主演に実写化。
その小説を巡るストーリーが面白かったので、興味本位で手に取った1冊でした。
けれども、リアルな出版業界の描写で読み応えは抜群!
物語そのものは読んでいてしんどくなる展開もありましたが、おおむね楽しく読みました。
今、大注目の話題作なので、読んおいて損はありませんよ♪